中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

人材育成に役立つ情報を発信しています。

第1,254話 一方的に「伝える」のでなく、確実に「伝わる」ためにどうすればよいのか

2025年02月26日 | 研修

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

情報を他者に正確に伝え共有することは容易でないことは多くの人が感じているところかと思います。しかし、必要な情報が共有されなかった結果、大きなトラブルにつながってしまうことは珍しくありません。それを避けるためにも、特に共有されないとリスクを生じるような情報に関しては、伝え方を工夫したり、繰り返し複数の手段を用いたりするなど伝え続けることが必要です。

そのためには大変なエネルギーが必要となるほか非効率のように感じられることがあるかもしれませんが、情報が共有されなかった結果発生してしまう弊害などの大きさを考えれば、この点を疎かにしないことが重要だと先日改めて感じる機会を得ました。

2024年8月、宮崎県沖で発生したM7.1、最大震度6弱を観測した地震では、その後南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表されました。その後も周辺のみならず、様々な地域で大きな地震が繰り返し発生しています。

そうした中で、発生が間近に迫っているのではないかと言われているのが南海トラフ地震です。この地震はこれまでにも100年に1回程度の頻度で起きていて、そのたびに大きな被害をもたらしているそうですが、専門家によると次の南海トラフ巨大地震が起きる時期は科学的には相当の精度で予測されていて、2030年代とのことです。

一方で、政府の地震調査委員会からは、「発生確率は30年以内に80%程度」と発表されています。この「30年以内に80%程度」という表現は少々漠然としているところがあり、実際のところどの程度切迫しているものなのか、私自身は今一つ実感がわきにくく、具体的な行動に結びついていないのが現状です。

これに関して、先日京都大学の鎌田浩毅名誉教授が2023年に行った講演会「南海トラフ巨大地震に対する知識と心構え『地学』を学んで賢く生き延びる」の動画を視聴する機会がありました。鎌田教授の講演は(話に飽きないように)工夫されていて面白おかしく、かつとても分かりやすく話されているのですが、特に私が参考にしたいと感じたのが「伝え方」に関するところです。

鎌田教授は先述のとおり南海トラフ地震が次に発生した場合にも甚大な被害が予想されていることから、情報を発信し、注意と備えを呼び掛けています。そうした中で、以前ある講演会で前述の「発生確率」で説明をしたところ、参加者のある経営者から次のように言われたとのことです。「先生、確率アカンで。わしらは「納期」と「納品量」にしないと、人は動けまへんで」。これはたとえば「おまんじゅうを70個、30日後に持ってこい」というようなことなのですが、この一言に鎌田氏は「あっ!」とひらめいたのだそうです。

つまり、「30年以内に80パーセント程度」と言われても、多くの人にはなかなか伝わらない。そのためには納期=時期と、納品量=規模で伝えることが必要だと思われたとのことで、それ以降鎌田教授は「2035年プラスマイナス5年(=時期)に、3.11より一桁大きい(=規模)地震が発生する」と伝えるようにされているのだそうです。

これほどの大地震から被害を少しでも抑えるために、一人一人が今どのような状況にあるのかを正しく認識して、「いざ」に対して今から備えをしておくことが大切だということへの理解が深まりました。

弊社でも様々な研修を担当させていただく中で、これまでも「伝える」だけでなく「伝わる」ことが大切だとお話をしてきていますが、鎌田教授のお話をとおして、相手に一方的に「伝える」のでなく、確実に「伝わる」ためにどうすればよいのか、相手のことを考えながらいろいろな工夫をして情報を発信することが大切だと改めて感じています。

お問い合わせ【株式会社人材育成社】 

人材育成社のホームページ


第1,253話 大組織の人事部長や役員が社員のことを知るには

2025年02月19日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「人事部長や役員は、社員のことをどれくらい知っているのだろか?」

私が様々な企業などで仕事をさせていただく際に、時々こうした疑問を持つことがあります。一般的に、組織の規模が大きくなればなるほど、部長や役員のような上位の役職の人が社員との接点を持つ機会は少なくなります。そのため多くの場合、部長や役員は特に優秀な社員や少々問題を抱えているような社員などの情報に接することはあっても、それ以外の多くの社員については売上数字や人事評価など以外の情報を把握することは滅多にないと考えています。

