英語と書評 de 海馬之玄関

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海外報道紹介☆総選挙の帰趨は景気動向の関数?

2009年08月02日 11時32分20秒 | 英字新聞と英語の雑誌から(~2010年)


2009年8月30日の総選挙。私はそれを「政権選択のための選挙-政治再生のための総選挙」と理解していますが、マスメディアやブログにはその位置づけに関して左右両翼から多様な主張が展開されているようです。例えば、外国人の地方参政権や二重国籍を認めようとする売国政権の誕生を許すのかどうかの選挙戦だ。あるいは、小泉構造改革路線、すなわち、「新自由主義-市場原理主義」を葬りされるかどうかがかかった選挙だ、等々。

もちろん、どのような事柄も「唯一絶対の意味=位置づけ」しかないということは寧ろ稀でしょうし、例えば、「売国政権の誕生の可否を問う総選挙」と「新自由主義の是非を問う総選挙」は二律背反的なものではおそらくない。けれども、総選挙の位置づけなるものが究極的にはその時にこの社会が抱えている社会思想的と社会政策的の課題を照射するものであるとすれば、今回の<8・30>総選挙に関してもその位置づけは真面目に検討されるべきことは疑いない。而して、その際には、少なくとも実証的観点、特に、経済の動向を踏まえた生活者の視角は必須ではないか、と。そう私は考えています。

蓋し、実証的な観点、国民の感じる暮らしやすさの視角からの考察を導入するならば、例えば、「集団的自衛権を認める政権か、憲法9条を守る政権かの選択」等、謂わば「正か邪か」式の、よく言えばラディカル(本質的)、悪く言えば自己の信ずる真理を単に告白するだけの不毛なイデオロギー論争に比べて少しは生産的な議論が可能になるかもしれない。畢竟、実証的な観点からの吟味検討は、独善的・教条主義的な<迷宮>から我々が我々の思索を解放する前提なのではないでしょうか。

また、実証的な観点からの吟味検討は、例えば、朝日新聞が2009年7月31日付の社説「論点 安心と負担④ めざす国のサイズを示せ」の中で述べた「国内総生産(GDP)に占める歳出、歳入の比率を比べると、経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中、日本はいずれも最も低いグループに属する。実は世界では米国に近い「小さな政府」なのだ。中くらいの水準の欧州諸国を参考にすれば、公共サービスの水準をもっと引き上げるという選択肢も今後は大いにありうる」という極めてミスリィーディングな記述を的確に咎める上でも不可欠。

実際、この朝日新聞の記述は「一般会計」のみを前提としており(国の地方財政計画や地方自治体の純歳入・純歳出を除いたとしても、「一般会計」の2倍規模の)「特別会計」を加味すれば(また、赤字国債の総額、そして、国の許認可権のGDPに対する影響等々フローだけではなくストックやシステムをも鑑みれば)朝日新聞の主張とは逆に(繰り返しますが、地方自治体分の歳入・歳出を除いたとしても)日本が旧ソ連も裸足で逃げ出すほどの<社会主義>に近い経済構造を持っていることは周知の事実なのですから。

而して、来る総選挙の位置づけに関して実に参考になる海外報道を目にしました。以下紹介します。出典はNew York Timesの”Economy Spells Trouble for Leading Party in Japan”「日本では経済の動向が与党の足枷になる模様」(July 19, 2009)です。紹介記事は「総選挙の帰趨は景気動向の関数」とまでは断言していないものの、自民党の経済政策における無能振りが民主党優位の情勢をもたらしたとする。民主党の経済政策に関するポテンシャルを過大評価している傾向はあるものの朝日新聞よりは遥か参考になると思います。







・・・Japan has seen a broad upwelling of such frustration in recent years, and particularly since the beginning of the financial crisis last fall, which brought the unfamiliar sight here of mass layoffs and the unemployed tossed onto the streets. Now, the growing disillusion here seems to have reached a critical but long-elusive threshold: when Japanese voters go to the polls on Aug. 30 to vote in parliamentary elections, they appear almost certain to oust the Liberal Democrats from power for only the second time since 1955.・・・

With the Liberal Democrats looking unresponsive or downright incompetent, more voters now seem willing to give Japan’s untested opposition a shot at finding a way out of the nation’s stubborn economic morass. A poll published Wednesday by Yomiuri Shimbun, Japan’s largest newspaper, showed 30 percent of 1,047 respondents backing the opposition Democratic Party, versus 25 percent for the Liberal Democrats. ・・・


