キューピーヘアーのたらたら日記

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ドンファン (その1)

2008-06-10 11:04:08 | 私が作者です
施設には男女交際禁止という規則がある。

だが、良子の知る限り守られたためしは無い。

むしろ、自由恋愛を薦めているきらいさえ感じられる。

去年、メンバーさん同士が結婚したときには、所長が仲人をした。

内々の結婚式だったので良子はお呼ばれしなかったが、花嫁は所長のスピーチに感動し、

何もかも、所長を始め職員さん方のおかげです、と言って泣いていたらしい。

施設とは、正式名称:精神障害者地域活動支援センター「スマイル」のことで、

良子はここの生活指導員になって7年になる。

崖っぷち独身29才、おとこおんな、未だ男を知らない天然記念物、永遠の処女、

そう陰口を叩かれながら勤めてきた。

ここでお知り合いになれるのは、絵に描いたようなダメ男ばかりだ。

まず、仕事をしない、したがって文無しだ。

他人にたかる、孤立する、そして施設に来る。自己紹介をさせると、

「友達を作りたくて来ました。1日でも早く社会復帰できるよう頑張ります。

 どうぞ、宜しくお願いします。」

などと、白々とのたまう。

何故、そのような境遇になってしまったのか?

一向に反省などということをしないのが彼らの特徴だ。

とはいえ、統合失調症、てんかん、躁うつ病などの精神疾患は、

その発生の機序がまだ完全には明らかにされていない。

新しい薬が開発されてはいるが、全快するのは患者のうち約3割だ。

施設はいわば社会のセフティネットとして機能している。

なりたくて精神病になったひとはいない。

仕事をしないのも雇ってくれるところが無いからだ。

精神病→異常者→何をするか分からない人→犯罪者予備軍

という社会の偏見の図式は、何十年にもわたる良子の諸先輩方の並々ならぬ

労苦の積み重ねより重くのしかかっていて、

決して破壊できぬ強固な壁となって、職員やメンバーさんたちの前に立ちはだかっているのだ。

社会から締め出され、家族からも半ば見放され、幻聴や妄想に苦しめられ、

時には自・殺の誘惑に駆られ、実際に何人かは本当に他界してしまう彼らにとって、

ここは地上の楽園である。

ここには何でもある。

卓球台、野球道具一式、ソフトバレーボール、バドミントンラケット、

雀卓、トランプ、花札、パソコン、通信カラオケ、ギター、キーボード、

プラズマテレビ、ビデオデッキ、CD、DVD、MD、集会室、和室、静養室、

キッチン、風呂、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、喫煙コーナーに空気清浄機、

そして、一番大切なことは何よりも仲間がいることだ。

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