うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

sneeze

2022年12月15日 22時40分31秒 | ノベルズ

「―――以上で、このような作戦を提示しましたが、いかがでしょうか?」

AAのブリッジに、落ち着いたテノールが響く。

「うん、いいんじゃない?それで行こうと思うけど。」

キラがラクスを見やると彼女も頷く。

「えぇ。流石はアスランですわね。また状況は変わるかもしれませんが、今はこれで様子を見ましょう。」

「わかったわ。先ずは宇宙に上がったばかりですし、こちらの宙域での戦力を整えましょう。」

ラクスと共にマリューも頷くと、アスランは軽く一歩下がって一礼する。

「では、俺はこれで。」

あくまで控えめな彼は、静かにブリッジを後にする。

その姿を見送って、バルトフェルドがやれやれとばかりに口を開いた。

「全く、こういう時は少し雑談込みで、皆とコミュニケーションの一つも取ればいいんだがね。」

「元々静かなほうよね。彼は。初めて会ったときから、大人びた子だと思っていたけど。」

マリューが小首をかしげて微笑む。

「えぇ。無口ですけどお優しい方。私が話しかけないと、なかなかお口を開いてはくれませんでしたわ。」

「え!?ラクス様、婚約者だったのに、おしゃべりとかされなかったんですか?」

目を見開いて驚くメイリン。だが彼女もミネルバでの日々を思い返す。

「…でも確かに、ミネルバでもアスランさんがあまり私語しているの、見たことないですね。「大丈夫ですか?」と聞けば「大丈夫だ」とか、「これでいいでしょうか?」には「あぁ」くらいでしたもん。」

「僕は気にしたことないけど、アスラン元々人見知りもある方だから。でも凄く頼りになって、しっかりしていて、いつもお兄さんみたいだったよ。」

キラがそう口にし、皆が皆頷く―――が、考え込むように「う~ん…」とうなる男が一人。

「ムゥさん、どうしたんですか?」

「だから、俺はネオーーー…は今はいいや。あの坊主、そんなに大人でしっかり者か?」

「えぇ、だって怪我をしても弱みなんて一つも見せようとしないじゃない?」

マリューがそういうものの、ネオは少し口角を上げるようにして得意気に話し出す。

「そうか~?俺は病室で隣にいたから知っているけど、キラ以外にも一人だけいるだろう…あのオーブのお姫様が。」

「カガリさんとは確かにオーブで護衛をしてくれていたくらいだから、仲はいいと思うわよ。」

「いんや。ただの仲じゃないね。弱みを見せない、って言っているけどさ、アイツ、お姫様の前じゃ「いっそ死にたいくらいだ」だの「焦ってたのかな?」だの、結構甘えていたぜ♥」

「あ、アスランさんが、ですか!?」

メイリンが思わず両手で口を押える。何しろミネルバじゃ第二次ヤキンドゥーエ戦を戦い抜いた英雄であり、FAITHで憧れの的だった。あの彼がそんなことを言うとは到底信じがたい。

「そうですわね。カガリさんは彼にとって特別な人ですから。」

「彼女を残して一人戦場へ―――か。分かる気がするが。」

バルトフェルドが一人呟き、ロケットの蓋を開ける。中には彼の永遠のパートナーの写真。

「ついこの前までZAFT、しかも議長の側にいたんだ。だからここにいる連中とは話しにくいし、自分を抑え込んでいるのかもしれんが、余計なストレスは溜めないといいんだがな。」

彼の言葉にキラとラクスは視線を合わせる。

 

 

その後一人、キラは彼の姿を探した。

廊下で周囲を見渡していると、「クシュン!」という聞き覚えのあるくしゃみが耳を捕えた。

そこに向かうと案の定、休息所に1人、タブレットに何やら打ち込んでいる彼の姿があった。

「アスラン、少し休みなよ。まだ身体だって万全じゃないんだから。」

そう言いながら、食堂で貰ってきた飲料パックを彼に向って放る。無重力の中、ゆっくりと真っすぐに投げられたそれを受け取り、アスランが軽く微笑む。

「大丈夫だ。傷は塞がったし。こういう時自分がコーディネーターでよかったと思うよ。」

「アスランの「大丈夫」は当てにならないんだもん。身体の方はもちろん、その…心の方もさ。」

「え?」と澄んだ翡翠が少し見開く。

「さっき、アスランが出ていったあと、皆で話していたんだ。もうちょっと遠慮しないで皆と一緒に居たっていいのに、って。」

「あー、それでか。」

「?何が?」

「さっきからくしゃみが止まらなかった。」

「え…あはは!」

「笑わなくてもいいだろう…」

少し気分を崩したか、キラが慌ててアスランに謝る。

「ごめん。でも心配なんだ。僕にはラクスがいてくれるから、不安とか色々話ができるけど、アスランは、その…」

「別に俺に遠慮する必要はないだろう。ラクスが今はお前にとって支えなんだし、彼女もそうだ。俺といたときは、あんな表情を見せることなんてなかった。お前がいてよかったよ。」

「アスラン…」

友の横顔に一抹の寂しさを感じ取り、たまらずキラが聞き返す。

「アスランはさ、1人で大丈夫なの?」

「何がだ?」

「その…カガリと離れて…」

多分この最後の戦いを前に、オーブで別れた時のことを聞いているのだろう。

何も語らず、何も求めず。ただ抱きしめて、そして離れた彼女。

アスランは、少し懐かしむように目を細めた。

 

