中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,177話 「対面研修」に戻すのか?「オンライン研修」を続けるのか?

2023年08月02日 | 研修

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「なぜオンラインではなくなったのですか?」

これは、先日弊社が担当させていただいたある企業の対面での1泊2日の中堅社員研修の際に、受講者からかけられた言葉です。この受講者は2年前にもオンラインで研修を受講していただいたことがある人ですが、直接対面したのはこの日が初めてでした。

新型コロナウイルス感染症の5類移行後に、社員研修をオンラインから対面型へ移行する組織が増えてきました。コロナ禍の約3年間、感染状況の悪化等に伴い対面で予定していた研修をオンラインに変更せざるを得ない状況が続いていましたが、本年5月以降はようやく対面での研修に戻ってきています。

この間、私がお会いした受講者の大半は対面での研修に戻ったことを喜んでいるように見受けられますが、一方で宿泊研修に遠方から出席する人は研修前日には会場近くへ移動し、研修終了後も帰途は長く、家に着くのは夜10時を過ぎてしまうという人もいるなど、移動に相当の時間を要しています。移動を含めた拘束時間という点で考えると、対面型の集合研修に出席することは受講者にとって少なからず負担になることは事実です。また、往復の交通費や宿泊費、会場の使用料などコスト面で組織にも大きな負担があることも確かです。

実際、こうした理由から全国各地に支店や工場があるような組織では、対面に戻さずオンライン研修を維持するとしているところもあります。

対面かオンラインか・・・研修に限ったことではありませんが、これまでたくさん議論され、それぞれに一長一短がありますので、どちらが良いと一概に言えるものではありません。しかし、私はこの数か月の間に担当させていただいた研修については、はっきり対面型に軍配が上がると感じています。というのは、公開型の研修はともかく、一つの組織が行う研修においては受講者同士の面識があったり、電話だけでやり取りをしていた人と実際に対面したり、以前の部署で面識があった人と久しぶりに対面ができたりなど、何らかの「縁」がある人との再会ということが少なくないのです。それにより、本来の研修のねらいだけでなく、旧交を温めたり活発に情報交換したりするなど、副次的な効果がもたらされるというメリットもたくさんあると感じているからです。

冒頭の例の研修では、終了後に2時間半ほど懇親会が行われましたが、物足りなかったのか2次会、さらには3次会まで盛り上がったという話を翌朝聞きました。それが幸いしたのか、翌日の研修の演習の話し合いでは前日以上に活発に意見交換がなされ、大きな笑い声が聞こえたりと見ているこちらも楽しい気持ちになるくらい積極的な交流がありました。これは、対面により直接コミュニケーションをとれたことが大きな理由だったのではないかと考えています。

この対面コミュニケーションと物理的な距離とコミュニケーションの頻度の関係については、「アレンの研究」と「ベン・ウェイバーの研究」があります。トーマス・アレン(マサチューセッツ工科大学教授1977年)の「アレン曲線」は、コミュニケーションの頻度と物理的な距離には強い負の相関関係があるというものです。それによれば、約1.83メートル離れた人同士と、18.3メートル離れた席人同士を比較した結果、距離が近い人同士の方がコミュニケーションをとる確率が4倍増えたということです。

このようなことからも、対面研修にはコミュニケーションがたくさんとれるという意味で、オンラインではかなわない良さがあると考えています。

さて、冒頭の対面研修に少々否定的だった受講者ですが、研修終了時には「対面研修でよかった」との感想を伝えに来てくれました。その時の表情が実に晴れ晴れとしていましたので、研修を担当した者としても安堵した瞬間でした。

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第1,172話 研修は受講者にとって必要のないものなのか?

2023年06月28日 | 研修

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「研修、イヤだね。座っているだけの研修ならまだ良いけれど・・・」

これは、先日私が初めて担当させていただいたある組織の監督職研修の開始前に、聞こえてきた言葉です。そのとき私はトイレの個室の中にいたのですが、後からトイレに入ってきた受講者同士の会話をたまたま耳にしてしまったのです。

この受講者の言葉のように、一般的に社員研修はマイナスのイメージを持たれてしまうことが多く、できれば避けて通りたいものという位置づけのようです。研修がマイナスのものとして感じられてしまう理由は様々あると思いますが、一つにはそもそも受講者が研修の必要性を感じていないということがあると思います。

