渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

復活希望の短刀

2013年10月05日 | open










ひどい状態である。
かつての持ち主は、トンカチ代わりにこの短刀で何かを打ち付けたと
思われ、打撃痕が
棟に多く残っている。

ひどいことするな~・・・。
だが、これだけ棟を叩きつけて折れていないということは・・・この刀は
かなりの切れ物とみた。

刃部分も刃こぼれしている部分は大欠け系の刃こぼれではなく、マクレ系
なので、刀身はかなり
粘る鋼にまとめている作だと思われる。
江戸期の短刀であるが、大刀でも、製作においてはこのような実を有した鋼の
日本刀にまとめてほしいと思う。
勿論、美術的に映える作を目指すのは当然だろうが、大前提として日本刀
としての実(人を護る刃物であるということ)があってこそ、神秘性や芸術性まで
昇華する実存があるものと私は確信する。実存は本質に先立つ。現実的な
目の前にある作こそがすべてだ。折れる刀を以て神秘性や芸術性を語っても、
なんの説得力もない。大前提をクリアして、否、それがあるからこそ美的な世界
が広がっていく。日本刀が元々銅鐸のような立場の物だったら、今の時代まで
生き続けることはなかっただろう。武にして美、護國、一所懸命の人の象徴、これ
以外に日本刀の姿はない。
人の命とかかわる存在であるがゆえ、日本刀は時代を越えて人の心に迫る。


ここまで傷んでいる刀を復活させてあげるには相当な金額がかかると
思われる。
けれども、なんとか復活させてあげたい。
私は
日本刀はそれほど数を所有していないが、この短刀を復活させて
あげれば、
残る原状回復の手当てをしてあげる刀は1口だけになるから
だ。
(武術使用の日本刀の研ぎ復活は別途)
総合メンテナンスをお願いする業者は気持ちの中では決まっている。
ただ、まとまった資金を準備しないとならない。
メニューとしては
  ・全研ぎ
  ・白鞘新規製作
  ・ハバキ新規製作(現行銀着せはイタミ多し)
  ・切羽
ということになるだろうが、研ぎは完全に下地成形からやらないとならない。


最近、私が刀術用の日本刀に使用していて非常に具合がよい油はこちら。

ヤマハ バルブオイル Vintage

YAMAHAの管楽器用の100%化学合成の防錆オイルだ。
説明書きによると以下の通り。
「●100%化学合成のオイルがピストンとケーシング内側をしっかり
コーティングし、金属を錆から守り素早いレスポンスと滑らかさを
長時間持続します。●比較的クリアランスが大きめのピストンにも
強い油膜を長く保ち、スムーズなタッチを可能にしています。●高い
防錆効果があり、楽器内面を錆から守ります。」


要するにトランペットやサックスなどの管楽器の可動部分用の防錆オイル
なのだが、これがかなり良い。
使い始めの時には刀身に被膜ができにくくてダメかなと思ったが、
継続
して使ってみたら、非常に薄い被膜で刀身一面を覆うことが
でき、防錆
効果も一般的刀剣油よりも高いことが判明した(比較実験済み)。

なによりも、油を塗っているのかいないのか判別がつかないくらいの
薄い被膜を形成して、刀身がベタつかないのが良い。
ヤマハのこのバルブオイルは何種類かあるようで、一番粘度の高い物を
選んだ。(価格も多少高い)
最近これが頗る調子が良い。
楽器屋さんで手軽に購入できる。


私はネルに刀剣油を含んで日を越して使いまわすということを一切しない。
稽古で使用した刀は、手の脂を完全に除去して
保存油を専用紙(揉んだ
上質のティッシュ。駅前で配っているのは×)
に垂らして刀身を拭っている。
油を浸み込ませたままのネル小片で
刀身を拭うことはしない。常に新品の
油を使用する。湯水のように
使用する。レースでもそうだったが、オイルは
ケチってはならない。オイルよりも本体のほうが大切だからだ。
特に日本刀の場合、手脂と混ざったネルの古い油を刀身に塗りつけて良好
な保存防錆
効果があるとは私には思えない。

概して武術で真剣日本刀を使うケースでは油を浸み込ませたネルで
刀身を拭うだけの人が多い。(というかほぼ100%近くがこれ)
私個人はそれをしない。
武用刀といえども、刀身が真剣であるならば稽古や試合で刀を運搬する時
には白鞘に刀身を
入れて移動するし、休憩時間に刀身を手入れした後も白鞘
に入れて
おく。
刀への気遣いは、たとえ武用刀でも、「やり過ぎ」というものはないように
私自身は思っている。