(前略)日本はここ数年、就中、昨秋の金融危機以降、その社会の広範な場面で【雇用の不安定と生活水準の低下に起因する政治への】不満が噴出するのを経験してきた。実際、世界金融危機によって、大量の一時解雇者や職を失い街頭に投げ出された人々という、この国ではかって見られなかった光景が繰り広げられた。而して、今やこの国では政治に対する幻滅は漸次拡大しており、決定的な変革の、かつ、そこにこれまで辿り着くことがなかった変革の臨界点に達したように見える。すなわち、8月30日の国会議員の選挙において、もしそうなれば自由民主党が政権を失うのは1955年以来二度目になるのだけれども、日本の有権者が自由民主党から政権を取り上げることはほとんど確実のことと思われる。(中略)

自由民主党が【有権者の政治への不満に対して】鈍感でとことん無能に見えることもあって有権者の過半は日本が今陥っている経済の泥沼から脱出することを、その力量は未知数ながら日本の野党に思い切ってまかせてみようと本気で考えているようだ。【7月15日】水曜日、日本最大の発行部数を誇る読売新聞が発表した世論調査によれば、その調査の1,047人の回答者の中で30%が野党の民主党を支持したのに対して自民党の支持者は25%にとどまったのだから。(中略)


Behind this brewing voter revolt is a grim new pessimism that has gripped this former industrial juggernaut. Japan’s economic situation has grown increasingly severe in recent years: the nation’s per capita gross domestic product declined from third highest in the world in 1991 to 18th last year, according to the World Bank. Average household income has also fallen from its peak in 1994 to a 19-year low of $58,000, in 2007, the Labor Ministry said.

A public opinion survey released Thursday by the government-financed Institute of Statistical Mathematics showed that 57 percent of 3,302 respondents said they expected their lives to get worse, with only 11 percent saying they would get better — almost the mirror opposite of replies to the same survey 30 years ago.

But it was the current global slowdown, threatening the livelihoods of Japanese young and old, that seemed to push people past the breaking point. Japan’s export-dependent economy fell more precipitously than those of other developed countries, contracting at an annualized rate of 15.2 percent in the first quarter of this year, its steepest decline on record.


この有権者の反乱の背景には、産業の分野でかって破壊的な力を見せつけてきたこの国を捉えて離さない、厳然たる、かつ、今までなかった新しいタイプの悲観主義が横たわっている。ここ数年、日本経済の置かれている状況は漸次その厳しさを増している。すなわち、世界銀行によれば、日本の一人当たり国内総生産(GDP:gross domestic product)は1991年には世界第3位であったものが昨年は18位にまで降下した。また、日本の厚生労働省によれば、平均家計所得も1994年をピークに低下し続けており、2007年には58,000ドルと19年振りの水準にまで縮小したとのこと。

日本政府出資の統計数理研究所が【7月16日】木曜日に発表した世論調査によれば、3,302人の回答者中の11%が今後暮らし向きは良くなるだろうと返答したにすぎないのに対して、57%の回答者は今後生活は苦しくなるだろうと答えた。この結果は実に30年前の同様の調査結果とほとんど正反対の結果なのである。

しかし、日本の有権者に今までなかった政権交代のルビコンを渡らせているかもしれないものは、現下の地球規模の経済の低迷、すなわち、日本の若年層と高齢者の暮らし向きを危うくしている世界規模の経済の不調である。輸出依存型の日本経済は、他の先進諸国の経済に比べてもその景気後退の度合いは凄まじく、今年の第一四半期(the first quarter of this year)における年率換算15.2%の縮小は、日本の経済活動において史上断トツの記録的な下げ幅だったのだから。



This has brought widespread pain and dislocation, as companies have laid off about 216,000 temporary and short-term workers since October, according to the Labor Ministry. The sight of hundreds of these newly jobless temporary workers protesting in central Tokyo early this year shocked a country unused to mass layoffs, and raised fears of growing social inequalities.

Anxieties are particularly acute about the future for Japan’s youth. In May, the unemployment rate for those aged 15 to 24, not including students, rose to 9 percent, according to the Internal Affairs Ministry, far higher than the 5.2 percent rate for all age groups. And this in a nation that for decades prided itself on having virtually no unemployment.

A national media storm was stirred up earlier this year when companies hurt by the downturn began rescinding job offers made to university seniors, the first time that had happened to any significant degree since the bursting of the real estate bubble in the late 1980s. That left thousands of students to graduate in April without jobs waiting for them — a career-threatening predicament in a country where large companies limit most of their hiring to university seniors.