では、その人にとって研修は本当に必要のないものなのかどうか?状況によるとは思いますが、たとえば、受講者にとって本来は必要なものなのに本人がそれを自覚していなかったり、自身はできているつもりになっているものの、実際にはできていなかったりということも少なからずあるのではないでしょうか。それに対して、そうしたことを自身で確認し、あらためて身に付けるように取り組むきっかけとなること。それこそが、研修に求められているものではないかと私は考えています。

しかし、多くの人がマイナスイメージを持ってしまうのには、過去の研修で希望していないのに大勢の前で発表させられたり、それがうまくいかなかったなどの経験があり、結果的に研修が苦痛なものになってしまっているというようなことがあるのかもしれません。

組織にとっては、戦略の達成に向けて必要となる知識やスキルを社員に獲得してもらうための人材育成の一つとして研修を行うわけですが、知識やスキルを得る方法は他にもOJTや自己啓発などもあります。一番影響力があるのはOJTだという調査結果もあることから、研修の成果はただちに目に見えるというものではないのかもしれません。しかし、OJTも万能ではなく伝えきれない部分は必ずあり、それを補完する意味から、また物ごとの原理原則の部分をきちんと整理して提示する意味からも研修は間違いなく受講者にプラスの影響をもたらしているものなのです。

そのように考えると、研修を提供する側の一員としては、1日からせいぜい5日間程度の限られた時間を少しでも前向きな気持ちで過ごしていただくために、どのようにすれば良いのかを考え続け、それを形にして提供していくしかないと思っています。私が人材育成の仕事を始めてから30年以上が経過しましたが、永遠の課題とも言えそうなこのテーマについて今後も努力し続ける必要がありそうです。

さて、冒頭の研修前の話ですが、終了後のアンケートに「グループワークでは、同じ演習に取り組んでも人によって様々な考え方があるのだということを知ることができました。また、チェックリストやロールプレイングに取り組んだことにより、自分の課題を知ることができました。」との記述がありました。研修を担当した者として、彼女の研修に対するイメージが変わるとともに、今後の仕事の一助になったのであれば大変に喜ばしいと感じた瞬間でした。

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第1,168話 他社との交流は、本人が欲すればこそ意味がある?

2023年05月31日 | 研修

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私が研修業界に身を置くようになって30数年が経ちますが、その昔から企業規模の大小に関わらず、他企業と合同で研修を実施したいとの相談をいただくことがあります。他社と合同で研修を実施する目的は、自社とは異なる考え方や価値観に触れることで、様々な刺激を得て今後の仕事に活かしてほしいという願いが根底にあるようです。そのような刺激を受けることはとても重要ですが、実際のところは研修内容、対象者の設定、参加人数や日程など細かい条件を調整することはことのほか難しく、研修が成立するケースはさほど多くありませんでした。

その後、企業を取り巻く状況は大きく変わってきましたが、現在でもときどき「他社との合同研修を希望している」との話を研修のご担当者から聞くことがあります。社員を他社の社員と交流させたいという考え方は、昔も今も変わらずに存在するものなのだと感じます。

言うまでもありませんが、他社の社員と交流する方法は合同研修に限られているわけではありません。企業が社員を交流させる最も身近な方法としては、公開型のセミナーがあります。公開型であれば業種だけでなく、テーマによっては年代が異なる人も多数出席することから、本人が希望すれば休憩時間やセミナーの前後などに、手っ取り早く交流することができます。

私は、定期的に公開型のセミナーを担当させていただく機会があります。毎回、様々な業種や業態の人が参加されることが多いのですが、実際のところ研修のご担当者が希望されるほどには、参加者同士で交流をしている例は多くないと感じています。確かに、一昔前まではセミナーの中で同じグループで演習に取り組んだ人同士が、休憩時間に名刺交換をしている場面を見かけることが結構ありました。しかし、現在は休憩時間はひたすらスマートフォンを操作している人が多く、名刺交換をしているような風景を見ることは極めて少なくなりました。つまりは、セミナーに派遣されている当人は研修のご担当者が考えるほどには他社の人との交流を望んでいないということなのでしょう。そのような場面を見ると、「馬を水辺につれていけても水を飲ませることはできない」という諺を思い出します。本人にその気がなければ、いくら周囲の人間が気をもんだり強制したりしても、さほどの効果は得られないということなのでしょう。

