麻生総理が、本日2009年7月21日、衆議院を解散しました。而して、来る8月30日の総選挙は日本の政権選択の枠組みを決める選挙、あるいは、権力的な財の再配分と法秩序の恒常的な再構築による社会的紛争の解決という政治の機能を日本の政治が再び獲得できるかどうかが争点となる「政権選択-政治再生選挙」になるのだと私は理解しています。ハイデッガー『乏しき時代の詩人』の顰に倣えば、それは、国家社会が漂流する時代、すなわち、理念や思想や政策の軸、否、政治自体が乏しき時代に、政治自体の存在理由(raison d’être)を各政党がその存続(’être)を賭けて追求する選挙になるのではないか、と。
而して、日本と同様に英国でも現下の思想の乏しき時代における「政治の再生」が希求されているらしい。蓋し、それは洋の東西を隔ててこの両国に共通する本質的なsomething の存在によるものなのでしょうか。それについては私は確とした回答を持ち合わせてはいませんが、いずれにせよ、日英両国が、就中、日英の首相が現在苦闘しているsomething は世界金融危機を契機として露呈した、それぞれの社会に長らく組み込まれてきた政治システムの制度疲労に起因することは確実でしょう。そして、その制度疲労が世界金融危機を惹起せしめた資本主義の昂進、すなわち、盟主なき時代の<グローバル化=世界帝国>の勃興に起因することもまた確実ではないかと思います。
そのような、些か大仰に言えば、人類史的な観点から今次の「政治再生選挙」は理解することも可能かもしれない。而して、そのような理解にとって参考になる海外報道を目にしました。Financial Times の” Premiers hunt raison d’être”「与党の存在理由を追い求める日英の両首相」(July 16 2009)。麻生総理が衆議院を解散した今日、<8・30>総選挙に至るここ一連の事態とその総選挙後の日本の社会を考える<補助線>になればと思いここに紹介させていただきます。
尚、この件を伝える海外報道の第一報の息づかいに関しては下記拙稿、また、09総選挙と麻生政権を巡る私の基本的考えについては本稿末尾の「参考記事URL」をご一読いただければと思います。
・海外報道紹介☆速報-麻生総理衆議院解散!
http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/58448383.html
There are many superficial similarities between Japan and the UK, two rainy, uptight, island nations with ever tetchy ties to their continental neighbours. Seldom, however, have the two extremities of the Eurasian tectonic plate featured political parallels as eerie as those displayed by the tumultuous prime ministerial careers of Taro Aso and Gordon Brown.
Since last September, when Mr Aso won leadership of Japan’s Liberal Democratic party, and thus the premiership, his fortunes have alternately tracked and foreshadowed those of Mr Brown, Britain’s similarly unelected prime minister.
日本と英国との間には表面的にせよ多くの共通点がある。例えば、多雨な気候で、独自の伝統を墨守する堅苦しい社会を持つ、かつ、大陸にある近隣諸国との間に悩ましい懸案を抱えている島国国家という点で両国は共通している。しかし、ユーラシアプレートの両端に位置する日英両国が、現下、麻生太郎首相とゴードン・ブラウン首相の両国首相がともにその首相の地位を危うくする騒動の渦中に置かれている共通性、すなわち、現下の両首相を巡るぞっとするほど瓜二つの政治的な共通性を示したことはいまだかってなかったことである。
麻生首相が日本の自由民主党(Liberal Democratic party)の総裁の椅子を獲得し、而して、内閣総理大臣の地位に就いた昨年9月以来、麻生首相の運命は、麻生首相と同じく国政選挙を勝ち抜いて首相の地位を掌中にしたのではないブラウン首相の運命をあるいはなぞり、時にはその予示するものであった。
The quasi-karmic linkage began with Mr Aso’s early decision to back away from widely leaked plans for a general election that might have given him a popular mandate. Mr Aso might have been wise to note the damage done a year before to Mr Brown’s reputation by a near-identical failure of political nerve a few months after he succeeded Tony Blair as leader of the British government.
For both leaders, retreat signalled weakness, and drew attention to the fact that both owed their hefty parliamentary majorities to elections won by more popular predecessors – in Mr Aso’s case the lion-maned, would-be reformist Junichiro Koizumi.
