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DS 文学全集

 高1のときだったと思うが、母に頼んで買ってもらった、中央公論社「日本の文学」全80巻、私の宝物だ。明治の初めから戦後の文学にいたるまで、ほぼ近代から現代までの日本文学の名作を網羅した一大文学全集だ。文学に興味を抱き始めた頃から、文学全集を欲しいとずっと思っていた若き日の私には、念願かなった、まさしく掌中の玉であった。今なお、書架に鎮座ましましていて、時々は手にとって読みふけってしまうこともある。
 そんな私にとって、NINTENDO DS から出された「文学全集」というソフトは驚くべきものであった。CMによると、日本の小説から厳選された作品100編がソフトの中に入って、定価 2,800円 で売りだされるという。名作のたたき売りという気がしないでもないが、それだけの費用で、主だった名作が100編も読めるなんて画期的だ、これはどうしても買ってみようと10月18日の発売を心待ちにしていた。
 
 で、買った。実は100編の中にどんな作品があるのかまったく知らなかった。数ページ読んで面白くないと思った小説はその場で読むのをやめてしまう私にとっては、どんな作品がソフトに入っているのかが大切であるにもかかわらず、何も調べずに買ってしまった。当たりはずれはあるだろうが、少しでも読み応えのある作品が入っていればいいが、などと思っていたが、そんな心配はきれいに払拭された。とにかく豊富なラインナップだ。

芥川龍之介・・「羅生門」「地獄変」「奉教人の死」「杜子春」「藪の中」「トロッコ」「河童」
      「或阿呆の一生」
有島武郎・・・「カインの末裔」、「生まれいずる悩み」、「或る女」
泉鏡花・・・・「外科室」「高野聖」「婦系図」「夜叉ヶ池」
伊藤左千夫・・「野菊の墓」
海野十三・・・「蠅男」「東京要塞」
押川春浪・・・「海底軍艦」
岡本かの子・・「老妓抄」
岡本綺堂・・・「玉藻の前」
尾崎紅葉・・・「金色夜叉」
織田作之助・・「夫婦善哉」
折口信夫・・・「死者の書」
葛西善蔵・・・「子をつれて」
梶井基次郎・・「檸檬」「城のある町にて」
菊池寛・・・・「父帰る」「恩讐の彼方に」「藤十郎の恋」「俊寛」
九鬼周造・・・「『いき』の構造」
楠山正雄・・・「牛若と弁慶」
国木田独歩・・「武蔵野」「牛肉と馬鈴薯」
倉田百三・・・「出家とその弟子」
小泉八雲・・・「耳無芳一の話」
幸田露伴・・・「五重塔」
黒岩涙香・・・「無惨」
小林多喜二・・「蟹工船」
坂口安吾・・・「堕落論」「桜の森の満開の下」
島崎藤村・・・「夜明け前」
下村湖人・・・「次郎物語」
鈴木三重吉・・「古事記物語」
高山樗牛・・・「瀧口入道」
武田麟太郎・・「日本三文オペラ」
太宰治・・・・「富嶽百景」「走れメロス」「斜陽」「人間失格」
田中英光・・・「オリンポスの果実」
田山花袋・・・「蒲団」
近松秋江・・・「黒髪」「狂乱」
徳田秋声・・・「あらくれ」「縮図」
徳富蘆花・・・「不如帰」
中島敦・・・・「山月記」「李陵」
長塚節・・・・「土」
夏目漱石・・・「吾輩は猫である」「坊っちゃん」「草枕」「三四郎」「門」「彼岸過迄」「行人」
      「こころ」「明暗」
新美南吉・・・「ごん狐」「手袋を買いに」「花のき村と盗人たち」
林芙美子・・・「新版 放浪記」
葉山嘉樹・・・「セメント樽の中の手紙」
原民喜・・・・「夏の花」
樋口一葉・・・「たけくらべ」「にごりえ」
福沢諭吉・・・「学問のすすめ」
二葉亭四迷・・「浮雲」
北條民雄・・・「いのちの初夜」
堀辰雄・・・・「美しい村」「風立ちぬ」
正岡子規・・・「病牀六尺」
宮沢賢治・・・「注文の多い料理店」「オツベルと象」 「よだかの星」「風の又三郎」
      「銀河鉄道の夜」「セロ弾きのゴーシュ」
宮本百合子・・「伸子」
森鴎外・・・・「ヰタ・セクスアリス」「雁」「阿部一族」「山椒大夫」「最後の一句」「高瀬舟」
夢野久作・・・「少女地獄」
横光利一・・・「蠅」「機械」

 著作権の問題もあるのだろう、近代文学の古典的名作ばかりだが、なかなか渋い選択がしてある。特に夏目漱石の作品が9作も入っているのには驚いた。ただ、「それから」という私が漱石作品の中で一番繰り返し読んだ名作が入っていないのはどうしても合点がいかない。(「彼岸過迄」よりも「それから」入れなきゃ・・)
 ただ、折口信夫「死者の書」、九鬼周造「いきの構造」、森鴎外「ヰタ・セクスアリス」などの選択は選者の思い入れが感じ取れて面白い。これらの作品はどう考えても子供を対象にしたラインナップではなく、大人に読んでもらうためのものだ。
 DSという携帯ゲームが大人の必需品となる時代が迫っているかもしれない。
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