外部からの刺激を得るのは、もちろん対面の研修やセミナーに限ったことではありません。もっと簡単にオンラインでつながることもできますし、SNSでは勉強会などの案内もたくさんあります。

しかし、どのような機会であっても「他からの刺激を受けて自らの成長や改善につなげる」ことは、周囲からお膳立てをされて行うようなものではなく、あくまで本人がそれを必要としているかどうかに尽きるのかもしれません。何事も、まず本人が欲しなければ本当の効果は得られないということであり、研修においてもいかに本人に前向きな気持ちで参加してもらえるか、勝負はそこから始まっているのだと、このブログを書きながら気持ちを新たにしています。

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第1,161話 新人を成長させるには、研修を手厚くすることだけがゴールではない

2023年04月05日 | 研修

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「新人をはじめ、若手社員の成長欲求が高い」

これは、最近の若手社員の特徴を表現する際に使われることが多い言葉です。

私自身も、弊社が若手を対象にした研修を担当させていただいた際に、同様の言葉が異口同音に発せられているのを何度も聞いています。また、まだ入社前にもかかわらず、内定者が「仕事に直結する知識やスキルを身に付けたい」と人事担当者に直接問い合わせをするケースも聞いています。

新年度がはじまり、多くの企業では新入社員研修が本格的にスタートしています。前述のような状況を踏まえプログラミングを学び各自でオリジナルのアプリを作ったり、メニューの一つとしてNPOに参加させたりするなど、成長実感を得られやすいように研修内容の工夫をしているところも多いようです。また、新入社員研修のみならず若手社員の研修に投資する額を従来よりも強化しているところも増えています。

企業が若手社員の教育に様々な施策を取り入れる背景には、少子高齢化により22歳人口だけでなく働き手全体の不足という問題が顕在化してきていることがあります。自社の魅力度を高め積極的にアピールすることで若手をできるだけ採用したい、また採用した人が途中で退職することを極力抑えたいという考えがあるようです。

そのように考えると、成長実感を得られやすくするために従来とは異なるメニューを新入社員研修に取り入れることは、こうした課題を解決する一つの手段として有効な方法だとは思います。

一方で、研修で得られる知識やスキルは、原則論であったり既に答えが用意されていたりというケースもあり、実際にそれらを実務上でしっかり使いこなせるようになるためには、裏付けとなる経験をしっかり積んだ上で、自らのものにしていくための努力が不可欠です。つまり、知識やスキルは短時間のうちに学んだり・練習したりするだけで、すぐに身につき役に立つというものではなく、それだけでは成長にはつながらないということです。

経験を積んでいく過程では、大なり小なりの問題・課題が発生しますから、その都度、それらを解決していく必要があります。その中ではコミュニケーションを駆使して交渉したり、折衝したり、ときには譲歩をしたりするなど、他者と協力し合って時間をかけて一つのことを成し遂げるステップを踏むことになります。その一つ一つこそが成長の糧となり、そこではじめて自身の成長ができるのではないでしょうか。

社員が自らの成長を実感できるということはとても大切なことです。そのために、過去にはない新入社員研修をメニューに取り入れた組織に入社した新入社員は、ぜひ研修に前向きに取り組んでもらいたいです。しかし、同時に研修で学んだことは実務で活用することによってこそ身につくものであること、そのためには様々な経験を時間をかけて積む必要があり、それによって成長が実感できるのだということを、ぜひ念頭に置いてほしいです。

また、研修を提供する人材育成部門の担当者には、新入社員研修で成長実感を得られる研修を提供したからといってそれがゴールではない。今後も組織としてじっくり時間をかけて継続的に育成していくことが大切であるということを肝に銘じていただきたいと考えています。

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第1,157話 性別の表記は必要か否か

2023年03月08日 | 研修

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「男女の表記を入れる必要はありますか?」

これは、私の知り合いの研修講師がある企業の研修で、受講者名簿へ性別の表記を依頼したときに、研修担当者から言われた言葉です。

その講師は今までにそのような質問を受けたことがなかったため、一瞬うろたえてしまい、その場では明確な返答ができなかったとのことでした。

近年、自治体などでは申請書類やアンケート用紙から性別欄を廃止する流れになってきていますので、この企業の研修担当者はそのような考えに基づいて質問をしたのかもしれません。実際、性別を記載することによって無意識の偏見であったり不利な扱いを受けたりするような例も少なくないようですので、その点には十分な配慮が必要なことは確かなことです。

その一方で、性別を伏せることにより、たとえば男女別の統計が取りにくくなりジェンダー不平等の改善をめざす政策立案に影響が出る恐れがあるといった声があります。また、組織における昇進スピードの男女差などの解消のためには、性別のデータが必要になるといった専門家の意見などもあります。

それでは、研修の際に受講者名簿への性別の記載は必要なのでしょうか?

