AI再考

　本屋に行くと一般書のコーナーに新しいAI（人工知能）関連の書籍が多いことに驚かされる。1980年代にもAIのブームがあったが、専門家向けの本が多く、これほど一般の人向けの本が出版されることは無かった。時代が進んで人工知能が現実味を増してきていることと、装置技術も高度化してきているので人間のような頭脳を持ったロボットをイメージしてAIを理解して関心が高くなっているのかもしれない。

　技術の進歩は家事に奪われる時間から多くの人を開放し、生活に時間の余裕を作って、より多く学ぶための時間や純粋に楽しむための時間を作り出してきた。家事の多くは電化製品によって支援される以前と比べると大幅に時間短縮されている。レトルト食品で済ませてしまおうと考えれば電子レンジと組み合わせて料理の時間など無いに等しい時間で準備ができる。

　ただし、いざ買ってきた材料を基に手作りで料理しようとすると、今のところ勝手に作ってくれる装置を電気屋さんで買ってくることはできない。とはいえ台所を新しい「システムキッチン」に入れ替えれば小さな自動車工場のような複数のロボットアーム付きの調理台が、冷蔵庫にある食材でできる最善の料理を作ってくれるようになる日もそう遠くない。ロボットに頼まないで自分で作りたい時のためにロボットアームが簡単に天井近くに収納できる仕組みが出来れば、学ぶ時間が欲しかったり忙しかったりする時はロボットに頼み、楽しみの一つとして料理をしたい時はロボットアームに邪魔されずに自分で料理できる。

　AIやロボットと言うと、つい人間の形をしたものをイメージしてしまう人も多いと思うが、実際のところ頭と体と腕や足全部がそろった人間と同じ形をしたロボットは、そう多く作られない可能性が高い。例えば上記のシステムキッチンの例だが、包丁を持ったりフライパンを持ったりできる腕と状況を把握するための目、それに味見をする舌に相当するセンサーさえあれば十分だ。掃除ロボットは既に大量に市販されているが小さな円盤状をしている。これら掃除ロボットもすぐに段差を乗り越えたり閉まっているドアを開けたりする機能を用意してくるだろう。洗濯物を物干し竿に干したり、取り込んで畳んだり、アイロンをかけたりしてくれるロボットも作られてくるだろうが、人の形をする必要はない。いずれも収納しやすく、使う時だけサッと取り出して、または自分で出てきてくれて仕事が出来る形になるだろう。

　各家庭では料理のロボットが必要なニーズが大きければそれを購入するだろうし、洗濯物を扱うロボットが必要ならそれを購入する、というように、新しいロボットやAIの技術も実は従来の家電と何ら変わりのない普及の仕方をすると考えられる。多くの人がイメージするような事態、すなわち汎用的な万能人型ロボットが家庭に入り込んでくることはほとんどあり得ないだろうと考えている。

　そのうえで頭脳であるAI本体はおそらく実体のないバーチャルなというかサイバーな空間に存在し、分散している家電としてのロボットや家族の健康、エネルギーや金銭の収支などを管理する機能の総合体として様々な端末から利用者に助言を与えてくれるものになって行くのではないかと思う。（三）

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