英語と書評 de 海馬之玄関

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NYTと朝日新聞の社説比較☆イスラエルのガザ侵攻を巡る論理と空論

2009年01月15日 21時00分49秒 | 英字新聞と英語の雑誌から(~2010年)


2009年1月3日(日本時間4日)に始まったイスラエル軍のガザ侵攻。この軍事行動によるパレスチナ民間人の死傷者が増えるに従いガザ侵攻作戦の停止を求める声が国際的な広がりを見せています。けれども、世界の声と日本で聞こえるそれとは似て非なるものだ。例えば、次の3点に関しては日本と世界の認識は大きく異なっているのではないか。そう私には思えてなりません。

[1]イスラエルのガザ侵攻の正当性を認めるか否か
[2]停戦の可否はイスラエルが納得できる具体的で実効性のある
 ハマスの解体もしくは弱体化が条件になるという認識の有無
[3]停戦実現に向けて国連の機能に期待するか否か


日本の新聞・TV、就中、朝日新聞の論調と海外報道、具体的には(その荒唐無稽なリベラルな姿勢、および、「反日-媚支那」の点で)アメリカの朝日新聞とも言うべきNew York Timesの論調でさえ日本の認識とは正反対と思われる。蓋し、米英独の新聞の社説で、[1]「イスラエルのガザ侵攻の正当性」を認めないもの、すなわち、テロリスト集団ハマスによる年来のイスラエルに対するロケット攻撃を非難しないものはほどんど皆無と言っていいでしょう。

要は、世界標準の国際政治認識においてイスラエルとハマスは政治的にも倫理的にも対等な紛争当事者ではない。また、テロリストとはいかなる妥協も行うべきではないのであり(本来は交渉さえ行うべきではないのであり)、よって、パレスチナ民間人に数万の死傷者が出ようとも、イスラエルのガザ侵攻という決断自体は正当である。白黒はっきり言えば、そう日本以外の世界のマスメディアは理解していると思います。而して、そのような「リアリズム」を基盤にした国際政治のものの見方(realism-based outlook upon international politics)は極めて真っ当であるとも。これに対して、朝日新聞は2009年1月6日付社説「ガザ侵攻 国際社会は停戦に動け」でこう述べている。以下、引用開始。

パレスチナで戦争が激化している。年末から自治区ガザを空爆していたイスラエル軍が、戦車などで本格的に攻め込んだ。空爆でこれまでに500人以上が死んだ。ガザにある独立系の人権団体は、その2割が子供たちだと報告している。地上戦でも犠牲者が出ている。

この事態に、国際社会はまったく無力だ。国連安全保障理事会は即時停戦を求める決議はおろか、声明さえ採択できないでいる。イスラエルを擁護する米国が反対しているからだ。

ガザを支配するイスラム過激派ハマスが昨年来、イスラエルへのロケット弾攻撃を始めた。これに対して自国民を守る自衛権がある。これがイスラエル側の攻撃の理由であり、米国なども理解を示している。だが、空爆や侵攻はパレスチナ側の犠牲があまりにも大きく、過剰な武力行使というよりない。イスラエルは直ちに侵攻を停止し、交渉による事態の沈静化をはかるべきだ。(中略)

アラブやイスラム世界の民衆の怒りは、イスラエルを制止できない米欧や国連に向かう。米国などを標的にする国際テロ組織アルカイダへの支持が広がらないか心配だ。フランスのサルコジ大統領が停戦仲介のため中東入りした。今月から国連安保理の非常任理事国になった日本も、ガザの流血を止めるためにもっと積極的に動くべきだ。(以上、引用終了)


この社説を読む限り、「自国民を守る自衛権」はイスラエルの自己正当化の論理にすぎず、それが一般的な正当性を帯びるかどうかに関しては朝日新聞は判断中止の立ち位置を貫いているとしか思えない。例えば、Washington Postの記事” The View From Israel: Victors in a Necessary War,” January 11, 2009「イスラエルからの風景:不可欠の戦争における勝利」はこう記しているのですから。

After 15 days of war that have left more than 800 Palestinians dead -- as many as half of them civilians, medical officials say -- Israelis are sure of two things: They are the victims, and they are also the victors.