この点については様々な考え方があるかと思いますので、一概にどちらが正しいと決めることはできません。しかし、私自身は自分が担当させていただく研修においては、記載していただきたいと考えています。

弊社が担当させていただく研修では、テーマにかかわらず様々なグループ演習に必ず取り組んでいただくようにしています。その際には、はじめに個人で課題に取り組み、次にグループでディスカッションをしていただく場面を設けています。そのグループ編成の際には極端に議論が偏らないように、できるだけ男女別や年齢、キャリアなどが偏らないようにバランスを意識して、できるだけ多様な意見が出るようにしています。

グループ討議は、グループで取り組むことによって自分だけでは考えつかなかったような見方をすることができたり、人それぞれに様々な意見があることを確認できたりする大切な機会です。メンバー同士で意見交換することでたくさんの気づきを得られることを実感する受講者が多いと感じています。そのためにも多様な考え方や意見に接することができるよう、グループ編成の段階では男女別の記載も参考にしているのです。

同時に、この多様性の大切さについては通常の仕事をしている組織ではなかなか気づけない、仕事を離れた研修という場だからこそ、気づけるという面があるのではないかとも考えています。

今後、様々な組織のみならず世の中全体において、多様性の重要性と、それを受け入れていくことの大切さが認識され、その方向にさらに進んでいくものと思います。私もその動きにはもちろん大賛成であり、その際には決して表面的な対応で終わってしまわないようにしていくことが重要だと考えています。しかし一方では、先述のように多様性を担保するために必要となる情報もあり、その兼ね合いをどうとっていくのか、なかなか難しい問題です。

私が研修講師を始めた頃は、男女別の記入欄があるのが普通の時代でしたが、今後は研修においても多様化に向けた取組みの流れをしっかり見据えながら対応していかなければならないと、あらためて考えています。

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第1,154話 腕組みをするときの心理とは

2023年02月15日 | 研修

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「たくさんの聴講者が腕組みをしていたので、話をしていてとても辛かった」

これは私の知り合いの研修講師が、先日ある企業で管理職を対象に対面で講演をしたときの、受講者の態度についての感想です。受講者は課長や部長を中心に70名ほどだったそうですが、およそ半分の人が腕組みをしていたり、少々ふんぞり返ったような姿勢で椅子に座っていたりしたため、警戒心や威圧感のようなものが感じられ、非常に話しづらかったとのことでした。

 人の話を聴いたり接したりする際に、このように腕組みをする人が少なからずいますが、皆さんはいかがでしょうか?

それでは腕組みをするのは、どういう心理状態のときなのでしょうか?様々な理由があるかと思いますが、まず考えられるのは相手を警戒しているときや拒絶したいとき、自分を強く見せたいときなどがあります。ほかにも、自分を強く見せたいということもあるかもしれません。中には腕組みが癖になっていて、無意識にしている人もいることでしょう。

日本では大手の企業に限らず、新興の企業であっても、また外国の企業であっても、年齢にかかわらず社長が腕組みをしている写真がホームページに使用されていることが少なくありません。これはまさに「自分を強く見せたい、自信があることを伝えたい、自分をアピールしたい」ことの現れなのだと思います。そして、私のこれまでの経験からすると、腕組みをする人はどちらかというと女性より男性に多いように感じています。

 このように、腕組みをする際の心理について私は以前から疑問に感じていましたので、先日臨床心理士として50年にわたり活躍されている知り合いにその点を尋ねてみました。それによると、腕組みをする人の心理には、ずばり相手への「防衛」があるとのことでした。防衛する気持ちが働く結果、自分を強く見せたいときや相手を拒絶したいときに腕組みをすることになるのだそうです。

 そう考えると、先述の知り合いが講演会の講師を担当した際に、多くの管理職が腕組みをしていたのは「自分を指名したりしないように」、「自分たちのような管理職という立場の人にわざわざこのような話を聴かせるなんて時間の無駄だ」というように、研修を少々ネガティブに捉える中で防衛本能が働いた結果なのかもしれません。