キラ、お前にはわからないだろうな。

あの抱擁で、彼女と俺は言葉にしなくても、沢山のことを語り合った。

―――「行ってきます」「行ってらっしゃい」

―――「絶対に戻るから」「必ず戻って来いよ」

―――「今度こそ君を守るから」「私もお前が帰ってくるところを守るから」

―――「だから、待っていてくれるか?」「あぁ、ずっと待っている」

―――「その時は、戦いを終えて、戻ってきたら、今度こそ君を―――」

 

最後の想いは受け止めてもらえたのか、それはまだ分からない。

でも

これで俺が生きる理由ができた。

守るだけじゃない。生きて彼女の元に戻れるまでが、俺の戦いだ。

 

 

アスランは少し笑んでキラに返す。

「大丈夫だ。俺たちの夢は同じだ。道は少し違えたけど、同じ場所を目指しているんだ。そこに辿り着けばきっと。それに―――」

彼女の傍にいなくても大丈夫。

俺の身体が覚えている。

キラ、お前は知っているか?

カガリを抱きしめる時の腕の強さ。どのくらいだと彼女が安心するか。

唇が覚えている、彼女の体温と吐息。

頬が覚えている、彼女の滑らかな肌の感触。

この身が離れても、全部俺の感覚が覚えている。

それだけでもう一人じゃない。

それに…

 

アスランが胸元から取り出して見せる、赤い石。

「あ、それカガリから以前貰ったっていう…」

「あぁ。ハウメアの護り石だ。俺がこれだけの死線を越えて来られたのは、彼女の思いの籠ったこれが護ってくれたと思っている。これがあれば俺は寂しさも不安もないよ。」

キラが初めて見るように目を見開く。

満足そうな友の顔に、二人にしか分からない強い絆が見て取れる。

(そうか…ちゃんとカガリはいてくれているんだね。君の隣に…)

少し丸めた彼の背を、包み込むようにして抱きしめている彼女が見える。

安心した。でも…なんだか少し、ムッとする。

嫉妬、なのかな。

「ふ~ん。心配して損した。でも僕の方がカガリに「よしよし♥」ってして貰えたから今のところ僕の勝ちだよね。」

「なっ!「よしよし」って!?」

途端に血相を変えた友人。戦いの時だって、こんなに動揺すること暫く見たことなかったのに。

「教えないよ?僕とカガリだけの秘密だもん♪」

「何だと!というか、「勝ち」は無いだろう!俺はカガリとキスまでしているし―――」

「でも僕は何と言っても「双子の片割れ」だもん。やっぱり血の繋がりって強いよね~」

「だが、血縁である以上結婚できないだろ!」

「そんな余裕君にあるの? カガリが「うん」って言ってくれるか分からないじゃん。今のところは僕の勝ち、っていうことで―――」

「キラァアアアア!!」

 

 

「…ホントだ。」

「…あんな子供染みた喧嘩までするんだ。」

「…アレが本当のアスランさん、なんですね。」

ラクスに促されて様子を見に来た一同が、呆気にとられつつ、そのご安心したように笑い合った。

 

***

 

一方―――

「クシュン!」

「大丈夫ですか?カガリ様。」

「あぁ、ただ鼻がむず痒かっただけだ。」

「ご無理なさっているのではないですか?お身体は―――」

「大丈夫だ。皆が宇宙で頑張ってくれている時に、私が倒れる訳にはいかんだろう。きっと誰かが私の噂でもしているんだろう。」

「カガリ様の噂、ですか?悪い噂でなければよいのですが…」

「どっちでもいいさ。だって―――」

カガリが星の瞬く夜空を窓越しに見上げる。

「良くも悪くも、私を知ってくれている人が生きてくれているってことだからな。それでいいじゃないか。」

流し過ぎた血。今は亡き人達ばかりが増える中で、生きてくれている人たちがいる。

そんな命があるだけで。

 

そう、今はそれで十分だ。

 

・・・Fin.

 

***

 

突発殴り書き。

本編では45話のラストバトルのために、オーブから宇宙に上がってコペルニクスでミーアに会う前位の時間軸で想定。

別にテーマもなく、ただキララク一緒なのにアスランは一人で、カガリ欠乏症になっていないかキラが心配してないかな、とか思ったことを書いただけです。

後はやっぱりAAやクサナギやエターナルメンバーに、最初はなかなか馴染めなかったと思うんですよ、アスラン。もちろん無印の第3勢力の時は共闘したので、みんな知ってるメンバーですし、打ち解けやすいかもと思ったんですが、何しろZAFTに行って、一度オーブに弓引いた訳ですから(やりたくなくても)、その後悔というか、責任感じているだろうな、あの男は…と思ったので、他愛のないことで人となりを知ったら、皆もっと付き合いやすいんじゃないかなと。

ハウメアがこの時どこにあったかは、公式で出ていないのでわかりませんが、とりあえず肌身離さず持っていた、というのがMy公式(笑)

いいのさ。離れていても繋がり合っている二人がいれば、それで私の人生満足さ( ̄▽ ̄)♥


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