Unlike in 2006, when Israelis grew bitterly split over the war in Lebanon, the invasion of Gaza has produced a rare consensus here. In newspapers and on television, commentators approvingly note that the Israeli military has sown devastation in Gaza without a high toll in Israeli lives. If Palestinians are dying, they say, it is Hamas's fault.


「開戦から15日、800人のパレスチナ人死者、しかも、医療関係者によればその約半数は民間人とされる死者を出しながら、イスラエルの人々は二つのことを確信するに至っている。すなわち、彼等イスラエル国民こそ被害者であり、また、彼等が勝利者であることを」

「イスラエル国内がレバノンでの戦争を巡り真っ二つに割れた2006年の事態とは異なり、ガザ侵攻に関してイスラエルの世論は見事な一枚岩ぶりを示している。新聞でもTVでも解説者達はイスラエル軍はイスラエル兵の犠牲を低い数値に止めながらガザを灰燼に帰しつつあることを肯定的に評している。パレスチナ人の死者が出ているとすれば、それはハマスの落ち度であるとも」

この記事はあくまでもイスラエル社会のレポートなのですが、この記事のどこを見てもここで報じられたイスラエル側の認識を批判する文言は見当たらない。それに対して、朝日新聞の1月6日付社説はガザ侵攻の正当性の有無の論定を回避しながらも、「直ちに侵攻を停止し、交渉による事態の沈静化をはかるべきだ」と可及的速やかな軍事行動の停止を(而して、注意すべきは)ハマス側にではなくハマスとイスラエルの両者に対してでもなくイスラエル側にのみ要求している。畢竟、これらの朝日新聞の社説は[1]「イスラエルのガザ侵攻の正当性」を認めない、世界的にも極めて異様なものであると言わざるを得ないと思います。


而して、朝日新聞のガザ侵攻の正当性を巡る歪な姿勢は、[2]「停戦の可否はイスラエルが納得できる事態の具現が条件になる」という認識の欠落と通底している。実際、今日1月15日付社説「米国の新外交―「力」から「賢さ」への転換」で朝日新聞は(オバマ政権の外交に関して)「その最初の試金石は、中東和平だ。すでに「パレスチナ自治区ガザの惨状にオバマ氏はなぜ声をあげないのか」という不満の声が、イスラム諸国を中心に出ている。侵攻を拡大するイスラエルに圧力をかけ、停戦を実現するには米国が一日も早く公正な仲介者としての立場を取り戻さねばならない」と、第一次中東戦争以降アメリカが「公正な仲介者」であったことなど過去に一度もない事実を失念した上で(また、子供の世界の喧嘩両成敗の如き感覚で)イスラエルのガザ侵攻を非難する論調を展開している。

けれども、朝日新聞自体が「停戦仲介のため中東入りした」と1月6日付社説で触れているサルコジ大統領も、また、同じく停戦の仲介に尽力されているエジプトのムバラク大統領もその周旋の核心はどのような「具体的で実効性のあるハマスの解体もしくは弱体化」のための施策をいかにしてイスラエルに納得させるかなのです。

畢竟、イスラエルのガザ侵攻は正当であるけれども、パレスチナ民間人の死傷者の拡大は(繰り返しますが、ガザ侵攻の決断の正当性を些かも損じることはないにしても)ガザ侵攻トータルでの正当性を逓減せしめることもまた事実でしょう。ならば、イスラエルが可及的速やかに軍事行動を収拾することはイスラエルにとっても望ましいのだけれども、そのような望ましい事態の具現は[2] 「イスラエルが納得できる事態の具現が条件」になる。蓋し、あたかも「武力行使=悪」という認識から「武力行使の主体=イスラエル」に専ら停戦を求めるが如き朝日新聞の主張はこの点でも世界の常識とかけ離れている。