反対に、たとえば入社試験の面接に臨むときや営業パーソンが顧客と面談するようなときには、結果を得るためにも自ら積極的に取り組むことになりますので、腕組みをするようなことはまずないと思います。

研修に携わる者にとっては、いかにして「受講者が腕組みをしない」ような研修を行うことができるのかが、大きな課題と言えるのかもしれません。

たかが「腕組み」されど「腕組み」。腕組みをすることが多いなと思う人は、一度自分はどういうときに腕組みをするのか、そのときの自分の心理状態を探ってみていただきたいと思います。

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第1,152話 「楽しい」と感じられ成果も上がる指導法とは

2023年02月01日 | 研修

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本日(2月1日)の朝日新聞の朝刊はスポーツ面と教育面の2面で、暴力による運動部活動やスポーツ指導を取り上げていて、行き過ぎた指導が今も続いているとのことです。私自身も自宅の近隣の公園を散歩しているときに、野球の試合を終えた少年を前に監督と思しき人が試合中のプレーを問い詰めている場面に出くわしたことが何度もあります。そのような場面に遭遇すると、私自身が問い詰められているわけでもないのに居たたまれないような気持になり、足早にその場を立ち去っています。

なぜスポーツの世界で行き過ぎた指導が起きてしまうのでしょうか。原因は様々あるのだと思いますが、その関連で1月28日の朝日新聞では、「脱スパルタ」指導で春の選抜高校野球大会に12年ぶりに出場する東北高校のことが取り上げられていました。

かつてプロ野球の巨人軍でプレーした佐藤洋監督が丸刈りをやめる、アップ練習のときは部員の好きな曲をスピーカーで流す、練習メニューは各ポジションのリーダーらが自ら決める、ジャンピングスローを解禁した、練習風景をインスタグラムに投稿するなど、「楽しい野球」を大事にした指導を行っているそうです。

このように具体的に指導を変更したのは、自身の「怒られるのが当たり前」の指導を受けてきて「楽しいわけがなかった」経験を踏まえているのだそうです。厳しい指導に耐え抜くのではなく、野球を始めたころの楽しさを取り戻すということがねらいとのことです。

「怒られるのが当たり前」のような指導はスポーツに限ったことではありません。こうしたネガティブな指導による恐怖感によって取り組ませるのではなく、「楽しい」と感じさえる指導は、とても大切なことであり、同時に合理的であるとも思うのです。同じ時間でも楽しいと感じているときの方が有意義に感じられるわけですし、その反対もしかりです。

実際に「楽しい」と感じているときには、幸福物質であるドーパミンが出ていると言われています。ドーパミンは意欲や動機・学習に重要な役割を担っていて、仕事や勉強、スポーツを楽しんでやることによりドーパミンが分泌され、モチベーションがアップしてさらに意欲的に取組もうとするのです。

私は、仕事においても同様のことが言えると考えています。たとえば、上司が部下の指導する際に檄を飛ばしても部下がなかなか伸びない、成長しないとしたら、一度自身の指導を振り返ってみることが必要ではないかということです。

以前、ある企業で上司が部下の営業パーソンに一人ずつ顧客の訪問件数を発表させ、訪問件数を少ない人を叱咤する場面に居合わせたことがあります。その後、叱咤された営業パーソンは顧客への訪問件数こそ増えたものの営業成績は上がることはなく、やがてはやる気を失い結局は退職してしまったそうですが、これでは本末転倒です。

もちろん、「楽しい」と感じさせることだけを指導の目的にしてしまっては、スポーツでも仕事でも結果に結びつけることはなかなか期待できないわけです。しかし、少なくとも「楽しくない、面白くない、逃げたい」という気持ちからは、決して良い成果は生まれないということなのではないでしょうか。

このことは、弊社が提供している研修やセミナー、コンサルティングにおいても同様です。今後も「楽しい」と感じられ成果も上がる指導法を目指してしていきたいと考えています。

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第1,142話 ユーモアは言えた方がよい?

