恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

13.母の手②

2017年04月07日 | 家族
 小学3年生の頃、病気がちだった。遠足の前は必ず熱が出るし、修学旅行なんて、とてもじゃないが、考えるだけでも風邪を引いた。母親は、知恵熱とか言うけど、自分でもよく分からなかった。
 今日も、学校で体育の授業の前に、熱が出て、保健室に行った。
 「また、熱が出たの?」と先生が言って、心配そうな顔をして、オデコに手をやり、体温計を私の胸に指した。
 保健室の先生の顔を見たい気持ちがあって、体が勝手に熱を出しているのかもしれなかった。新任の先生で、若くて、色白の先生だ。
 保健室は、ベッドが二つあり、挟むように大きなストーブがあって、消毒液の匂いとストーブの灯油の匂いが混ざって、ツーンと変なにおいがした。
 「38度ね。」体温計の数値を見た先生が呟いた。
 「今日は、早退した方がいいかな。」その後、家に電話をして、エプロン姿の母親が必ず迎えに来る。
 父の定食屋を手伝っている母親に心配をかけて、心の中で、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 母親が保健室に入ってきて、先生と「熱がすぐ出るから、すみません。」と話していた。それから、私の手を引っ張って、学校を出る。
 母の手は、食器を洗ったりするから、傷が所々あり、あれている。
 外に出ると、冷たい風が吹いてて、母の手をギュッと握りしめた。
 母親の手を握ると安心するのか、熱がすっと下がっていくような気がする。
 校門の前にある桜の木々が揺れている。あと少しすると、桜が満開になる。
 今でも、桜を見ると温かな母の手を思いだす。
 

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