HIMAGINE電影房

《ワクワク感》が冒険の合図だ!
非ハリウッド娯楽映画を中心に、個人的に興味があるモノを紹介っ!

二次創作小説 『レッスルエンジェルス サイドストーリー 南 利美編』其の四

2010年05月05日 | Novel

……はぁ、はぁ、はぁ……


「どうなってやがる?アイツは化物かよ…」

 四度目のインターバルの時、呼吸を整えながら柿本裕子はセコンド陣に向かって言った。


「いい打撃が何発か入ってる。このまま攻めれば最悪、判定で勝てる」

 トレーナーらしき人物が彼女をリラックスさせるためリング下で激を飛ばすが、柿本本人はまるでうわの空だった。


…勝てるチャンスはあった。そう、何度も。

 1R開始早々、南の素早い片足タックルでマットに寝かされ足関節技を仕掛けられたが、鍛え上げた拳とキックで何とか脱出に成功。素早く立ち上がり南の二度目のタックル攻撃を見切り膝を顔面に入れ最初のダウンを奪う。が、1R終了のゴングが鳴り、決定打とはならなかった。

 2Rでは波に乗った柿本がパンチを繰り出し、南をコーナーに追い詰めるが、ほんの一瞬の隙を突かれ間合いを詰められてしまい、南の腕が柿本の胴に絡みついたかと思うと、即座にフロントスープレックスで投げ飛ばされ背中をマットに打ち付けられた。南はすぐさま首に腕を入れ頸動脈を締めようとするが、惜しくもここで2R終了のゴングが鳴った。

 3R、4R、5Rは共に、互いに警戒してしまったのか、各ラウンドに単発でタックルや打撃技が出るのみで、なかなかコンタクトする事もできず、終始ジャブやフェイントを仕掛け相手の隙を誘い出しているような単調な試合展開となっていた。


……勝ちたい!プロレスに。いや、南利美という強敵に!!

 改めて決意を強くした柿本とは反対に、南サイドでは異変が起こっていた。

「痛っ…ちょっと膝の古傷をやってしまったかも」

 いすれかのラウンド中に膝の筋を痛めてしまったらしい。だが南の表情から読み取るには、別段大事の様には捉えてなさそうだ。

 心配そうなセコンド陣を余所に、南はすぐ故障箇所へのテーピングを要請した。


……こんな事は日常茶飯事よ。それでも試合を放り投げる事は出来ないの、だってプロレスラーだから。

 膝に何重もテープが巻かれていくのをじっと眺めながら彼女は、静かに、メラメラとプロレスラー魂を燃え上がらせていた。

「…こうして固めておけば多少は踏ん張りが利くわ。何としても試合終了まで保たせないと」

 セコンドに付いて雑務をしている若手たちに、ネガティブな気持ちにならない様、自分は平気だと何事もないように語るが、最後の言葉は聞こえないような小さな声で呟いた。

……闘ってくれている相手に失礼でしょ?


 セコンド退陣のアナウンスが告げられると、それまで両者の周りを取り囲んでいた人の壁が取り払われ、リング上にはレフェリーを除いて二人だけとなった。

 互いのコーナーで睨み合う両雄。あと残り五分間で全てが終わるのだ。


「ファイナルラウンド、ファイトッ!」

カァァン!



 ゴングが鳴らされると、真っ先に飛び出してきたのは南だった。

 視線は柿本の両眼を捉えて動かそうとしない。

 柿本は突破口を開こうと二、三度ローキックを放つが、南に全てブロックされ内腿に入れることが出来なかった。

 南は前後に身体を揺さぶり、相手の攻撃圏内に入ったかと思うとすぐに退いたりして徐々に柿本の集中力を削いでいく。

 柿本のイライラが最高潮に達しようとしたとき、急に南の姿が視界から消えた。

 それまで相手の眼を見ていた南が、急に視線を外し、素早く相手の懐に潜り込み胴タックルを仕掛けたのだ。電光石火の攻撃に柿本は身動きも取れず、相手のなすがままとなってしまったのだ。


