【小説】竹根好助の経営コンサルタント起業5章 中小企業を育てる 3 商社マンの基本を実直に
その竹根が経営コンサルタントに転身する前、どのような状況で、どの様な心情で、なぜ経営コンサルタントとして再スタートを切ったのかというお話です。
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1ドルが360円の時代、すなわち1970年のことでした。入社して、まだ1年半にも満たないときに、福田商事が、アメリカ駐在事務所を開設するという重大発表がありました。
角菊貿易事業部長の推薦する佐藤ではなく、初代駐在所長に竹根が選ばれました。それを面白く思わない人もいる中で、竹根はニューヨークに赴任します。慣れない市場、おぼつかないビジネス経験の竹根は、日常業務に加え、商社マンの業務の一つであるアテンドというなれない業務もあります。苦闘の連続の竹根には、次々と難問が押し寄せてくるのです。
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◆5章 中小企業を育てる
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◆5-3 商社マンの基本を実直に
アメリカ詣でという名称で、日本からいろいろな会社の経営者・管理職や現場の人達が竹根のいるニューヨークにやってくる。
来客者は、アメリカに来ても、どこを訪問して良いのか決まっていないことが多い。来客者の会社の状況や事前に本社から連絡を受けている訪米目的に応じて、事前に訪問先のアポイントを取っておくのも商社マンのアテンド業務の中で、時間のかかる作業の一つである。
しかし、それだけでは情報が不十分であり、必ずしもニーズにピンポイントでマッチするわけではない。むしろ、見当違いの企業にアポイントを取ってしまうことの方が多い。それでは来客者のアメリカ詣での目的を果たせない。
朝食に付き合いながら、アメリカ詣での目的や、会社がどの様な方向に進もうとしているのか、何に困っているのか等々を訊き出すようにする。その情報と自分のつたない経験で、どの様な企業や団体を訪問したら、来客者の目的にちかづけるかを考える。
その結果を秘書に連絡をし、情報を集めさせたり、調べさせたりする。
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予定に基づいて、来客者が行こうとする場所に案内する。訪問先が車で行ける場合には、ホテルまで車で来て、ホテル近くの安い駐車場に止めておき、その車で移動する。地理不案内の竹根には、地図が不可欠である。書店で売っている地図は、書籍タイプになっていることが多いので、車の中で調べるには扱いにくい。訪問先近くのガソリンスタンドで給油をし、その時に地図をもらう。その近辺の地図は無料で提供してくれるので、便利である。時には、ほぼ満タン状態で、給油するガソリンの量が少なく、申し訳ないので、買えなくても良いオイル交換をしてもらうこともある。
列車で移動した方が効率が良いこともある。その場合には、グランドセントラルなど、ターミナル駅までタクシーで行く。竹根ひとりなら地下鉄で移動するのであるが、ニューヨークの汚く、危険な地下鉄に「お客様」を乗せるわけにはいかない。
訪問先では、来客者のために通訳をしなければならない。専門用語が多く、専門用語はそのまま英語で通訳をする。来客者のほとんどは、英語の専門用語を知っていることが多いので、専門的な知識がなくても何とか通訳をすることができる。竹根は普段、Thinking in English(英語で考える)でやってきているので、日本語を介さないでコミュニケーションをとっている。そのために、通訳という英文和訳や和文英訳はあまり得意ではない。得意ではないことをやらざるを得ないので、気疲れに加え、そのストレスが加わり、疲労感が大きい。
訪問先で商談を終え、ホテルに戻り、夕食に出かける。夕食をとったあと、ホテルに来客者を届けると事務所に戻る。
朝食の時に訊きだした来客者のニーズに即して、秘書が調べてくれたり、資料を集めてくれたりしたものをもとに、来客者のニーズに合うような企業の選定をし、アポイントを取るように秘書に指示書を作成する。本社からの通信をもとに本社に返事を書いたり、来客者関連のレポートを作成し、それを本社宛に郵送する。秘書からの細かいメモに目を通して、諸対応を指示書に追記する。
アテンド業務中は、帰宅するのは真夜中を廻ることが多い。
<続く>