城台山日記

 城台山の麓で生まれ、毎日この山に登り、野菜・花づくり、読書、山登りをこよなく愛する年寄りの感動と失敗の生活日記です。

アメリカと日本のミドルクラス 20.11.16

2020-11-17 19:28:19 | 面白い本はないか
 各務原市から旧21号線で美濃加茂市に向かう中間に大きな工場があることを知っているだろうか。それは坂祝町にあり、パジェロを製造していた工場であるが、ここの閉鎖が最近発表された。かつて、この工場は東洋工機(さらに以前は東洋工業)と呼ばれ、戦時中には飛行機の部品を製造していたところだが、中島飛行機製作所がスバル・富士重工業につながるところは同じである。かつてパジェロは大変な人気であり、知り合いにも乗っていた人が多い。しかし、自動車各社がより都会的なSUVを発売し始めてから、その魅力はだんだんとなくなっていった。

 最新のパジェロ これが最終となる

 懐かしいパジェロ 山とものEさんもパジェロに乗っていたと聞いたがかっこいい!!

 パジェロの例だけでなく、県内各地で大きな工場が閉鎖されている。10年前には三洋電機の薔薇工場(当時テレビを生産)として有名だった安八町、今やパナソニックに吸収され、新幹線線から見える巨大なソーラーア-クだけをとどめている(パナソニックの創業者松下幸之助と三洋電機の創業者井植歳男は義理の兄弟である)。


さらに近くのパナソニック大野工場も閉鎖され、今はご当地産業の岐阜プラスチックの工場となった。美濃加茂市のソニーも撤退した。我が町にあるイビデン大垣北工場(「揖斐」工場として欲しいのだが)は今のところ元気であると思う。余談だが、イビデンは100年を超える老舗企業で昔昔カーバイトを作り、発電まで行っていた。藤橋の道の駅の近くにある水路式の東横山発電所は景観的に美しいと思う。今はセラミックやIC基板を作っている。


 なぜ、このような工場の話をしたかというと、1970年代を中心に80年代までくらいは県内各地に大企業の工場等が立地していた。これは田中角栄が通産大臣だった頃(1972年)に工業再配置促進法ができて、大都市周辺に工場を作ることが難しくなり、各地に工場を移転したり、新設したりしたことによる。1970年の産業別就業者割合は、1次産業が19.3%、2次産業が34.0%、3次産業が46.6%だった。それが、2015年になると4%、25%、71.9%となり、2次産業の中心である製造業が10%近く減らした。アメリカはさらに少なく19%、ドイツは28.8%(2008年)である。要するに各地の製造業の事業所がどんどん閉鎖されたことにつながる。その結果、働き口として比較的賃金の高い製造業の就業者が減り、賃金の低いサービス業の就業者が増えたということである。これは90年代以降日本の賃金が停滞していることの大きな理由となっている。

 ここからアメリカのミドルクラスについて話をする。種本は「アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々」ジョーン・C・ウィリアムズ著(2017年8月)。これはトランプがなぜヒラリー・クリントンに勝てたかについて分析している。要するにヒラリーは、アメリカで大多数を占めるこのワーキングクラスの心をつかむことができなかったから負けてしまったと。彼らは、かつてアメリカの製造業を支えたブルーワーカーで、一つの企業でまじめに勤め上げ、家族を養うことを美徳としてきた人々であった。彼らは時代の流れの中で居場所を失い、政府やメディアなどのエリート層からは軽んじられ大きな怒りと失望を抱えている。彼らの年間所得は4万ドル~13万ドル(中央値7万5千ドル)、対して貧困層は中央値が2万2500ドル。彼らは貧困層そしてエリートに対して反感を抱く一方で、富裕層に対しては尊敬の念を抱いている(ここらへんは日本人にはひどくわかりにくい。要するに何らかの優れた才能があるからと思っているのだろう。アメリカンドリーム?)。面白いのはパーティの中身がエリート(医者や弁護士等専門職の人々)と彼らでは違うことである。エリートは社交を通じて、幅広い人々と円滑な関係を築き、相手に自分の洗練度を印象づける。一方、ワーキングは親戚を呼び集め、大皿に盛られたなじみのある料理を顔なじみの人々と食べることでリラックスする。また、ヒラリーがガラスの天井をくだく(男性優位社会を打ち破る)と述べたのだが、ワーキングの女性にとって縁の無い話だと受け止められた。彼らは、たいてい母親と同じようなピンクカラーの仕事(サービス業)に就く。彼らの夫は父親と同じようなブルーカラーの仕事には就けない。結果、家庭は不安定となり、ドラッグ、アルコールそしてその結果である寿命の低下につながっている。グローバリゼーション、製造工程の自動化さらにはAI、こうした課題に対処するにはベーシックインカムの導入しかないという議論があるが、彼らが求めているのはセーフティネットではなく仕事なのである。

 最後に日本のミドルクラスはどうなんであろか。橋本健二著「新・日本の階級社会」が参考となる。著者は、日本の階級を資本家階級(経営者、役員)、新中間階級(管理職、専門職、上級事務職)、労働者階級、旧中間階級(自営業者)に分けている。就業者は、資本家4.1%、新中間20.6%,労働者62.5%(うち正規35.1%、パート主婦12.6%、非正規14.9%)、旧中間12.9%となっている。驚くのは各階級の平均個人所得の低さである。資本家604万円、新中間499万円、正規370万円、非正規186万円、旧中間303万円となっており、アメリカと比べると平均では資本家、新中間までがワーキングクラス、正規・非正規とも貧困層ということになる。橋本は非正規をアンダークラスと呼んでいる。
物価が違うので単純には比較できないと思うが、やはり日本の貧しさは顕著であることがわかる。しかし、このような状況にあっても、日本人の多くが「中流」だと思っている。このことは随分現政権にとって有難いことであろうと推測する。こうした事実を国民に知られたくないこともあり、こうしたデータがなかなか外に出てこない。

 終わりにアメリカのエリートの女性は専業主婦になることを「ただの主婦」になるとして恐れ、一方でワーキングの女性は専業主婦になることを夢見る(アメリカのよき時代にそれは実現したので、よけいにそう思うのかもしれない)。日本はどうかというと、エリートの女性でも専業主婦希望が増えているとのことである。あらゆることを犠牲にするだけの価値のある仕事に就けることが日本では少ないということらしい(これでは女性の社会的地位の向上など望むべくもない)。
  

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