……痛ッ

 故障箇所に激痛が走り、南は一瞬顔をしかめる。が、この先二度とないであろう大チャンスを逃してなるものかと再び攻撃を続行する。

 パッと柿本の手首を掴んだかと思うと、すぐさま腕を背中側に捻り、自分のもう一方腕で支点を作り、肩関節・肘に激痛を与えた。

 柿本はどうにか脱出しようと上体を動かすが、首に南の足が絡み付いており、思うように動けない。

 プロレスリングの基本にして最強の技、ダブルリストロックが極まったのだ。マスコミが南の名前に引っ掛けて《サザンクロス・アームロック》と呼んでいるフィニッシュ技である。

「うわぁぁぁっ!!」

 柿本は肘や肩に走る激痛に耐えながら、突破口を開こうと懸命にもがく。だが、上半身は急角度に反らされており、空いている腕でのパンチ攻撃は不可能だ。残る手段は下半身で身体を動かし、ロープブレイクで逃げる事だけだった。


……届け、届いてくれ!

 懸命に身体をバタつかせ、痛みを必死に堪えながらサードロープへと足を伸ばす。攻める南も、勝機を逃がすまいと己の腕に、足に力を込め、柿本の腕を絞りあげる。

「…ブレイクっ!!」

 あぁぁ~っ!!

 会場全体に落胆の声が響きわたる。

 遂に柿本は南の関節地獄から抜け出すことに成功した。レフェリーがサードロープに柿本の左足が引っ掛かっているのを確認すると、南に技を解くように命令する。

 南は悔しがり、柿本の身体に絡み付いた腕や足をゆっくり解くと、バンッ!とマットを叩き天井を仰いだ。



……ここまでか

 膝の負傷箇所の痛みが激しくなり、最早立っている事も、テイクダウンを奪う為のタックルを仕掛ける事も難しい状態だ。そして激痛は集中力すらも彼女から奪っていく。

 南はチラリと側にいる柿本の姿を見た。

 アームロックを極められた方の腕を押さえながらうずくまっていたが、幸い大事には至らなかった様である。

 南はバッと身体を柿本の正面に、身体を預け覆い被さると、首を締めチョーク攻撃を行う。が、その力はタップを奪える程強くはなく、仕掛けられた柿本は驚きと疑問の眼差しを南に向けた。


「…何のつもりよ?」

「あなたを倒してやろうと思ってたけど…どうも膝が言うことを聞かないみたい…残念だけど」

 南は柿本に密着して、彼女だけに聴こえるよう、小さな声で話した。途中、痛みによる呻き声が混じり、最初はハッタリかと警戒していた柿本だったが、どうやら事態が深刻である事を悟った。

「…それで私にどうしろと言うのさ?」

「このまま時間いっぱい組み合って、引き分けで終わらせても構わないけど、それじゃあ面白くないでしょ…?」

「……」

「…だったらあなたの得意技で私を倒してみて?そうすればあなたの凄さが引き立つから…さ」

「南…さん」

 信じられない突然の申し出に、柿本は驚いた。

 彼女は勝ち負けだけでこの試合を見ていたが、宿敵である南は、勝つこと以上に観客の記憶に残るような名勝負を作り上げる、という事に全力を注いでいたのだった。

「大丈夫、簡単には壊れないよう、トレーニングは積んでいたつもりだから…」

 そう言うと南はパッと柿本の首筋に置かれていた両腕を離した。反則攻撃という事でレフェリーの胸元からはイエローカードが取り出され、彼女は厳重注意を受ける。

 柿本は喉元を押さえ、苦しそうなフリをしながら南を見据える。

 もし相手が約束を破り、致命傷を受けかねない攻撃を仕掛けてきたらどうしようか?という心配は、南にはこれっぽっちもなかった。柿本の真っ直ぐな瞳を見て、本能的にそう感じたのだった。