Both leaders have been unlucky in having to face an economic slump of historic proportions. But for Mr Aso, as with Mr Brown, the lack of a personal mandate has complicated the task of setting government agendas that might clash with their predecessors’ policies. Mr Aso has struggled to decide how to handle Mr Koizumi’s flagship policy of post-office privatisation, missing the opportunity to win credit with LDP conservatives by cancelling it or ruling party reformists for enforcing it. Postal privatisation is also a divisive issue for Mr Brown’s ruling Labour party, with the weakened prime minister forced this month to suspend plans for a share sell-off.
ある意味宿命的でさえある両首相の類似性は、民意の信託を獲得すべく総選挙を断行するというほとんど公知の計画を、就任早々、麻生首相が撤回したことに始まる。而して、トニー・ブレア前首相から英国政府首班の地位を引き継いでから数ヵ月、政治的な優柔不断さを見せ、麻生首相とほとんど同様の失敗によってブラウン首相がその1年前に喫したダメージのことを、もし麻生首相が肝に銘じていたならば総選挙を巡る事態をより賢く対処できたのではないかと思われる。
日英の両指導者ともに、彼等を苦境に至らしめた弱さは特徴的である。すなわち、両首相が陥っている現下の苦境は、ともに彼等よりも遥かに人気のあった前任者達が総選挙で勝ち取った議会の圧倒的多数を彼等が擁しているという事実に関心を呼ぶ。而して、麻生首相の場合の前任者とは、ライオンマン、そう、改革派と呼ばれた平成の大宰相・小泉純一郎元首相その人のことである。
日英の両首相とも、歴史的な規模の経済不況に直面せざるを得なかったことは不運であった。しかし、ブラウン首相と同様、麻生首相にとって自身が国民の信託を直接得ていないということが、その前任者達の政策から決別することになりかねない政府の政策指針を策定する上で彼等を微妙な立場に立たせている。而して、麻生首相は、小泉元首相の一枚看板的の政策、すなわち、郵政民営化政策をいかに処理するかを巡って悪戦苦闘中である。すなわち、郵政民営化を放棄すれば得られるであろう自民党内の保守層の支持を勝ち取る機会をみすみす逸するのか、それとも、郵政民営化を断行することによって得られるであろう与党内の改革派の支持をみすみすドブに捨ててよいものか、麻生首相はこの判断に窮している。郵政民営化はブラウン首相率いる与党労働党にとっても党内を二分する論点であり、弱体化したブラウン首相は労働党内の鋭い対立を受けて、今月、郵政企業の株式払い下げ計画を延期せざるをえなかった。
In Japan, as in the UK, public trust in the baby-kissing class has been hit by scandals that have particular implications for an incumbent party, associated with the status quo. While UK politicians are under fire for lavish expenses, inhabitants of Nagatacho, one of Tokyo’s political districts, stand accused of fund-raising abuses. One of Mr Aso’s allies resigned in an expense-related scandal after reports he used a parliamentary train pass for a private hot-spring jaunt with a female friend.
The intellectual son of a Scottish minister and the comic-loving scion of a celebrated family of Japanese statesmen and industrialists were even united in embarrassment in June by timid cabinet reshuffles that merely underlined their impotence.
英国におけると同様、日本では政治家階級に対する信頼は幾つかのスキャンダルによって、現体制に対する批判をともない特に与党に対する関連で地に落ちた観さえある。英国でも、目に余る経費の無駄遣いによって政治家は非難の矢面に立たされているけれども、他方、東京にある政治活動の中心地である永田町の住人は不当な政治資金捻出を非難されている。例えば、麻生首相の盟友の一人は、彼が国会議員用の無料鉄道利用券を女友達との温泉旅行に使用したと報道された後、この経費不正流用疑惑の中で辞任した。
スコットランドの牧師の聡明な息子と日本の政治家一族にして実業家家系のマンガをこよなく愛する御曹司は、この6月、彼等の無気力振りを印象付けただけに終った地味で遠慮がちな内閣改造を行い一層自身を窮地に追い込んだ点でも轍を一にしてしまった。
Mr Brown can only hope that the final chapter of this tale of two premiers matches less neatly. Few think the LDP can win the election that Mr Aso plans to hold on August 30. Some senior members even fear the crushing defeat that polls suggest could spell the doom of a party that has ruled for all but 11 months of its 53 years in existence.