世界金融危機に端を発する経済の低迷によって、例えば、厚生労働省によれば、昨年10月以来企業が216,000人の臨時および短期労働者を解雇する等、傷みと混乱がこの国を広範に覆うことになった。今年の初め、何百人もの新たに職を失った派遣労働者が東京の真ん中で抗議する光景は大量解雇に馴染みの薄いこの国に衝撃を与え、かつ、社会的不平等が拡大しているのではないかという恐れを強めることになった。

【雇用と不平等の拡大に関する】これらの懸念は日本の場合、特に、若年世代に関して深刻である。実際、総務省が発表した所では、この5月には学生を除く15歳から24歳の年齢層の失業率は9%に達したのだけれども、これは全世代を通算した失業率5.2%を遥かに上回る数字であった。しかも、この事態は、数十年間、実質的な失業率0%を誇ってきた国で起こっているのだ。

今年の年初、景気後退によって業績を悪化させた幾つもの企業が、大学4年生に対して出していた採用内定を撤回し始めた際には、この事態を巡ってこの国中のメディアを巻き込んだ一大報道合戦が巻き起こった。畢竟、業績不振に基づく大学生の採用内定取消などは、個々の企業の特殊な事例を除けば1980年代後半の不動産バブルの崩壊以来の出来事だったからである【KABU註:厳密には不動産バブル崩壊は1990年代初頭の出来事と考えるべきだと思われる。蓋し、株式市場は1989年12月の大納会の引け値で、史上最高値(日経平均3万8915円)を記録したが、1990年の大発会以来急落を開始したのだから。ただ、訳は原文に従った】。而して、数千人の学生が彼等を待つ仕事を持つことなくこの4月に卒業することになる-この事態は、大企業がその雇用をほぼ大学4年生に限定しているこの国では就職を巡る深刻な状況をもたらした。


One was Shiho, a 23-year-old resident of the western city of Kobe who asked that her family name not be used for fear of embarrassment. Last year as a senior in business management, she said, she got a job offer to be a white-collar worker at a large construction company. She said she even went to a training seminar at the company in December, only to have the offer withdrawn in January.

In a desperate scramble to find work before graduating in March, the end of the Japanese academic year, she took the only job she could find, as a uniformed receptionist at a golf course. She said she felt so ashamed that she stopped talking to many of her friends, and ignored their cellphone messages, until she found out that they had also settled for jobs they did not like.

“I feel betrayed,” she said. “I studied for university entrance exams, went to a good university, did everything I was supposed to do, and then this happens.”

She and other young Japanese talk in gloomy terms about the prospects for both their own careers and their nation overall. Many express fear of becoming another “lost generation” of youth like those in the late 1990s, condemned for years to part-time or short-term jobs, or forced to live off their parents.

Shiho said she and her friends believed that it was time for a change in Japan, though she admitted that young Japanese tended not to vote. But if she does vote, she said, it will not be for the Liberal Democrats, whom her parents supported. “If the Democratic Party is ready to try something new, then let’s give them a chance,” she said.・・・


シホ君はそのような元大学生の一人。西日本にある神戸市在住の23歳。彼女は彼女の姓はきまりが悪いので出さないで欲しいとのことだ。而して、経営学科の4年生だった昨年、彼女の言葉によれば、ある大手の建設会社から事務管理の職種(a white-collar worker)で採用内定をもらったとのこと。そして、12月にはこの会社の研修セミナーに出席していたけれども、1月の研修セミナーの際に採用内定取消の通告を受けたらしい。

日本の大学の学年末、すなわち、3月の卒業前に就職口を見つけるという絶望的かつ切羽詰った状況で彼女が見つけることができた唯一の職はゴルフ場の制服を着用する【総合職ではない】受付係だったとのこと。シホ君は、あまりの恥ずかしさのために多くの友人と口を聞くことができなくなり、友人達から送られてくる携帯メールも無視するようになったと語ってくれた。而して、彼女が友人達との関係を復活させることができたのは、友人達もまた彼等の意に沿わない職に就かざるを得なかったことに気づいてからだったとも。

「私は裏切られた気がしたんです」「私は大学に入学するために勉強し、良い大学に通い、その他、そうするようにと期待されたことはすべてやった。それなのに、この結果なんですから」とシホ君はその思いを吐露してくれた【KABU註:このよう、例えば、ICU卒生にしばしば見かける、社会と周囲に「他力本願&責任転嫁」の学生は景気の良否に関わらず<戦力>にならない、と。実は、バブル崩壊後の多くの企業は考えている。ただ、訳文のニュアンスは原文に従った】。

シホ君や他の若い日本人が今後のキャリアや彼等の国自体の将来の見通しを語る言葉は暗い。自分達が、何年間もパートタイムや派遣での雇用で働くことを強いられ、あるいは、親に生活の面倒も見てもらわざるを得ない1990年代後半の「ロストジェネレーション」の若者と同じようになるのではないかという危惧を口に出す者も少なくない。

シホ君は、もちろん、若者の投票率がそう高くない傾向があることは認めざるを得ないとしても、彼女や彼女の友人達は日本も変化すべきときだと本気で思っていると述べた。彼女自身は、しかし、断乎として投票するつもりだ、とも。而して、投票先は、彼女の両親が応援している自民党ではなく「もし、民主党がなにか新しいことを始める準備ができているのならば、我々は民主党にチャンスを与えたいと思う」とそう彼女は語ってくれた。(後略)


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