「来いっ!」

 南が叫んだ。これがフィニッシュへの合図だった。

 柿本の鋭角なローキックが南の内腿を捉えた。バチンという乾いた音が鳴る。

 南の顔が苦痛に歪む。

 そして次にミドルキックが彼女の肝臓めがけて飛んできた。攻撃を半歩ずらして避けた為クリーンヒットにはなってないが、南は身体をくの字に屈み大袈裟に痛がった。

 その時、首筋に狙いすましたように柿本の得意技であるハイキックが炸裂した。

 互いに目でコンタクトを取っていたので、両者の間では想定内の攻撃ではあったのだが、観客の沸き方は物凄く、歓声と悲鳴が入り交じった声が会場内を包み込む。

 南はそのままうつ伏せになってマットに倒れ込み、動かなかった。レフェリーに促され自軍のコーナーで待機する柿本。

「……エイト、ナイン、テン、ノックアウトっ!」

 レフェリーのカウントが終わると同時に、試合終了のゴングが無常にも打ち鳴らされた…



 

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二次創作小説 『レッスルエンジェルス サイドストーリー 南 利美編』其の三

2010年05月04日 | Novel

 先日のイベントでの激しい遺恨劇が功を奏し、この日のビッグマッチは満員御礼となり、試合会場は人で溢れかえっていた。勿論彼らのお目当ては総合格闘家・柿本裕子対《関節のヴィーナス》南 利美の異種格闘技戦だ。

……総合格闘技対プロレス、強いのはどっちだ!?

 両雄の格闘競技を全面的に出して“格闘技戦争”と煽りたてる記事も多々あったが、南本人はそんな事は露ほども思わなかった。

 二人の《女》がどちらが強いかを競うだけよ…

 専門誌のインタビューで彼女はそう答えている。つまり南自身は大事と捉えておらす、日本各地を廻って年間数百試合をこなす内の一つと位置付けているのだ。

 この日の興行は白熱した物となっていた。
 
 若手選手たちによる前座試合から熱の入った好勝負で、それから様々なビジュアルやスタイルの選手たちが次々とリングに登場し、観客を興奮の渦に巻き込んでいく。選手たちの頑張りのおかげで、南たちの試合が始まる前には、すでに会場は8割方温まっていた。



「さぁて…行きますか?」

 入場ゲートのカーテンで仕切られた内側では、南が気合いを入れるため、自分の頬をピシャン!と張った。

 いくら百戦錬磨のトップクラスの選手でも、初めて肌を合わせる相手ともなると多少ナーバスになってしまうものだ。しかも今回の対戦相手は同じプロレスラーではなく、似て非なる競技の総合格闘家。向こうがどんな攻撃を仕掛けてくるかも判らない。だからこそ、今まで培った技術や戦略、それに運動能力といった個人の持つ技量というものが大きな意味を持つ。


うぉぉぉぉぉ!


 南の入場曲が会場に流されると観客たちは一斉に唸り声を上げた。

「南さん、お願いします!」

 若手選手が入場ゲートのカーテンを開ける。

 南の目の前には漆黒の闇の中にポツンと七色の照明によって浮かび上がるリングが映っていた。今まさに彼女の周りの世界が日常から非日常の世界に移り変わろうとしている。

 会場内に設置された大型モニターには入場ゲートの踊場でリングを凝視している南の姿が映し出された。

 その視線の先には一足先に入場し、軽いウォーミングアップをしている柿本裕子の姿が映っているはずだ 黄色と黒のツートンカラーで構成されたセパレートのコスチュームに、手にはオープンフィンガーグローブを装着している。

 新女サイドからは怪我防止策として柿本にレガース着用を求めたが、これを彼女は拒否。キック出身の柿本はあくまで得意の打撃での勝ちを狙っているので、威力が数倍落ちるレガースの着用だけは頑として拒んだ。

