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草の根政治家

 菅直人連立内閣が発足した。第94代、61人目の首相なのだそうだが、ここ数年次々と変わったので、日本の首相の地位もずいぶん軽くなってしまったような気がする。しかし、何と言ってもしばらくは彼に政権を委託するわけだから、少しでも良い暮らしになるよう懸命に努力してもらいたい。
 菅直人といえば、市民運動から出発した政治家だと言われている。就任会見でも、自身を「草の根の政治家」と庶民派をアピールしていたが、世襲政治家が続いた歴代首相と違って「普通のサラリーマンの息子」である彼が首相になったことで、我々国民の感覚と近い政治を行ってくれるのではないか、と期待をもってしまう。本当にそうなのかは、これから彼が見せる政治姿勢によって明らかになるだろうが、内閣の陣容を見るとなかなか簡単には行かないように思えてくる。
 それは、菅内閣全18閣僚のうち、松下政経塾出身者が4人(前原誠司国土交通大臣、原口一博総務大臣、野田佳彦財務大臣・玄葉光一郎公務員制度改革・少子化担当大臣のが政調会長)も占めていることである。さらには樽床伸二国対委員長、福山哲郎房副長官などの松下政経塾出身者が民主党の要職にも名を連ねており、調べたところ、同塾出身者の政治家は衆議院議員31名、参議院議員3名、都道府県議会議員13名、市区町村議会議員13名、知事2名、市長・区長9名にも及ぶそうで、まさに松下政経塾出身者が日本の政治を動かし始めていると言っても過言ではないだろう。だが、彼らは本当に国民の代弁者足るのだろうか・・。
 
 私には松下政経塾出身者に一人だけ知人がいる。知人と言っても、友人の友人と言うだけで、最後に話をしたのはずいぶん昔のことであり、知人とは呼べないくらいの関係だ。私と同い年だが、若くして市会議員となり、何期か務めた後で衆議院選挙に自民党候補として打って出て見事当選を果たし、昨年の選挙で民主党議員に敗れるまで、何度か当選を続けた。私が話を何度かしたのは、市会議員になる少し前のことで、松下政経塾という存在をよく知らなかった当時の私には、その経歴を金看板のように有難がっている彼の言動がまったく理解できなかった。政治家になるために運動していると言うのを聞いたとき、仕事もせずに呑気なもんだと羨ましく思ったことは今でも覚えている。その時彼に「何で政治家になりたいの?」と尋ねた気もするが、さほど立派な返答をしてくれなかったのだろう、まったく記憶にない。そんなことがあって、その後彼が国会議員に当選した時も、あれくらいの男でなれるのか、と天の邪鬼な感想しか持てなかった。彼にしてみれば、ずいぶん迷惑な話だろうが、それ以来松下政経塾というブランドをやたらひけらかす輩のことは信用できなくなってしまった。
 
 もちろん青雲の志を抱いて政経塾の門をくぐり、幾多の修養を積んだ者たちばかりなのであろうが、果たしてそうした政治を学問として学んできた政治エリートたちに、私たちの暮らしを任せてもいいものだろうかと、彼らの勢力が徐々に大きくなるのを横目で見ながらずっと思ってきた。彼らには、庶民の生活感など伝わらなのではないだろうか。「官僚政治を打破して、政治主導の政治」などと彼らに叫ばれても、同じ穴の貉のようにしか私には思えないのだが・・。
 確かに国民に阿るだけでは政治は成り立たないだろう。国の将来のためには国民に過分の負担を求めねばならないこともあるだろう。しかし、それにはそれなりの誠意と熱意を見せてくれなければ、我々は決して納得できないのも事実だ。果たしてその辺りのことを政治エリートたちが理解しているのだろうか。民主党に政権が移って以来、彼らの政治手法に注目しているのだが、残念ながら今までのところ疑念を挿しはさまずにはいられない・・。
 
 だが、とりあえずは菅直人に期待しよう。この国を世襲政治家たちから奪い返した形の「草の根政治家」が、政治エリートたちに取り込まれることなく、己が今まで培ってきたものを存分に生かして、私たちの暮らしを少しでもよくしてくれるように!淡い期待ではあっても、今のところはそうするしかないのだから・・。
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