HIMAGINE電影房

《ワクワク感》が冒険の合図だ!
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二次創作小説『レッスルエンジェルス サイドストーリー テディキャット堀編』其の三

2010年05月18日 | Novel

 人通りの多い駅ビル周辺でタクシーを降りると、合コン場所である居酒屋の入っているビルの前では、今回の言い出しっぺである友人を含む参加メンバー3人が待っていた。

「咲恵~っ、待っていたよ。ささっ中へ入った入った」

 友人は挨拶もそこそこに、先頭に立つとワタシたちをビルの中へと案内していく。参加者(友人含む)の顔を見ると、笑ってはいるんだけど何かしら強い意気込み、気合いみたいなモノを感じる。…うわぁ、彼女たち真剣だよぉ。

 
 センスのいい内装、リーズナブルな料金設定で、若い客層に人気のあるこの居酒屋では、どこを見てもカップル連れ、グループ客が目に付き、そこかしこから男女の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 ワタシは友人に一番奥の座敷席に案内されると、もう既に参加する男性4名が待っていた。妙に落ち着いている奴、浮かれている奴、そして緊張でアガっている奴…いろいろなタイプがそこにいた。

 早速、互いに自己紹介が始まった。男性参加者は同じ大学出身らしく、大手企業の商社マンや医師、一般企業の営業マンなどさまざまな肩書きが飛び交った。ワタシはというと、それほど地位や立場などに興味なく、友人や女性参加者に合わせて「へぇ~、ご立派ですね」なんて適当に相槌を打っておいた。…宴はまだ始まったばかりだし、この和やかな空気を白けさせるのはイカンでしょ?

「……です、OLやってます」

 隣の女の子が自己紹介を終えた。先ほどから男性陣は、その場を盛り上げるために、自己紹介の度に拍手や口笛を鳴らす。さて、次はワタシの番か。一丁“営業”でもしますかね。

「堀咲恵です。《テディキャット堀》という名前で女子プロレスラーやってます」

 好奇の目が一瞬にしてワタシの方に集まった。それまではやし立てていた男性陣の口からは「ほぉ~」「へぇ~」といった感嘆符しか出てこない。そりゃそうだろう、なかなか《女子プロレスラー》を職業とする女の子にはお目に掛かれないだろうしね、うん。

 全員で乾杯の後、各自それぞれフリートークが始まった。あちこちの席で「会社はどんな所ですか?」や「年収は?」とか当たり前すぎる質問が飛び交っていた。特に、細身で全身これブランド品で着飾った男性陣のリーダー格の奴なんか、あちこちの女性に、うっすら笑みを浮かべながら他愛もない質問ばかりをしている。あーやだやだ。

 最初っから男性なんか目当てでないワタシは、次々くる質問を適当にあしらい、飲んで食べることにした。

……やっぱ場違いだよな、ワタシ。

 至る所から楽しそうな声や笑い声が聞こえ、男性女性どの顔も、厳しい現実を忘れようと心から楽しんでるって感じ。
 ワタシ?そりゃ厳しいよ。現在自分が置かれている立場とか考えると笑ってはいられない。若手という歳ではないし、かといってトップを張ってる訳でもない。いわゆる“中堅”というポジションだ。もう少し努力すれば上の方へいける…はずなのだが、現在ウチの団体は優秀なタレント揃い、年齢的な事も相まって完全に煮詰まったって感じだ。
 一方でこの現状に満足してしまっている自分がいる事も事実で、なかなかレスラーとして先が見えない、厄介な問題だ。

「…さん、堀さん?」

 ネガティブな思考を頭の中で巡らしている最中、突然自分の名を呼ばれ意識を現実に戻すと、そこにはちょっと小柄で、それでいて人の良さそうな男の人が、ワタシの目の前にいた。

「よかったら大根サラダ…食べますか?」
「へっ…?」

 ワタシは素っ頓狂な声を出して返事をしてしまった。何故に大根サラダなの?…と思った次の瞬間、目の前に山積みにされたサラダ皿の山を見て、瞬時に質問の意味を理解した。……うわっ、無意識であんなに食べてるよ。恥ずかしいぞ、これは!

「あはっ、恥ずかしい…」
「そんなことないですよ。みんな飲んでばかりでテーブルの上の料理が片付かないんで、助かります」

 そんなことを言われ、ますます恥ずかしくなるワタシ。お、大食いオンナと思われている?何か彼に話題を振ってこの場を切り抜けなければ…何か打開策はないのか、う~ん。

「え~っと、ナニサンでしたっけ?」
「ははは、木下です」
「どこにお勤めですか?」
「△△商事という会社で営業をやっております…って、ウチの会社は小さいからご存じないですよね?ははっ」
「…いえいえ、勉強不足でして」

 ワタシのどうってことのない間抜けな質問に、彼…木下さんは馬鹿にすることなく真面目に答えてくれた。その後互いにビールを注ぎあい、他愛もないおしゃべりを楽しんだ。そんなことをする内にワタシは、ここに来て良かったかもしれない…そう思った、はずだった。


「ねーねー、プロレスって八百長なんでしょー?」

 不意に茶髪の、高級品で身を固めたええとこのボンボンらしき男性が、両脇に女の子たちを侍らせながらワタシに質問してきた。向こうが厳粛な態度で質問してきたならば、それなりに対応しようと思っていたが、ウケ狙いで、しかも女の子たちを喜ばすためだけにしたものなので、ワタシの顔はみるみる内に不機嫌になっていった。
木下さんは「相手にするな」と目で合図をワタシに送るが、黙っているのをいい事にボンボンは更に調子に乗って聞いてくる。

…こいつタチ悪ぃ、高校生かアンタは?

 ついに堪忍袋の尾が切れた。ワタシはワザと手にしていたグラスをテーブルに大きな音を立てて置き、そのままテーブルの上に片足を乗っけると、呆けた顔のボンボンを睨みつけた。

「…よう、ボク。プロレスがインチキかどうか試してあげましょうか?その身体で」

 普段からは考えられない、ドスの利いた口調でヤツを脅すと、一体何が起きたか分からなずぼぉ~っとしているボンボンの頭を掴むと、ヤツの頬骨あたりに自分の腕の骨を当て、ぐっと上に持ち上げるように絞った。関節技の基本中の基本であるフロント・フェイスロックってやつだ。

「あががががががががががっ!」

 その瞬間、ボンボンは今まで経験した事がないであろう痛みに、言葉にならない言葉で泣き叫んだ。その叫び声につられてみんなが一斉にワタシのほうを見る。
 バケモノを見るような、好奇と嫌悪の入り交じった視線に気付いたワタシはいたたまれなくなり腕のロックを外した。哀れボンボンはヘナヘナっと力無く座敷席の畳の上に倒れ込んだ。

…なっ、何よ?!悪いのはそっちじゃない?

 そんな言葉が喉のあたりまで出かかったが、無言の圧力がそれを遮ってしまった。ワタシはどうしていいか分からずオロオロしていたその時、木下さんは助け船を出してくれた。

コメント
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