 リングまで続く花道をゆっくりとした足取りで進み、そして時折立ち止まっては会場をぐるりと眺めて期待のこもった視線を感じ取る。

 南がリングに一歩足を踏み入れた瞬間、会場の興奮は最高潮に達した。唸り声の様な大歓声と激しい雨音の様な拍手がリング上の彼女に浴びせかけられた。

……ありがとう

 本当なら、腕を上げるなり何かしらのボディランゲージをして声援に応えるべきだろう。しかし、異種格闘技戦とも云えどもあくまで自分のキャラクターを貫き通そうとする南は、感謝の言葉が喉まで出そうになるのをグッと押し留め、心の中でそう呟いた。

「とうとうこの日が来たな、プロレス屋」

「ありがとう。最高の誉め言葉だわ」

 何時もと変わらず派手な衣装は一切身に纏わず、イメージカラーである紺色のコスチューム、白いソックス、短いレスリングシューズ。頭には大きめの白いタオルを被り、その奥からは闘志に燃えた眼が見えた。

 柿本裕子が余裕たっぷりの態度で、南の前に現れた。が、虚勢を張っているのだな。と、この業界ではベテランの域に達しようとする彼女の眼にはそう映った。

……憎まれ口叩いているけど可愛い所あるじゃん。

 レフェリーによるボディチェックを受けながら、相手の身体を品定めしていく。柿本の身体にはムダな脂肪は付いておらず密度の高い筋肉が、強さの証と言わんばかりに自己主張していた。つまり攻撃するためだけの肉体である。

 一方、南の肉体は、パッと見一般人と大差ないが、それでもよく観察するとガチッとした筋肉の上に程よく脂肪がまわっていて、一寸した攻撃など跳ね返してしまうような印象だ。首周りもかなり太く、いわゆる理想的なプロレスラー体型だ。


「総合とプロレス、今夜どっちが強いかハッキリさせてやるよ」

「…違うわ」

 精神的優位に立とうと口撃を仕掛ける柿本だったが、そんな事では南の気持ちは微塵もグラつく事はなかった。

「?」

「柿本裕子と南 利美のどちらが強いか…よ」

 南はサラリと言うと、くるりと背を向け、自分のコーナーへと歩いていった。


……セコンドアウト、セコンドアウト……


 セコンド退陣を指示するアナウンスが会場内に告げられると、しばらくコーナーポストに頭を付け精神統一していた南が、まるで雑念を吐き出すように深く息を吐いた。

……身体もいい感じ、何の問題もないっ!


―――― ラウンドワン、ファイトッ!

 カァァン!


 遂に、数万人の観客が待ちに待った大勝負の試合開始のゴングが鳴らされた。それまで対角コーナーにずっと背を向けていた南がクルッと正面を向いた。彼女の視線の先には、既に戦闘態勢の柿本の姿があった。

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二次創作小説 『レッスルエンジェルス サイドストーリー 南 利美編』其の二

2010年05月03日 | Novel

「お~っす、南。調子はどう?…ってベビーとヒールは会話しちゃいけないんだっけ?」

 緊張感のない声が、トレーニング器具を使って黙々と身体を“虐めて”いる南を除いて人ひとりいない新日本女子の道場に響き渡る。


 総合格闘家・柿本裕子との試合が正式に決定してからというもの、南に対し、彼女が普段から人を近づけない雰囲気を漂わせているのに加え

「大事な一戦だから」

と、皆が気を使ってますます声をかけ辛い状況になっていたので、ヒール・ベビーフェイスの括りはあるが誰よりも気心の知れている同期選手からの呼びかけはうれしかった。

「そんなの試合会場だけでしょ?気にすることないわ。…こんな時間に新女のチャンピオン様が何の御用かしら、祐希子?」

「いや、今日はTV撮りやインタビューなんかで忙しくってさぁ。時間は遅いけど軽~く練習しようと思って来てみたワケよ。一応プロなんだし」

「いい心がけだこと。感心感心」



 祐希子と呼ばれたこの女性は、新日本女子プロレスだけでなく日本女子プロレス界のエースであり世界チャンピオンでもあるマイティ祐希子そのひとであった。

 どんな相手でも常に標準以上の試合を見せ、上手さや強さだけでなく、持ち前の天性の明るさで観客たちを魅了し、裏表がない真っ直ぐな性格は新日本女子の同僚だけでなく他団体の選手にも好意を持たれていて、現在の日本女子プロレス界の牽引者といっても過言ではない。

