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日銀副総裁が答える「日本で物価が上がらない理由」

2017年08月13日 | コンサルティング

2013年、日本銀行は沈滞する日本経済に対する施策として、物価安定(上昇)目標を2%と定めたインフレターゲットの導入を決めました。インフレターゲット(inflation targeting)とは、政府・中央銀行が物価上昇率(インフレ率)の目標を定め、それに収まるように金融政策を行うことです。しかし、昨年11月、日銀は2%目標の達成時期を「2017年度中」から「18年度ごろ」に延期するなど、目標達成はまだ先のようです。

日銀の中曽副総裁は、物価や賃金が上がらない現状について「日本企業はコストの増加をビジネス・プロセスの見直しや、自動化など、生産性の向上で対処してしまうため、価格に転嫁されにくいからだ」※1と述べています。つまり、企業は生産性をどんどん向上させてしまうので、製品価格に転嫁されず、物価上昇が起こらないのだというわけです。

多少経済学の知識がある人ならば、この理屈が理論的に正しいことが理解できるはずです。

中曽氏にしてみれば「企業が生産性を上げる努力などしないで製品の値段を上げていれば、日銀の設定した物価上昇率2%が達成され、日銀としての面目が保てたはず」と言いたいのでしょう。企業の生産性向上の努力が、日銀の面子をいたく傷つけてしまったようです。

一方で、政府は「働き方改革」の旗のもと、企業に対してもっと生産性向上を実現せよと迫っています。日銀か政府か・・・うーん、どうしたらいいのでしょう。悩みますね。

さて、中曽副総裁は「企業は生産性をどんどん向上させてしまう」とぼやいていますが、具体的にどのようなことを行っているのでしょう。「ビジネス・プロセスの見直しや、自動化など」と言っていますが、具体例は挙げていません。

一部分にしか過ぎないかもしれませんが、「大企業の仕事を引き受ける中小企業(下請け)がしわ寄せを受けている」という報道もあります※2。たしかに、従来どおりの成果を上げつつ残業規制を行い、様々なコストカットを実行すれば企業の生産性は向上します。

ただし、あくまでも「企業の中の仕事を効率化」することが条件です。従来どおりの仕事のやり方を続けながら「残業禁止!」となれば下請けにお願いする部分が増えることは必然です。

その際、下請け企業がその分請求金額を増すことができれば、必然的に発注側のコストが増加し、最終的には製品価格に転化されることになります。結果として2%のインフレ率は達成できるはずです。

もちろん、公正な取引のルールを守りながら生産性向上の努力を続けている企業もたくさんあります。しかし、中曽副総裁が「価格に転嫁されない」と明言していますから、結局は下請けが吸収している部分も多いのではないでしょうか。私の(狭い)体験でも「無理を承知で受けないと切られますからね」といった中小企業の経営者の声を耳にします。

中曽副総裁は、日本の社会が「賃金や物価が上がりにくいことを前提にした考え方が根強く残っていることが原因」と指摘しながらも「こうした状況はいつまでも続かない」と言っています。

しかし、それは楽観的に過ぎると思います。おそらく、日本経済の大部分を支えている中小企業という存在について、いまひとつ実感が湧かないのでしょう。

政府や日銀の要職に就いておられる方々の経歴を見ると、それがわかるような気がします。

人材育成のホームページ)

※1「日本で物価が上がらないのは、生産性を上げてしまうから」ってホント? 

※2 <働き方改革>「残業しわ寄せ」に苦しむ中小企業の対応