世界の常識と朝日新聞の非常識の好対照は、而して、[3]「停戦実現に向けて国連の機能に期待するか否か」において最高潮に達します。すなわち、「今月から国連安保理の非常任理事国になった日本も、ガザの流血を止めるためにもっと積極的に動くべきだ」という意味不明なセンテンスだけでなく、例えば、1月14日付の天声人語では「世界を一つの学級に例えてみよう。ブッシュ時代の8年間、米国という腕白(わんぱく)坊主は好き放題をしてきた。国連という「担任」などそっちのけ。腕力にものをいわせて、気にくわない級友を痛めつけた」と書いているのですから。

畢竟、国際法上、国連なるものは「常設の国際会議場組織」をそう大きく超える存在ではありません。よって、「世界を一つの学級」に例えるとすれば国連は「担任」などではなく(学級会議用会議室の)「運営当番」にでも比すべきなのです。蓋し、世界の主要な新聞でガザ侵攻の停戦実現に向けて国連に期待するなど稀有の存在であり、まして、「この事態に、国際社会はまったく無力だ。国連安全保障理事会は即時停戦を求める決議はおろか、声明さえ採択できないでいる」と国連の無力ぶりに切歯扼腕するなど極めて朝日新聞的な物言いであると私は考えます。


而して、朝日新聞の特異性を理解する契機になればと思い「下」では海外報道を紹介します。NYTの社説”Incursion Into Gaza,” January 6, 2009「ガザ侵攻」です。上で引用した1月6日付朝日新聞社説と同日に同じ主題を俎上に載せたもの。比較対照には最適ではないでしょうか。




With its ground incursion into Gaza, Israel has gambled that it can finally silence the Hamas rockets that have terrorized its people for years. We sympathize with that goal. But we are concerned that short-term success on the battlefield might encourage the Israelis to keep pressing further and longer in an attempt to decimate Hamas and wrest Gaza from its grip.

That is also a goal we can sympathize with — there is no justification for Hamas’s attacks or its virulent rejectionism. But it is highly unlikely, and there is a point of diminishing returns that could be easy to miscalculate.


地上軍のガザ侵攻に対して、何年もの間その市民を恐怖に陥れていたハマスのロケット攻撃をついに沈黙させられるものとイスラエルは期待している。我々もイスラエルのこの目的は理解できる。しかし、我々は戦場での短い時間軸での成功が、ハマスを粉砕してその手からガザを取り上げるべく一層激しく長期にわたる攻勢をイスラエルの人々が続ける誘引になってしまうことを懸念している。

また、ハマスの攻撃、ならびに、イスラエルとの交渉さえも一切認めようとしないその凄まじい敵意にはなんら正当化される余地がないこともまた我々が共感する認識である。しかし、ハマスを粉砕してその支配下からガザを離脱させることは到底実現できそうにないどころか、そこには計算間違いに陥りがちな謂わば収穫逓減点が存在している。 


The longer the Israeli incursion, the more casualties mount (550 Palestinians and 5 Israelis have died so far); the more Hamas’s popularity grows among its supporters; the more moderate Arab states, which have correctly blamed Hamas for ending a six-month cease-fire, are alienated; and the more regional instability is fueled.

It will also make it harder for President-elect Barack Obama to pick up the pieces of peacemaking when he takes office on Jan. 20.

Israel, aided by the United States, Europe and moderate Arab states, must try to end this conflict as soon as possible and in a way that increases the chances for negotiating a broad regional peace.

That means ensuring at a minimum that Hamas — a proxy of Iran — is not seen as gaining from the war, that the rocket fire is halted permanently and that the terrorist group can no longer restock its arsenal with more deadly weapons via hundreds of tunnels dug under the Egypt-Gaza border.