 南 利美とは16歳で新日本女子の門を叩いた頃からの付き合いで、決して馴れ合いの関係でなく、お互い付かず離れずの良好な距離関係を保っている。南はチャンピオンにこそ興味がないが、真夏の太陽のような祐希子の《輝き》を羨ましく思い、同じく祐希子はベビー・ヒールを行き来するニュートラルな立場の南を羨ましく思っている。

「ほいっ、お土産だよ~」

 祐希子はそういうと南の方へ、持ってきた500ml入りのミネラルウォーターのペットボトルを放り投げる。放物線を描いて自分の方へ飛んできたミネラルウォーターを南は難なくキャッチする。

「ありがとう…それで幾らかしら?」

「150万円で~す」

「…出世払いでお願いね」


 こんな馬鹿な会話をしながら二人は道場中央に鎮座するリングの縁に座り休憩した。

……こんな事って何時以来かしらね?昔はハードな練習の後に飲む一杯の水がおいしく感じられたっけ……

 南はふとそんな事を思った。祐希子はそんなセンチな南の顔を見て、彼女に気づかれないように笑みを浮かべた。もし彼女に知られたら怒り出す事が目に見えていたからだ。脳天気そうな祐希子でも一応は考えている。

                         ●

「そんでさ、明日の南の試合のルールってどうなったの?」

祐希子は空気を変えようと、急に南に《仕事》の話を振ってみた。

「えっ、雑誌とかテレビとか見てないの?ちゃんと発表されてるじゃない」

「そうだったっけ?」

「基本、5分6ラウンドのキャッチ・スタイルで、ギブアップとKO、もしくは判定で勝敗を決め、脊髄・眼球への攻撃やパーデレポジション時の攻撃の禁止以外はなんでもありよ」


 キャッチ・スタイルとはヨーロッパなどで行われるラウンド制の試合形式で、試合自体は通常のプロレスルールで行われるが、レフェリーが反則を発見するとカードを提示する。イエローカードは《警告》を意味し、イエローカード3枚で反則負けとなり、レッドカードが出れば即座に反則負けになるという、サッカーでおなじみのシステムを用いる。この新日本女子でも稀にではあるがヨーロッパから遠征してきた選手が希望した場合や格闘技色を出したい場合に、このスタイルで試合することもある。

「なんでもありかぁ…じゃあイス攻撃しちゃったら?」

「却下」

「テーブルへのパイルドライバーは?」

「それも却下」

「いっつもやってんのにさ。はぁ…真面目だねぇ」

 祐希子の口からは本気とも冗談ともつかない発言が飛び出す。が、目はあくまでも真剣である。

「…相手がプロレスやるっていうならそれもアリでしょ、でも今回はキャッチ・スタイルとはいえ異種格闘技戦。ちょっとでも気を抜けばこちらが致命傷を負いかねないわ」

「じゃぁ尚更…」
 
 祐希子は口を挟もうとしたが、南はそれを制し、自分の胸に秘めたる想いを語り続ける。

「いい、祐希子?この試合はプロレスの基本形であるマットレスリングでお客を魅せることが私の使命だと思うの。ウケ狙いで従来のプロレス技を使えばそれなりに盛り上がるでしょうね、でもそれじゃぁ駄目なの」