There is a shared message from all this. Both the LDP and “New Labour” appear bereft of ideas. Japan and the UK face pressing fiscal, social and strategic challenges but, for many voters, it seems their ruling parties are focused more on retaining power than on doing something with it.
ブラウン首相にとっては、しかし、日英の二人の首相に関する物語の最終章が必ずしもきちんとは一致していないことだけが救いかもしれない。麻生首相がこの8月30日にその実施を計画している総選挙で自民党が勝利できると考える向きはほとんどない。与党の幹部の中には壊滅的な大敗北を危惧する声も出ている。而して、その大敗北とは世論調査によれば、結党以来53年の歴史の中で僅か11ヵ月を除いて与党の座を占めてきたこの政党が崩壊の運命に陥りかねない壊滅的な大敗北なのである。
日英の両首相が対峙している現下の状況には共通のメッセージが含まれている。それは自民党も「新生労働党」もともに政治理念を欠いているように見えることである。日本も英国も、財政的、社会的、戦略的な危機を抱えていながら、しかるに、その政府与党はと言えば権力使ってその危機に対峙することよりも権力の維持に汲々としていると見ている有権者が少なくないのである。
Still, electoral defeat has an upside: a spell in opposition can be a chance for a party to rethink what it is for. Many in Japan wish their politics offered clearer choices of policy direction: the LDP and opposition Democratic party are both broad and fractious churches, with much overlap. A retuned LDP with a clear vision of where it wants Japan to go would be an asset to the nation.
It is unlikely that Mr Aso will set the LDP’s post-election course. But party bigwigs should heed those who warn that, having presided over Japan’s transformation into a rich, peaceful and democratic modern nation, the LDP now lacks any obvious purpose.
As the Oriental Economist put it back in January, the LDP has become a “Jurassic party”. “Once an institution, no matter how strong, loses its raison d’être,” the journal declared, “it sooner or later loses its être.”
而して、選挙での敗北には好都合の側面もある。すなわち、野党である期間はかっての与党が自己の存在理由を再考するよい機会になることだ。日本では、政策指針を巡ってより明確な選択肢を政治が提示することを望む国民が少なくない。実際、自民党と野党・民主党(opposition Democratic party)は両者ともに広範で収拾がつきにくい教会組織であり、政策や支持者層において少なからず重なっている。ならば、【幾ばくかの野党時代を経て】政権を再度奪取する自民党が、日本がどこに向かって進むべきかに関して練磨彫琢を加えた明確な思想を獲得しているのであれば、そのような【帰ってきた】自民党はこの国家/国民の財産と言うべきものになっているのではなかろうか。
麻生首相が総選挙後の自民党の進むべき道を決めることはどうもありそうにない。しかし、自民党の大物政治家は次のような警告を述べる人々の声に耳を澄ますべきではなかろうか。すなわち、自民党は日本を豊かで平和で、そして、民主主義的な近代国家に変質させるおいてそれを取り仕切ってきたけれども、現在、自民党はどんな明確な目的も保持していない、という声である。
Oriental Economist誌が1月に記した如く、自民党は「ジュラ紀の政党」になってしまった。而して、同志が断言した如く、「それがいかに強大であったにせよ、一度ある組織がその存在理由(raison d’être)を喪失したならば、その組織は遅かれ早かれその存在自体を失う(loses its être)」ものと思われる。
【参考記事】
・麻生太郎『とてつもない日本』に迸る保守主義の政治哲学
http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/08af31555a2f386edcd85261925262d3
・麻生内閣メルマガ紹介☆総選挙に臨む麻生総理の真意と闘志(上)(下)
http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/58462374.html
・「正義論」からの帰結☆鳩山弟、そこまで言うなら自民党を離党せよ!
http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/58457918.html
・麻生総理支持派の投票戦略試案☆「比例区は自民、反麻生の自民候補の選挙区は共産党!」
http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/58469869.html
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