イスラエルの侵攻が長引けば長引くほど死傷者数は増加するだろう(現在までに550名のパレスチナ人と5名のイスラエル人の命がすでに失われている)。而して、イスラエルの侵攻が長引けば長引くほど、ハマス支持者の間でのハマスの人気は高まり、6ヵ月の停戦を非道にも終わらせたハマスを今は非難しているアラブ穏健派諸国とイスラエルの距離を遠ざけてしまい、そして、この地域の不安定さに火に油を注ぐ事態になるものと思われる。

また、イスラエルの侵攻の長期化は、バラク・オバマ次期大統領にとって彼が1月20日の大統領就任に際して和平のための調停に動くことをより困難なものにするだろう。

アメリカ、欧州諸国、そして、アラブの穏健派諸国に支持されているイスラエルは可及的速やかに、かつ、この地域の和平に関する広範な交渉の機会を増やす方向で今般の紛争を収束させるべきなのだ。

イスラエルがそうすれば、ハマス、すなわち、イランの代理人たるハマスがこの戦争から得るものは何もなくなるに違いない。蓋し、最低でも、【ハマスの】ロケット攻撃は永久的に停止させられるだろうし、エジプト-ガザ間の国境に掘られた何百ものトンネルを使ってこのテロリスト集団が運んでいる凄まじい威力を秘めた兵器で彼等の武器庫を充たすことは最早できないだろう。 


Israel has made it clear that it is in no rush for a diplomatic solution, but there will have to be one. That will require compromises from Israel, including acceptance of international monitoring of a cease-fire and an increased flow of goods and people between Israel and Gaza. ・・・

Israel must immediately allow foreign journalists access to Gaza, as the Israeli high court ruled on Dec. 31. As in every war zone, reporting by journalists — and human rights monitors as well — can discourage abuse and is essential to full public understanding of the conflict.

We applaud European and Arab officials for intensifying efforts to try to achieve a meaningful cease-fire. While Secretary of State Condoleezza Rice has been in Washington telephoning foreign leaders (wasn’t Middle East peace supposed to be her legacy?), it is Europeans like President Nicolas Sarkozy of France who have traveled to the region for face-to-face talks.

イスラエルは外交的解決を急がない姿勢を鮮明にしているにせよ、なんらかの外交的解決が求められることは間違いない。而して、外交的解決にはイスラエルからの歩み寄りが不可欠であり、そのイスラエルの譲歩には国際的な停戦監視団の受入、ならびに、イスラエルとガザ間の物資と人の移動の増加が含まれることになろう。(中略)

イスラエルの高等裁判所が12月31日に下した判決に沿って、イスラエルは外国人ジャーナリストのガザへの立ち入りを直ちに認めるべきだ。というのも、戦闘地域のすべてにおいてジャーナリストの報道は(そして、人権監視団体も同様であるけれども)権限の乱用を抑制することになるだろうし、今回の紛争を巡る認識が十分に公知の事実になる上で欠かせないからだ。 

我々は、実効性のある停戦を実現すべく行われている欧州とアラブの政府高官による精力的努力に賛辞を惜しまない。実際、コンドリーザ・ライス国務長官がワシントンから動くことなく諸国の指導者に電話をかけている間に(中東和平こそ彼女の功績になるのではなかったのか?)、フランスのニコラ・サルコジ大統領の如き欧州の指導者は直談判のために何度もこの紛争地域に飛んでいる。


We understand Mr. Obama’s decision to leave the current crisis to President Bush. But we hope he and his team are prepared for whatever faces them in this immediate crisis, and that they are working on a broader strategy for the region.

There is little chance of restraining Hamas without dealing with its patrons in Syria and Iran. Mr. Obama will also have to move quickly to revive Israeli-Palestinian peace talks. Palestinians in the West Bank and Gaza need to see that there is another way out of their misery and that Hamas and its rockets are not the answer.


我々は、現下の危機の対処はブッシュ大統領に委ねる他ないというオバマ氏の判断は理解している。しかし、我々はオバマ氏とそのチームが現下の危機に関して彼等が直面することになるであろうすべての事柄に対して準備を怠らないで欲しいと願っており、また、より広い選択肢を備えた戦略をもってこの地域に対処して欲しいとも願う。

そのパトロンであるシリアとイランと取引することなしにハマスを抑制する可能性はほとんどない。オバマ氏はイスラエル-パレスチナ間の和平交渉を復活させるために寸暇を惜しんで行動しなければならなくなるだろう。ヨルダン川西岸地区とガザ地区のパレスチナ人には彼等が置かれている窮状から抜け出すための今までにない方式、而して、ハマスとそのロケットなどは解答などではないという事実を理解してもらう必要がある。



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