そのような組織が多い中で、私が毎年担当させていただいているある組織のA氏は7,000名を超える大きな組織の役員であるにもかかわらず、こちらが驚くほど個々の社員のことを把握されているのです。A氏とは毎年管理職昇任試験で、面接官としての立場で1週間ほどご一緒させていただいているのですが、A氏はいわゆる人事データだけでなく、本人の適性や学生時代の専門、趣味や家族構成にいたるまで非常によくご存知なのです。

以前、「どうしてそんなにたくさんの社員の細かいところまでご存知なのですか?」と尋ねてみたところ、「人事部にいたからですよ」と返答をされたのですが、その組織の別の方がおっしゃるには、A氏が人事部に所属されていたときには、少しでも時間ができると様々な職場に足を運んでよく社員に声をかけていたとのことでした。そして、そのようなときにはじっくり会話することはできないまでも、頻繁に接点を持つことができることから、A氏がとても身近な存在であると感じられていたとのことです。そして、それは役員となった今でも活きているのだと思われます。

人事部の使命として、社員をよく知るために現場に足を運ぶことが大切だということはよく言われることですが、それは同時に個々の社員の側にとっても人事部という存在が身近に感じられるようになり、信頼感が増すということにもなるのではないかと考えます。

では、そうした中で人事部の部長や課長が現場を訪れたら、それにはどのような効果やメリットがあるのでしょうか。まずは社員から直接話を聴くことにより、インフォーマルなものも含めて「生きた情報をダイレクトに得ることができる」ということがあります。その結果、様々な課題をはっきり浮きあがらせることができます。同時にこれまでは関りが少なかった社員との距離感を縮めたりすることもできるため、よりストレートに具体的な組織戦略の企画・立案、人事異動を含めた人事施策の一助にすることができるのではないかと思います。

このように、人事部の管理職が現場に足を運ぶことには多くのメリットがあります。それに加えて先述のとおり昇任試験の面接をする際にも通り一遍のやりとりにとどまらず、個々の相手に応じた質問をすることで、より深く相手のことを知ることができ、その結果適切な評価ができるのではないかと考えます。

人事部の部課長が現場を訪れるということは、そのための時間の捻出からして簡単なことではないかもしれませんが、組織で最も大切な存在である個々の社員を知るうえで最も大切なことではないだろうかと考えています。

お問い合わせ【株式会社人材育成社】 
人材育成社のホームページ


第1,252話 自身の弱みや短所を言えますか

2025年02月12日 | キャリア

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「慎重なところです」

弊社では管理職昇任試験の面接官の仕事を担当させていただくことがありますが、その際に受験者の長所や短所について質問することがあります。

先日担当させていただいたある企業の面接の際にも何度かその質問をしたのですが、それに対して複数の受験者が自身の短所として答えたのが「慎重なところ」でした。

昇任試験の面接に限らず、様々な場面で自分の弱みや短所をどのように言い表すのかは、強みや長所を伝えるときと比べると難しいように思います。それは、弱みや短所について話すことは自分のマイナスな面を敢えて伝えることになってしまい、面接官の自身に対する印象が下がる原因になってしまうのではないかと心配になるというのも、その理由の一つなのかもしれません。

それだけに、いかにマイナスな印象にならないように伝えられるかについて、インターネットなどで情報収集をする人も少なくないと思います。こうして得た情報で短所として挙げられていたのかどうかはわかりませんが、先日私が担当した面接試験での受験者の回答で圧倒的に多かった短所が、冒頭の「慎重なところ」でした。

そこで、慎重さがどのような場面で短所として問題になったのかを具体的に説明してもらうために続けて質問したのです。そのときに多くの受験者が答えたのは「リスクを事前に把握し、それを防ぐための対策を講じる」や「確認作業を徹底し、細部にまで目を配る」などでした。しかし、それは短所というよりは、むしろ長所なのではないかと考えられるようなものであり、結局面接の終了までに弱みが明確にならない人もいたのでした。

面接に限ったことではないかと思いますが、自分の短所を他者に伝えるということには、前述のとおり誰でも抵抗があると思います。一方で、昇任試験で自身の短所を具体的に表現することができないというのも、それはそれで問題だと言わざるを得ません。

以前、別の機会に私が昇任面接を担当させていただいた際に、自身の短所を「気性が激しいところ」と答えた受験者がいました。一般的にはマイナスと捉えられがちな「気性が激しい」という表現をした受験者に具体的なエピソードを尋ねてみたところ、その受験者は「職場の問題に対して自身が率先して先頭に立ち、解決に取り組んだ」という話を紹介してくれました。それを聞いた私は、そのような場面では強い意志を持って臨むことが必要であり、問題解決に率先して取り組んだという点に、本人の言う「気性が激しい」というよりも、「意志と責任感が強い」という印象を受け、好感を持ったということがありました。