2022年11月16日 | 研修

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「ユーモアで周囲を和ませることによって、プラスの影響力を発揮したい」

これは、弊社が管理職研修を担当させていただく際に聞くことが多い言葉です。管理職研修では個々が目指すリーダー像について言語化していただくことがありますが、その際に出てくることが多いキーワードの一つに、ユーモアがあります。ユーモアをさりげなく言えるようになり、笑いによって周囲をリラックスさせたいとのことです。

ユーモア(humor)とは「湿ったもの、体液」という意味のラテン語から派生した言葉のようですが、「上品な洒落や、おかしみ」のことを言います。確かに、ユーモアがある人が周囲にいると場が和むということはあると思いますので、ユーモアはないよりもあった方がよいとは思います。一方で本来の意味のユーモアを言うのはそう簡単なことでもなく、またそれにこだわりすぎてはいけないようにも考えています。

今年の9月に、東洋経済新報社より「ユーモアは最強の武器である」という書籍が出ていますが、新聞の広告によると「ユーモアは結果を出す技術だ!」とのタイトルがつけられています。たちまち4版になっているとのことからも、ユーモアを身に着けたいと考えている人が相当数いるということが想像できますが、タイトルに「技術」と入っていることにも興味を惹かれました。

それでは、ユーモアはどのようにすれば身につき、さりげなく言えるようになるのでしょうか?知識や語彙の量は関係しているとは思いますが、それだけが全てではないでしょうし、人の話を一生懸命に聴けばよいというものでもないのではないとも考えています。

私は、ユーモアは運動神経などと同様に持って生まれたセンスによるところがあるのではないかと考えていて、努力や練習だけで身に着けるには少々難しい面があるようにも。同じユーモアを聞いても「クスッ」と和む人がいる一方で、全く響いていないような人がいたりします。笑いに対する反応は怒りなどのマイナス感情と比べて個々の感性、感じ方の振れ幅による部分が大きく、笑いの感じ方が似ている人だとより「受ける」のではないかと感じています。ユーモアによって人を笑わせたり和ませたりするためには、多くの人に理解してもらえた上で、かつ、ひねりも効いたものである必要があることから、そこを的確にとらえるのはやはりある程度のセンスがあったほうが良いように私は思います。

それにもかかわらず、とにかく笑わせて周囲を和ませようと無理してユーモアを連発した結果、逆効果になってしまうことも少なくないのではないでしょうか。

現に、私の周囲にダジャレを含めてユーモアを頻繁に言う人がいます。本人は場を盛り立てようとしていることはよくわかるのですが、その結果あまりおかしくないときでも、無理して笑わなければいけないように感じられてしまうときがあります。その結果そのユーモアが少々負担に感じられてしまうのです。そうすると、コミュケーションをとることそのものがやっかいに感じられてしまうようなときさえあるのです。

ユーモアを言う狙いには「良好なコミュニケーションを助ける」という意味合いが大きいと考えていますが、ユーモアだけにこだわりすぎて無理をした結果、コミュニケーションがおろそかになることを招くことにはならないように、どうか気を付けていただきたいと思うのです。

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第1,140話 「仕組みにする」は魔法の言葉?

2022年11月02日 | 研修

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「仕組みにすればよい」

組織において物事がうまく回らなかったり、何らかの問題が生じたりするときなどに、その解決の手段として使われることが多いのが、この言葉です。弊社が問題発見・課題解決研修を担当させていただいたり、中小企業でコンサルティングを担当させていただいたりする際にも、聞くことがとても多いと感じています。

また、新聞の記事などでも、物事がうまく回っていない状態を改善する方法として、「仕組みにすることが大切」という趣旨の識者の話が載せられていることが多いようにも感じます。

それでは、「仕組みにする」とは何をすることなのでしょうか?「仕組み」という言葉を辞書で調べてみると、「ものごとの組み立てられ方、構造、機構」とあります。組織において「仕組みを作る」ことの狙いの一つには、異動や退職によって人が変わることがあっても、いつでも、どこでも、誰が行っても同じ成果を出せるシステムを構築するということがあると思います。この意味合いからも、仕組みにすることが大切であることがよくわかります。

では、仕組みが整っていないとどういうことが起きてしまうのでしょうか?

