かたてブログ

片手袋研究家、石井公二による研究活動報告。

『五年』

2016-03-11 19:50:00 | 雑感

あれから五年。毎年この日は、震災直後に書いた記事を再掲載しています。

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これは僕が“介入型”と呼んでいるタイプの片手袋です。

落ちている片手袋に気付き、見つかりやすい場所に移動してあげた誰かが存在する。

そうして生まれるのがこの“介入型”の片手袋なのです。

我々には有事ではなく普段から、このようなちょっとした、でもとても重要な心の優しさが備わっています。そう信じています。

ましてや過去最大級の有事が起きている今この時。

批判や言い争いや怒りはひとまず置いておいて、正確な情報や落ち着いた行動に基づく優しさを発揮しましょう。

僕自信、自分に出来る事は何か、冷静に考えてみます。

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風化には良い面と悪い面の二つあると思います。

「もう立ち直れない」と思う程大きな絶望を味わっても、時と共に心の痛みから解放されていく。“忘却”というのは時に人間にとって大きな力になりますよね。

しかし「二度と同じ過ちを犯してはいけない」という教訓を得ても、また同じ過ちを繰り返してしまう、というのも人類の歴史です。

忘れて良い事といけない事。五年経ってもそのコンセンサスが得られず、様々な分断が起きてしまっていますが、とにかくあの日、上に書いたような事を強く意識したのだけは忘れないようにしたいと思います。

東日本大震災でお亡くなりになった方々やご遺族に心よりお悔やみ申し上げます。


『市場への私情』

2016-03-10 22:30:00 | 写真

何度も何度も書いているので、いい加減うるさいと思われてしまうかもしれませんが、日に日に築地場内とのお別れが近づいていると思うと悲しくて。

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こういう築地らしい放置型片手袋とあと何枚出会えるんでしょうか?

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最近は片手袋だけじゃなくて、こういう築地の何てことない風景も撮るようにしてます。一つの場所が無くなるって、本当に大きなことですね。


『義経一枚手袋』

2016-03-09 19:31:14 | 雑感

早朝、バイクで築地から家に帰っている途中、歌舞伎座前のガードレールに介入型片手袋が見えました。しかし信号の都合で停車出来ず、泣く泣く素通りしてしまいました。

しかし帰宅してからも気になって気になって。というのも、僕は出会った片手袋には絶対に演出を加えず偶然の出会いを大切にしているものの、「あそこに片手袋がある風景を撮ってみたいな~」と普段から気にしている場所が幾つかあるのです。

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最近その願いが叶った例としては、上野鈴本前なんかがあるんですけど。“歌舞伎座の前にある片手袋”というのも、長年夢見ていたシチュエーションだったんですよね。しかし願いがようやく叶ったのに、撮影が出来なかった、というのが悔し過ぎて…。

しかし、ふと思ったんです。「今日は仕事が休み。俺は銀座で映画を見るじゃないか!」と。銀座から歌舞伎座なら歩いていける距離。僕は決心しました。

数時間後。映画が終わり、僕は真っ直ぐ晴海通りを築地方面に歩きます。「もしかして既に無くなっているんじゃないか?」などと不安を感じながら歌舞伎座に到着すると…。

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ありました!歌舞伎座のお客さんが落したのか、銀座という土地柄なのか、ちょっと高級そうな革手袋です!取り敢えずこのアングルで押さえて、次は歌舞伎座が入るようなアングルで撮らなくちゃ!

…しかし。僕は前方に妙な気配を感じました。

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うわ!僅か数m先にもう一つあった!きっと休日の貴重な時間を使ってわざわざ戻ってきた僕を、片手袋の神様が祝福してくれているんだ!

だが、ちょっと待て。何かがおかしい。僕は二つの片手袋をよく見比べてみました。

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手首の部分に全く同じ金具。…これ、両手袋じゃん。そうなのです。落ちていた両手袋が、数m離れた位置に介入されていたのです。

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いや、片手袋なんて研究している僕ですから、当然両手袋も撮ってはいるんですけどね。

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それに何度も書いているように、両手袋は「そもそも片手袋をどう定義するのか?」という大問題を投げ掛けてくれる存在なのですが。

でも、僕が心底フェティッシュな愛情を感じるのはやはり片手袋の方でありまして…。

休みの日に時間を掛けて思った通りの結果では無い事が判明した瞬間、「片方だけの写真を撮って片手袋だった、という事にしちまおうか」という気持ちが全く芽生えなかったか?と聞かれると、正直0%とは言い切れません。論文執筆の為に実験結果を改ざんしてしまう科学者の気持ちが少し分かりましたよ。

だが、しかし!僕はこういう失敗もここで正直に皆様に報告する事を選んだんです。失敗じゃない。片手袋研究家としてまた一歩成長したんだ!

これからも起こった事実に対して真摯に向き合う研究者である事を、ここに誓います!

大団円!


『パパと踊ろう』

2016-03-08 19:21:00 | 写真

節目節目に片手袋は現れる。

三年前、子供の七五三。根津神社に向かう途中に奴は現れた。「これは何かの啓示に違いない」。私は迷わず子供を横に立たせ、記念撮影を強行した。

そして今日。保育園のお別れ会。またもや奴は姿を現した。

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もはや何も言わずとも、片手袋の横に立つ子供。ただ、三年前よりも若干表情に陰りが見えたのは気のせいか?

「私のお父さんって、もしかして…」。そろそろ子供も色んな事を察し始めてるのかもしれない。

果たして成人式の日に片手袋が現れても、子供は横に立ってくれるのだろうか?…っていうかその時には私の横にすら立ってくれない気がする。


『転倒』

2016-03-07 23:59:00 | 写真

自転車で勾配の急な上り坂を全力疾走。

登りきった所に片手袋発見。

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個人的に地面に落ちている放置型片手袋は、低いアングルで撮影するのが好みだ。しかし座り込んで撮影するのは流石の僕でも気が引けるので、人気の無い時しか出来ない。この時は幸い周囲には誰もいなかった。

早速座り込もうとしたその瞬間、自分の体の異変に気付いた。が、気付いた時には遅かった。踏ん張りが利かずに、座り込むと同時に後ろに倒れてしまった。先程の自転車全力疾走で腿の筋肉がプルプルしてしまい、力が入らなかったのだ。

勿論すぐに体勢を立て直し撮影を済ませたが、あらゆる意味で人がいなくて良かった。

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そんな過酷な状況の末、撮影したのが今日の一枚だ。それを噛み締めて、もう一度じっくり写真を見て下さい。ほら、何だかより美しく感じないかい?

…感じない?うん、僕もそうだわ。