「……」

「基本技術でプロレスの奥深さの片鱗を相手やお客に魅せ、キッチリ相手の攻撃を受けきり、そして最後は誰一人怪我なく試合を終了させる…これが今回の私に与えられた仕事…」


 南はそういい終わると、喉を潤すために手にしているミネラルウォーターを一口含んだ。

……軽蔑してるかしら?……

 そう思い南はチラリと祐希子のほうを見た。が、そこには満面の笑みを浮かべた彼女の顔があった。

「…すごいね、南は。相手がどんな奴かも知れないのに、どんな危険なことを仕掛けてくるかも判らないのに、相手の土俵に近い舞台に立ち、なおかつ《プロレス》をしようとしてるんだもん。尊敬しちゃうよ」

 その真っ直ぐな瞳で、面向かって正直な感想を言われたので、言った本人の南は思わず赤面してしまう。が、クールな態度は辛うじて保ち続けた。

「祐希子だって…あんな図体のデカい、化物みたいな相手に互角以上の試合を作り上げるんだもん。こっちこそ勉強になるわ」

「あたしは練習で培った身体能力と根性と技でプロレスの面白さや凄さを魅せ、南は格闘技術でプロレスの凄さを伝えようとしている…見せ方は違えどもやってることに変わりはないって」


 改めて祐希子の、ひたむきな《プロレス愛》を聞くと、夢を抱いて新日本女子の門を叩いた16歳当時を思い出し、「プロレスラーになってよかった」という気持ちを、プロレスラーとしての誇りを蘇らせてくれる。

「…そうね。ちょっと周りが変に気を使い、悶々としていたけど、祐希子とバカ話をしたおかげでパァーッと晴れた。感謝するわ」

「そう、こんな話ならいつでもしてあげるけど?」

「何事も程々が一番いいの」



 もうちょっと話したいのに…と言いたげな顔の祐希子をよそに、南はリングの中に入り、軽く2~3回後ろ受身を取ってみる。バァンといういい音が、二人以外誰もいない道場に響き渡る。

「さぁて、水ばかり飲んでたら身体が冷えてきた。祐希子、練習するんでしょ?相手になるわ」

「えっ?、うん。明日はあたしはタイトルマッチだし少~しスパーやっておくか」

「じゃぁ、ちょっと壊しちゃおうかな…って冗談よ」

「南の冗談は、冗談に聞こえないのが怖いよね~」


 ダァン!バタン!キュッ、キュッ…

 マットの下に引かれた板が投げ技の度に音を立て、ピンと張られたシーツの上を駆け回る度にレスリングシューズと擦れあい何ともいえない摩擦音をたてる。

 リングの上では激しくも、そして何やら両者楽しげなスパーリングが展開されていた。互いに言葉は交わさなくとも《技》というランゲージで会話している。それが時として言葉以上に相手の気持ちが通じ合ったりする。耳からでなく直接心に…

「南の試合ってあたしの前の前だよね?」

「そうよ」

「試合前でバタバタしてるかもしれないけど、通路で見てるから」

「…ありがとう。じゃあメインを喰っちゃう凄い試合にしちゃいましょうか」

「おっ、その挑戦受けて立とうじゃないの!」



 互いに両サイドのロープに飛び、祐希子がクローズライン、南がジャンピングネックブリーカーを仕掛け相討ちとなり、同時に双方の身体がマットに打ち付けられたとき、道場内の時計は日付が変わったことを知らせていた……

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二次創作小説 『レッスルエンジェルス サイドストーリー 南 利美編』其の一

2010年05月02日 | Novel

 ハプニングというものは突如として起こるものである。たとえ良い意味にしても悪い意味にしても、だ。

 南 利美。職業、女子プロレスラー。

 女子プロレス老舗団体かつ業界の最大手である《新日本女子プロレスリング》の所属選手で、クールな佇まいとヒール(悪役)には不釣り合いともいえる美貌、そして他に並ぶ者がいない卓越したサブミッション技術で試合会場を沸かせ、マスコミやプロレスファンたちは常に妥協なきファイトをする彼女を《関節のヴィーナス》《クールビューティー》等と呼び賞賛する。

