黒い暗雲が立ち上がり、光が失われ、ゴォゴォという音と共に雨が降り出す。
病院の一室で寝ている老人。ベッドの周りを囲む家族。
孫であるナオトが祖父の所へ近寄り、手を握っている。
「じぃじぃ目を覚まして。」隣で、泣いている母親がナオトの頭を撫でながら言った。
「お父さん。返事をして。」その声が病室に響くと、答えたかの様に心電図の音が一本、左から右へと流れていった。
号泣する家族。まだ温もりがあり、祖父の手を握り続けるナオト。
何も言わずすすり泣く家族。母親がナオトに手を離す様に言うと、ナオトが「じぃじぃまたね。」と呟いた。
ベートーベンやモーツアルトの絵が飾られてある音楽室。窓の外を見渡すと土砂降りの雨が降っている。運動場が水浸しで、5時間目の体育のテニスはないだろう。
僕が外を見ていると、隣の席のサチが話しかけてきた。
「雨ばかりで嫌だね。」
「梅雨だからしょうがないよ。」
「私、今雨のラプソディっていう歌を作ってるんだけど、雨の音ってドレミで表すとしたら何の音だと思う?」音楽の先生が前でピアノを弾いている。サチが先生の様子を見ながら言った。
「また、難しいこと言うね。」僕は一時考えた。ザザァという音だから、ドじゃないかと思ったが、あまりにも低い音のような気がしたので、ミじゃないかなと言った。
「ミね。私もレの音かミの音が近いような気がしたんだ。今日みたいな雨は、低いドの音が近い様な気がするけど。」とサチは、八重歯を見せて笑った。
「低いドの音、連発でも面白いんじゃないか。前に飾ってあるベートーベンも多分好きな音だと思うよ。」
「この曲はね。なんていうのかな。人生の移り変わりを表したいんだ。だから、ミの音がいいような気がする。考えてくれてありがとう。」
「その曲作ったら、聞かせてよ。」
「分かったわ。一番に聞かせてあげる。」サチが指で机を軽く叩いた。いい曲が思い浮かんだのだろう。僕は、先生のピアノの音色を聞きながら、外の景色を眺めた。雨の音がリズムを作り、いつも見ている景色が、違った感じに見えた。
田舎道の畑を抜けると、オンボロな小屋がある。
学生服を着た高校3年のユウキとエリコがいた。一緒に遊んでいたのだが、横殴りの雨が降り始め、止むまでの間、この小屋で雨宿りをする事にした。
小屋の独特な匂いがしている。
「雨止まないかな。」沈黙が嫌いなエリコが雨漏りしている天井に向かって話しかけた。
「このままここにいたい気もするけど。」ユウキが横でTシャツ脱いで絞っている。
「それってどういう意味。」
「俺たち、そろそろ付き合って3ヶ月だろう。キスくらいしてもいいんじゃないかと思って。」少し沈黙があったが、外の雨でかき消されている。
「いいよ。キスしても。」エリコが目を閉じて、ユウキに近づいた。ゴウゴウと風が小屋を揺らしている。ユウキが口を結び、エリコの肩に手をやった。濡れたTシャツ。唇と唇が触れた。透明な雨の様な感触がした。
エリコが消えてなくなるような気がして、もう一度キスをした。エリコは目の前にいる。何度も確かめるように抱きしめながらキスを交わした。
「痛いよ。」エリコが恥ずかしそうに呟いた。
「ミミミレレレミミミレレレファソラシド」サチが、ミの音を押して、ラブソングにしたいなと呟きながら家のピアノを弾いていた。
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病院の一室で寝ている老人。ベッドの周りを囲む家族。
孫であるナオトが祖父の所へ近寄り、手を握っている。
「じぃじぃ目を覚まして。」隣で、泣いている母親がナオトの頭を撫でながら言った。
「お父さん。返事をして。」その声が病室に響くと、答えたかの様に心電図の音が一本、左から右へと流れていった。
号泣する家族。まだ温もりがあり、祖父の手を握り続けるナオト。
何も言わずすすり泣く家族。母親がナオトに手を離す様に言うと、ナオトが「じぃじぃまたね。」と呟いた。
ベートーベンやモーツアルトの絵が飾られてある音楽室。窓の外を見渡すと土砂降りの雨が降っている。運動場が水浸しで、5時間目の体育のテニスはないだろう。
僕が外を見ていると、隣の席のサチが話しかけてきた。
「雨ばかりで嫌だね。」
「梅雨だからしょうがないよ。」
「私、今雨のラプソディっていう歌を作ってるんだけど、雨の音ってドレミで表すとしたら何の音だと思う?」音楽の先生が前でピアノを弾いている。サチが先生の様子を見ながら言った。
「また、難しいこと言うね。」僕は一時考えた。ザザァという音だから、ドじゃないかと思ったが、あまりにも低い音のような気がしたので、ミじゃないかなと言った。
「ミね。私もレの音かミの音が近いような気がしたんだ。今日みたいな雨は、低いドの音が近い様な気がするけど。」とサチは、八重歯を見せて笑った。
「低いドの音、連発でも面白いんじゃないか。前に飾ってあるベートーベンも多分好きな音だと思うよ。」
「この曲はね。なんていうのかな。人生の移り変わりを表したいんだ。だから、ミの音がいいような気がする。考えてくれてありがとう。」
「その曲作ったら、聞かせてよ。」
「分かったわ。一番に聞かせてあげる。」サチが指で机を軽く叩いた。いい曲が思い浮かんだのだろう。僕は、先生のピアノの音色を聞きながら、外の景色を眺めた。雨の音がリズムを作り、いつも見ている景色が、違った感じに見えた。
田舎道の畑を抜けると、オンボロな小屋がある。
学生服を着た高校3年のユウキとエリコがいた。一緒に遊んでいたのだが、横殴りの雨が降り始め、止むまでの間、この小屋で雨宿りをする事にした。
小屋の独特な匂いがしている。
「雨止まないかな。」沈黙が嫌いなエリコが雨漏りしている天井に向かって話しかけた。
「このままここにいたい気もするけど。」ユウキが横でTシャツ脱いで絞っている。
「それってどういう意味。」
「俺たち、そろそろ付き合って3ヶ月だろう。キスくらいしてもいいんじゃないかと思って。」少し沈黙があったが、外の雨でかき消されている。
「いいよ。キスしても。」エリコが目を閉じて、ユウキに近づいた。ゴウゴウと風が小屋を揺らしている。ユウキが口を結び、エリコの肩に手をやった。濡れたTシャツ。唇と唇が触れた。透明な雨の様な感触がした。
エリコが消えてなくなるような気がして、もう一度キスをした。エリコは目の前にいる。何度も確かめるように抱きしめながらキスを交わした。
「痛いよ。」エリコが恥ずかしそうに呟いた。
「ミミミレレレミミミレレレファソラシド」サチが、ミの音を押して、ラブソングにしたいなと呟きながら家のピアノを弾いていた。
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