この時期になると毎年おふくろは「きゅうり植えたんか?」と聞いてきた。
3年前の秋に死んだおふくろは、春にはほとんど会話も無く寝てばかりで、
たまに見舞いに行っても話すこともなく、私はぼんやり横でつっ立っていたのだ。
とつぜん、目をつむったままのお袋が口を動かし「まこと、きゅうり植えたんか?」と小さくつぶやいた。
とっさに私は「植えたで」と答えたが、実はその時、きゅうりはまだ植えてなかった。
おふくろに言われて植えるきゅうりの苗。
そういや私は小さい頃からすることが遅く、いつでも「はよしい」とおふくろに叱られてた。
言われないままその年は、庭の畑は草ぼうぼうになっていたのだ。
あわててきゅうりの苗を買いに行き庭の畑に植えた。
出来上がったきゅうりは何本か持って行かせたがおふくろが食べたのかどうかは知らない。
いずれにせよ「きゅうり植えたんか?」がおふくろとの最後の会話だった。
それから毎年、かかさずきゅうりを植える。
きゅうりを植えることが、おふくろへの思いに繋がっている。
「きゅうり植えたんか?」と言って欲しいといつもそう思いながら。
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