 その南 利美が、都心部から少し離れた場所にある、買い物客でごった返している大型ショッピングモールにいた。
 
 別に買い物客として来店しているわけでなく、れっきとした《仕事》でだ。


 近く、この街にあるアリーナで新日本女子プロレスがビックマッチ興行を打つというので、少しで当日に会場へ足を運んでもらおうと、街往く人にアピールするために人通りの多いこの場所でサイン会&トークショーのイベントを開催したのだった。

 南は立場上、ヒールということもあり、イメージを守る為にこういった催しには滅多には参加しないのだが、当日参加予定選手が負傷の為出演不可能となってしまった事や、何の気まぐれか南本人が

「今日、ヒマだから出てあげてもいいわ」

と言った事で、急遽出演が決定したのだった。

「…というわけで本日は南 利美さんをお迎えしています!」


―――― おぉぉぉぉぉ!!

 女性司会者にアナウンスされ登場した《関節のビーナス》の姿に、コアなプロレスファンたちは一斉に驚きと喜びの声を上げ、そして大きな拍手で迎えた。普段はテレビや試合会場でベビーフェイス(正統派)相手に冷血無比なファイトをする姿しか見せないので、パブリックな場所で普段着姿の素顔(に近い)の南はかなり貴重なのである。

 イベントは女性司会者との対談形式によるトークショーから始まった。

 最初は緊張して口数もすくなかったが、司会者が上手く南の話を膨らませその場を盛り上げてくれたおかげで途中からリラックスする事ができ、時折笑みを浮かべながら司会者との対談を進める事が出来た。ギャラリーは普段目にしている《ヒール・南 利美》とのギャップに驚きながらも楽しんでいる様子だ。

「…一番痛かった技って何でしたか?」

「あの…ダークスター・カオスって外国人選手がいるんですけど、彼女のダークスターハンマーって技はキツかったですね。いつも次の日軽いムチウチ状態ですもん」

 こうして試合の裏話やバックステージでの出来事をネタに話は弾み、プロレスファンや一般の買い物客で埋められたギャラリーも時には話の面白さに爆笑し、時にはプロレスラーの凄さに驚きの声を上げたりした。

 南の貴重なトークショーは予定時間通り終了し、次のプログラムであるファンによる質問コーナーへと進行した。



 ここで誰もが予期せぬハプニングが起こった。

「プロレスってさぁ、ショーなんでしょ?」

 朝晩は少し冷え込みもするが、日中は汗ばむ陽気が続く今の季節、少々暑苦しそうに見えるウインドーブレーカーを着込んだ、一見細身ではあるが筋肉質の肉体を持つ女性が、半分馬鹿にしたような口調で南に向かって発言した。

「何だてめぇは?」

「引っ込め!」

 ギャラリー内のプロレスファンたちは一斉にブーイングを彼女にぶつける。騒ぎを聞きつけ、イベント運営の雑用で駆り出された若手選手たちがその女性の元へ向かう。

「…えぇ、そうね。確かにプロレスはそういう側面もあるでしょうね」

 南はいきり立つ若手をステージ上から睨み付け無言で制止すると、ただ者でない雰囲気を醸し出している女性の質問にそう答えた。

「じゃあさ、プロレスって弱いんじゃん?」

 続く失礼な発言にギャラリーはますますヒートアップしていく。が、当の南は涼しい顔をしている。

「一杯選手がいますから、弱いのもいれば強いのもいるでしょうね、当然」

「じゃあ、アンタは強いんだ?」

「さぁ、どうかしらね?ご想像にお任せするわ」


 南の怒りを買うために投げかけた質問が、いとも簡単に事ごとく軽くあしらわれてしまうので、逆に女性の怒りに火を付けてしまった。

 彼女はそれまで深々と被っていたフードを乱暴に取るとよく目立つショートカットの金髪頭が現れた。

それを見たプロレスファンはまたもや驚きの声を上げた。

「…柿本だよ!」

「総合格闘技の柿本裕子だ!!」


 柿本裕子、キックボクシング出身の総合格闘技。
 
 彼女は、月一度開催される大規模な格闘技イベント《VICTIM》において実力・人気共にナンバー1で、国内では敵なしとまで云われている、地上波放送などでも彼女の試合が放送されている為、一般的な知名度はそこそこある有名選手であった。

