大恐慌のアメリカ (岩波新書)林 敏彦岩波書店このアイテムの詳細を見る |
★ ベルリンの壁が崩れた時は驚いた。世界を核戦争の恐怖に陥れた冷戦は呆気なく終焉した。阪神淡路大震災ではテレビに映し出される光景に目を疑った。関東大震災を想像した。そして今、私は世界恐慌を体験している。
★ 世界恐慌とはどのようなものか、どのように発生し、どのような経過をたどり、どのように終結するのか。それを知りたくて本書を読んだ。
★ 1929年10月24日木曜日、ニューヨーク・ウォール街は大混乱に陥った。繁栄を誇ったアメリカ合衆国のバブルが一瞬に破裂し、株価が大暴落したのだ。
★ 翌日には一時的に株価が持ち直したため、政治家達は楽観的な見方をしていたが、週明けからは地獄が始まる。10年間に渡る不況。それは世界に伝播し、世界大戦を経て終結する。
★ 今日の状況との類似に震撼する。
★ 本書はまず1920年代の繁栄するアメリカを描き、次にそれが崩壊する「暗黒の木曜日」とその対策に追われる政界、経済界、学会の動向を緻密な資料に基づき追跡する。当時の経済学の理論を平易に説明する入門書であると同時に、時代の証言を綴ったドキュメンタリーでもある。
★ 二人の大統領、フーヴァーとローズベルト(ルーズベルト)が対照的に描かれているのが印象的だった。ルーズベルトといえばニューディール政策が有名だが、彼が大統領に就任するや矢継ぎ早に繰り出す対策、ラジオを通して国民に直接「希望」を訴えるところも印象的だった。
★ 第5章の「大不況の経済学」では、実に示唆に富む指摘が豊富に紹介されていた。格差社会が経済成長にブレーキをかけるという指摘は今日の日本にもあてはまる警鐘だ。ハンセンという経済学者が「長期停滞論」で述べる指摘には70年の時を経ているとは思えない新鮮さを感じた。
★ 本書は1988年の初版で、すでに20年が経過しているが、碩学の書は先見性に溢れ、時を経て益々輝きを増しているように思えた。