わが家の犬は社会性に欠ける。よそで出会う犬には見境なく吠える。動物が話せたらどんなことを言っているのか考えることがある。わが家の犬が見境なくよその犬に何と言っているのか聞いてみたい。おそらくこんな感じだ。
「オレの道だ、オレの道だ、オレの道だ」
「オレの公園だ、オレの公園だ、オレの公園だ」
「オレの家だ、オレの家だ、オレの家だ」
そのたび私は、「お前の道じゃないから」とか「お前の公園じゃないし」と言うことになるだろう。今なら、「こら、ワンワン言うんじゃない」などとワンパターンで済んでいるが、話せるとなるとかなり対応にも幅が出る。
猿が町に現れたというニュースが続いた後、熊や猪などが人に噛みついたというニュースが目立った。猿や熊や猪は何と言っていたのだろうか。話せないばかりに猟師の鉄砲ではかない命を失った者も多い。彼らの大半は「腹減った、何かないか。腹減った、何か食べさせてくれないか。腹減った、おいしそうな匂いがするな」と食べ物のことを話していたのだろう。親子でやってきた熊たちは、母熊が子熊に「人間はやさしいから、きっと何かおいしいものをくれるわよ」と言い聞かせて来ていたかもしれない。人間の住むエリアにむやみに現れてはいけないという古くからの言い伝えが正しかったことを猿も熊も猪も再確認したことだろう。うまく生き延びて山に帰って行った動物たちは、肩を落として「やっぱりな。そうだよな」とつぶやいていたことだろう。
哺乳類だけでなく爬虫類や昆虫も何か話したらおもしろい、と思うことがある。わが家の玄関に出没するヤモリは爬虫類だ。夜、玄関にたどり着くと壁に貼りついたヤモリが少年のような声で「お、やべ、帰って来やがった」などと言いながらシュルリと見えない闇に消えていく姿を見送ることになるかもしれない。そのたび「おかえりと言えないのか、おかえりと」などと毒づきながら玄関の扉をあけることになるだろう。
蚊がしゃべったらいやだ。ただでさえあの羽音がしゃくに障るのに、耳元で「ぷ~ん」などとささやかれた日には、目の前のパソコンをなぎ倒してでも蚊の殺戮に全精力を傾けることになるに違いない。ゼエハア言いながら立ち尽くしている耳元で「カカカッ」などと笑われようものなら家に火をつけてしまうかもしれない。蚊がしゃべるのだけはやめてもらいたい。
「もやしもん」というマンガがある。なんと菌が話すという物語だ。農学部の学生がひとり、なぜか菌の姿が見え話が聞けるという不思議な力を持っている。菌たちの人間に対する脅し文句がいい。「醸(かも)すぞ」という。何やらかわいい菌たちが描かれている。おしゃべりで自己主張の強い菌たちが至る所で人間の生活を支えてくれていることがわかるありがたいマンガだ。
話したことがないものと、たまには話してみるのも悪くない。世界が広がる。
monipet
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横浜に拠点を置くソフトウェア開発・システム開発・
製品開発(monipet)、それに農業も手がけるIT企業
「オレの道だ、オレの道だ、オレの道だ」
「オレの公園だ、オレの公園だ、オレの公園だ」
「オレの家だ、オレの家だ、オレの家だ」
そのたび私は、「お前の道じゃないから」とか「お前の公園じゃないし」と言うことになるだろう。今なら、「こら、ワンワン言うんじゃない」などとワンパターンで済んでいるが、話せるとなるとかなり対応にも幅が出る。
猿が町に現れたというニュースが続いた後、熊や猪などが人に噛みついたというニュースが目立った。猿や熊や猪は何と言っていたのだろうか。話せないばかりに猟師の鉄砲ではかない命を失った者も多い。彼らの大半は「腹減った、何かないか。腹減った、何か食べさせてくれないか。腹減った、おいしそうな匂いがするな」と食べ物のことを話していたのだろう。親子でやってきた熊たちは、母熊が子熊に「人間はやさしいから、きっと何かおいしいものをくれるわよ」と言い聞かせて来ていたかもしれない。人間の住むエリアにむやみに現れてはいけないという古くからの言い伝えが正しかったことを猿も熊も猪も再確認したことだろう。うまく生き延びて山に帰って行った動物たちは、肩を落として「やっぱりな。そうだよな」とつぶやいていたことだろう。
哺乳類だけでなく爬虫類や昆虫も何か話したらおもしろい、と思うことがある。わが家の玄関に出没するヤモリは爬虫類だ。夜、玄関にたどり着くと壁に貼りついたヤモリが少年のような声で「お、やべ、帰って来やがった」などと言いながらシュルリと見えない闇に消えていく姿を見送ることになるかもしれない。そのたび「おかえりと言えないのか、おかえりと」などと毒づきながら玄関の扉をあけることになるだろう。
蚊がしゃべったらいやだ。ただでさえあの羽音がしゃくに障るのに、耳元で「ぷ~ん」などとささやかれた日には、目の前のパソコンをなぎ倒してでも蚊の殺戮に全精力を傾けることになるに違いない。ゼエハア言いながら立ち尽くしている耳元で「カカカッ」などと笑われようものなら家に火をつけてしまうかもしれない。蚊がしゃべるのだけはやめてもらいたい。
「もやしもん」というマンガがある。なんと菌が話すという物語だ。農学部の学生がひとり、なぜか菌の姿が見え話が聞けるという不思議な力を持っている。菌たちの人間に対する脅し文句がいい。「醸(かも)すぞ」という。何やらかわいい菌たちが描かれている。おしゃべりで自己主張の強い菌たちが至る所で人間の生活を支えてくれていることがわかるありがたいマンガだ。
話したことがないものと、たまには話してみるのも悪くない。世界が広がる。
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