「それなら試してみようじゃない、どっちが強いかを!!」

「……」

 全く自分に無関心の南の態度に、ついにキレた。臨戦態勢の柿本は彼女のいるステージに歩を進めていくが、直前で新日本女子の若手選手に阻まれてしまう。

「クソッ、離せよ!おい、コラ南!聞いてんのかよ?!」

 自分の倍以上あるまだあどけなさが残る若手選手の一人に羽交い締めにされながらも柿本は続ける。

「別に…、ただお金にならないケンカはしたくないだけよ」

「クッ!」


 数人の若手選手に、連れ添われ退場させられる柿本の姿を見て、今度は南が言う。

「…あなた、ウチのリングでやるっていうんなら相手してもいいわよ」

「?!」

「実はね、来月この街でやるビッグマッチなんだけど、私のカードだけ偶然空いてるのよね。今日のイベントでかなり注目が集まっちゃったから、あなたにとってもおいしい話だと思うんだけど…?」


 南による、あまりにも“プロレス的な展開”に柿本は一瞬苦虫を潰したような顔になった。

「どうなの、やるの?やらないの?」

「やるよ!やるに決まってんだろうが!!」

 過去の、総合ルールでの輝かしい戦績、そして自分の実力には絶対的な自信を持っている柿本は即座にOKした。

「決まりね。後の交渉事はウチの会社に任せて頂戴。詳細は追って伝えるわ」

 その時ギャラリーからは本日何度目かの歓声が上がった。あまりにもサプライズ的な場面が続いたせいかプロレスファンたちの顔は、興奮のあまり皆一様に高揚していた。

 いとも簡単に挑戦を受理されてしまったので、柿本は嬉しいような、それでいて何か腑に落ちないような顔をしていたが、そんな阿呆な顔を見られるのが恥ずかしくなりフードで再び顔を隠し、足早に会場を後にした。


「…そんなわけで皆さん、是非来月の新女の興行を見に来て下さい」

 柿本の背中からは、自分たちの試合が行われるであろう、来月開催のビッグマッチのPRをする南の声が聞こえていた……

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『レッスルエンジェルス』、二次創作小説を書いてみた(汗)

2010年05月01日 | ARTWORK

 …まだプレイしてます。『レッスルエンジェルス サバイバー』を。


 思うように選手の数値が伸ばせない、というキツい面もありますが、それでもプロレス団体経営シミュレーションというものは楽しいものです。

 提携団体が大手に取られたり、手塩に掛けて育てたかわいい選手がライバル団体に引き抜かれたりと

「てめぇ、マ○マ○ンのつもりか!」

と何度心の中で叫んだことでしょう…


 私の好みの選手はというと、もちろん《レジェンド》と銘打たれている旧『レッスルエンジェルス』シリーズからの参加選手。

 それぞれ贔屓の選手もいるわけで、彼女らを入団させプレイしていくうちに久々に彼女たちの物語を妄想するようになりました。

 以前は妄想するのみに留まっていましたが、今回はキッチリと小説形式で書いてみようと考え、目下執筆中であります。またいつもの浮気癖で止めてしまうかもしれませんが…


 とりあえず第一弾として、ツンデレキャラとして人気の高い《関節のヴィーナス》こと南利美にスポットを当ててみました。……ってエッチなことを期待している人、申し訳ありません。れっきとしたプロレスを扱った小説でございますので、ハイ。

 

 

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