このように、人の弱みや短所、強みや長所というものは表裏一体とも言えるようなものであり、状況によって強みにも弱みにもなり得るのではないかというように私は考えています。

話を戻しますと、「自身の短所を話すことには、やはり抵抗がある」という人は、試しに「短所は改善できるポイントであり、短所=成長のチャンス」というように考え方を変えてみるとよいのではないでしょうか。前述のように、自分の短所をオープンにすることで面接官からの信頼を得られ、同時に自分の弱みを話せるのは自分を客観視できているという評価を得られるかもしれません。

さて、あなたは自分の短所をどのように捉えているでしょうか?もし思い当たるものがあるのなら、視点を変えてそれを成長のチャンスと考えてみてはいかがでしょうか。

お問い合わせ【株式会社人材育成社】 

人材育成社のホームページ


第1,251話 置物の管理職になってはならない

2025年02月05日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「私は課長のことを内心、『置物』だと思っています」

これは、私がある組織の管理職昇格試験の面接官を担当させていただいた際に、受験者のAさんから聞いた言葉です。

面接でのやり取りによると、Aさんが管理職を目指すようになった理由は「職場環境を変えたい」と思うようになったからとのことでした。Aさんの職場には様々な問題があるそうなのですが、それを解決すべく上司である課長に働きかけても、どういうわけか課長は何もしようとしないのだそうです。そうしたことが何度も続いたため、Aさんは上司をまるで「置物なのでないか」と思うようになったとのことでした。

改めて置物の意味を広辞苑で調べてみると、「神仏や床の間などに装飾として置く物。(比喩的に)ある位置についてはいるが、実績・実力のないもの。飾り物」とあります。

これらから考えると、Aさんがいう「置物のような管理職」とは、「部下を管理する能力や組織の目標達成に貢献する能力が不足していて、業務の進行に支障がでるような人。問題が目の前にあって部下が困っているのにもかかわらず、動かない、何も決定しない、指示を出さない、責任を取らないような人」を指しているのだと思います。

こうした置物のような管理職では、事態は何も変わらない。そこでAさんは「上司がそのように動かないのであれば、私が何とかしなければ」と考え、一念発起して管理職昇任試験にチャレンジしたということでした。

では、なぜ置物のような管理職がそのポジションに居る(居続けられる)のでしょうか。

もちろんその理由は様々あるでしょうし、組織や部署によっても違うだろうとは思います。しかしAさんの組織では、既に20年以上も前から管理職になるためには自ら希望して昇任試験を受けて、それをクリアしなければならない制度があるのです。そため、Aさんの上司も決して年功序列だけで管理職になったわけではなく、「自分はこのような管理職になりたい。組織をこのようにしていきたい」などの強い思いをもって管理職試験にチャレンジし、晴れて合格に至ったという経緯があるはずなのです。

それにもかかわらず、その上司に一体何が起こり今の置物のような管理職になってしまったのか、その理由は知る由もありません。しかし、そういう人が管理職として居続けることは本人はともかく、部下をはじめ周囲の人間にマイナスの影響を及ぼしてしまっているわけで、やはり問題と言えます。

それでは、このように元々は志高く管理職になったのにもかかわらず、その後に置物のようになってしまった場合に、組織は一体どのように対応すればよいのでしょうか。正直なところケースバイケースであり、これに取り組めば大丈夫といった解決策を見い出すのは簡単ではないだろうと思います。

とはいえ、組織である以上組織としての対応が必要になるのは当然のことです。まずは月並みではあるものの、さらに上位の管理職(今回のケースでは部長)から本人に直接話をして原因を確認し、かつてのモチベーションを取り戻すべく、自らが可能な限りの改善を図るように促すことが大切であると考えます。

その結果として、モチベーションやパフォーマンスに改善が見られないのであれば、最終手段として役職を見直し、本人のキャリアにとっても適切なポジションを検討せざるを得ないのではないでしょうか。

「置物」のような上司が上にいたら、その影響を直接受けるのは部下です。厳しいようですが、組織としては求められる職責を果たそうとしない、果たすことができないような置物を何もせずに放置してしまうということは、断じて避けなければならないのです。

お問い合わせ【株式会社人材育成社】 

人材育成社のホームページ