２．雨の恋

　会社帰り、外に出ると雨が降り出していた。折りたたみの傘を広げようとすると、隣には好きな人が傘を忘れて、駐車場の車を止めている所までどうやっていこうかと、立ち往生していた。
　雨の中見る彼女は、更に美しかった。雨の季節に咲く紫色のアジサイの様な感じがした。
　私は傘を持っていたので「一緒に入っていかない」と言って、傘をかっこよく広げた。
　彼女は、「いいんですか。」と言って私に寄り添って来た。近寄ると香水の甘い香りが漂っていた。その香りを嗅ぐと幸せな気持ちになった。
　車まで、約百歩くらいだろうか。なるべく傘を彼女の方に差していた。
　私には、その道のりがかなり遠くに感じていた。早くついて欲しいようなついて欲しくないような気がしていた。
　水溜りをジャンプして二人でよけて、笑っていた。
　雨は降り続いている。止めてあった車のガラスに私達の姿が反射して映っていた。お似合いのカップルのように感じた。
　このまま時が止まればいいのに。
　色々な事を考えているといつの間にか彼女の車の前に着いた。彼女が急いで乗り込んで静かに言った。
　「優しいんですね。スーツがずぶ濡れですよ。」彼女は車の中のタオルを後部座席から取り出すと、私の方に差し出した。
　「ありがとう。」私がタオルを掴んで拭いていると、彼女はドアを閉めて、窓のウィンドウを開けた。
　「風邪ひいちゃいますから。早く拭いて下さいね。今度逢った時にそのタオル返してください。」
　「分かった。お疲れ様。」彼女がウィンドウを閉めて、軽く手を振って、車を発信させた。
　私は彼女の車を見送っていた。彼女の車が見えなくなると、タオルを掴んで、うれしくて、水溜りを高く蹴っていた。