まず、仕組みになっていないと仕事が属人化しやすくなってしまいます。特定の人しかわからない業務ができてしまったり、仕事のやり方が改善されず効率が悪くなったりします。また、特定の人に業務を固定化した結果、他の人が新たな業務にチャレンジできず成長の機会を得られなかったり、状況によっては不正が生じやすくなったりすることにもなりえます。

そのように考えると、「仕組みにすること」自体はとても重要なことだということがよくわかります。しかし、一方で「仕組みを作り、運用し、定着させる」ことには相当のエネルギーが必要となることも事実です。このため、掛け声だけで仕組みが定着するようなことはないわけです。しかし、冒頭の言葉のように「仕組みにする」という表現は非常に聞こえがよいことから、あたかも魔法の言葉のように、問題の解決策として万能であるように捉えられてしまうことがあります。

実際、弊社が行う公開セミナーのタイトルの一部に「仕組みにする」という表現を入れると、どこの組織でも使えるようなパッケージになっている仕組みを紹介してもらえると過大な期待をされてしまうことがあります。しかし、残念ながら現状ではそのようなものは存在しないのです。

それでは、仕組みを作り定着させるためには、どうすればよいのでしょうか?

それには、メンバー全員でアイディアを出しながら、5W1Hで具体的な行動を決めて日々共有し続けるという、ある意味では地味とさえいえるような作業をコツコツとやり続けていくことが大切です。

仕組みにすることは、前述のとおり大切なことですから、私自身も今後も推奨していくつもりです。同時に「仕組みにすること」は魔法のように一瞬にして物事に大きな変化をもたらすことではなく、地道な努力が必要となるものであることもしっかりお伝えしていきたいと考えています。

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第1,138話 あなたの声は届いていますか?

2022年10月19日 | 研修

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「聞き取れなかったので、もう一度お願いできますか?」、「もう少しだけ声のボリュームを上げていただけますか?」

これは、弊社が対面での研修を担当した際に受講者にかけることが多い言葉です。コロナ禍も既に2年半が経過しますが、この間大きな声で話すこと自体を控えざるを得ない状況が続いていました。何よりも声がマスクで遮られてしまうために、より聞き手に声が届きにくくなってしまっているのです。

先日担当させていただいた研修は20代半ばの受講者が中心でしたが、「はい、いいえ」に限らず全員の前で発表していただくときも声が非常に小さかったため、やむを得ず途中からマイクを使用してもらうようにしました。その結果、多少は改善されたものの、まだ十分には聞き取れなかったため、研修担当者にマイクのボリュームを上げてもらい、ようやく聞こえるようになったのでした。

また、新入社員採用試験で集団討議のアセスメントを担当させていただく際にも、繰り返し声のボリュームを上げてほしいと声をかけざるを得ないときがあります。日本人はもともと諸外国と比べると声が小さいと言われているようですが、中でも私は相対的に最近の若い人に声の小さい人が多いと感じます。

私がコミュニケーションがテーマの研修を担当させていただく際には、冒頭で「聞き手に声が届かなければコミュニケーションは取りにくい」という話を必ずします。次に「あなたは日常生活の中で、相手から聞き返されることが多いと感じますか?」と質問すると、最近では受講者の一部しか手を上げないことが多いのです。客観的には多くの人が相手に声が届きにくい状態であるのにもかかわらず、本人はそれほど問題意識を持っていない人が多いことが少々気になります。

それでは、特に最近の若い人たちの声のボリュームが小さいことには何が理由があるのでしょうか?これに関して、以前試しに数人の受講者に質問してみたことがあります。その際の回答としては「研修などで多くの人を前にすると気後れしてしまい声が出ない」、「自分の発言に自信がない」、「そもそも声の大きさについて気に留めたことはない」、「大きな声を出そうと思っても出ない」など様々な答えを聞くことができました。

しかし、コミュニケーションが成立するためには、お互いが話していることが相手にきちんと伝わることが必要なのは言うまでもないことです。

私はこの点に関しては、既に10年位前から気になっていましたので、コロナ禍の前の新入社員研修での挨拶の練習時に、声量(音量)を測定したこともあります。その後も研修の中で腹式呼吸の練習をし、ボイストレーニングを経て声のボリュームを上げていただくようなことをすることもあります。

コロナ禍でそうした練習をしづらい現在、声のボリュームを大きくするためには、まずは自分自身の「声」に関心を持ってもらうことが必要です。さらにコミュニケーションにおいては必要以上に大きな声を出す必要はないものの、聞き手にしっかり声が届くことが大前提であるということを改めて理解していただきたいと、まさに「声を大にして」お伝えしたいと思います。

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