立冬を過ぎ秋も深まろうとしている。ところで昨秋、国内を賑わせた話題はラグビーワールドカップ日本大会の熱戦である。日本代表の活躍もあって久し振りにラグビーの試合を堪能することが出来た。メジャースポーツの座を久しくサッカーに奪われていたラグビー界にとって、国民の熱心な応援を受け輝いた年でもあった。
スポーツ観戦につきものなのは、観客の熱狂的な応援である。ラグビーではないが、ドーハの悲 . . . 本文を読む
30年前の話になる。阿川氏の訪中と同時期の1990年、私は友好訪中団の一員として安徽省の省都合肥市を訪れた。その時の玄関口は上海近郊の虹橋空港で、行きと帰りは上海の国際飯店に宿泊した。
帰国する当日、宿舎の前にある人民公園を散歩することにした。人民公園は都心部にある広い公園で、早朝から人々が行き交い、あちこちに、ゆっくりと体を動かす太極拳のグループがいる。その様子を眺めながら初めての中国旅行 . . . 本文を読む
阿川弘之の随筆集を読んでいて、「北京の怪」と題する文章に、はたと思い当たることがあった。
初出は1992年の「文学界」1月号。前年5月の訪中で北京に滞在したときの話である。彼はご当地の食事のまずさに辟易し、美味しい屋台の油条を求めて早朝の王府井を歩いていた。
どこからともなく日本語が聞こえてくる。振り返ると、日本語は二人組の男性が持つ小型のテープレコーダーから流れて来ている。そして、彼等 . . . 本文を読む
数日前のNHKBSプレミアムで、醍醐寺から京都の桜の特集番組が放映されていた。夜7時からの生中継で、深く暮れかかる夜空の下、ライトに照らされた大枝垂れ桜は優美で見事なものである。夜とはいえ、秀吉の「醍醐の花見」を彷彿とさせる番組だった。京都は寺社仏閣が多く桜の名所が各地にある。桜は花を愛でるだけでなく、土地の風景や文化と結びついて人々の記憶に残る。
ところで、テレビの生中継には俳優の近藤正臣 . . . 本文を読む
私の長男は東京に住んで二十数年になる。仕事も家庭も東京に本拠があり、言葉もすっかり東京人になったようだ。ただ話を聞いていると、生き馬の目を抜くといわれる東京での仕事はなかなか大変らしい。私は仕事で東京の人と関わったことはあまりないが、幾つか印象に残った思い出がある。
就職して間もない頃、東京での講習会に参加した。初めての東京出張でもあり、お上りさん気分で夜行列車に乗った。講習会には各地から人 . . . 本文を読む
昼寝しようとソファーでうつらうつらしていたら、玄関のチャイムが鳴った。出てみるとセールスである。人の都合も考えずと気分を害し、要らないと一言で断った。部屋に戻ってまた横になり、少し邪険すぎたかなと一人苦笑いをした。
目を閉じていると、ゆくりもなく学生時代に訪問販売のアルバイトをした記憶が甦ってきた。
師走に入って間もなくのことだった。友人に誘われて、サイドビジネスで表札販売の代理店をして . . . 本文を読む
幼稚園の年長組の時、小学校の運動会に出た。来年度に1年生になる幼児たちの徒競走である。競争とはいっても、横一列になって数十メートル先のゴールまで走り、そこで記念品をもらうのである。自分も小学生になるのだと嬉しかった。
翌年、晴れて小学校に上がり木造校舎の1階の教室に入った。担任は丸顔の女先生だった。この先生は2年生まで同じ学級を担任した。一つ一つ交わした言葉は覚えていないが、優しい先生であっ . . . 本文を読む
今から30年ほども前。時々、社のトップに随行して出張した。行き先は主に東京である。初めて行った時は先輩からノウハウを色々と教えてもらった。出張先ではトップが仕事に専念できるよう、諸事一切の雑用は随行者の仕事である。しかも効率的に動けるように気を使う。
まずお供だから当然、鞄持ちである。訪問先への土産や資料もあるので、自分の携行品は洗顔用具や着替えなど限られたものしか持って行かない。
社用 . . . 本文を読む
人は誰でも失敗をし、そこから学んで成長をする。失敗の原因には色々あるが、その一つが思い込みである。
大学の最終年次だったと思う。その年の秋に学生ゼミナール大会が私の大学で開催されることになり、私も手伝った。大会は準備から当日の進行まで全部、学生の手によって運営される。私の担当は全国から寄せられる論文を整理し、参加者に配布するために会場ごとに仕分けすることであった。この仕事は大会前には終わり、 . . . 本文を読む
文筆家で写真家でもある藤原新也のエッセイを読んでいて昔の出来事を思い出し、はたと膝を打った。
彼が18歳の時というから、もう50年以上も前の話である。九州の門司から初めて上京し、東京駅に着いたのは夕暮れ時であった。神田の方に歩きだし食事をしようと、とあるラーメン屋に入った。そこでラーメンを注文し、いざ食べようとして目が点になるのである。少し長いが原文から引用する。
「その食品は異様な色をし . . . 本文を読む