恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

15.面影

2006年04月15日 | 語る恋
 居間の畳に座り、置いてある大きな鏡を見ていると、嫌になる時がある。
 しわくちゃの自分の顔。白髪頭。分厚い眼鏡。
 どれもこれも、若い時にはなかった事だ。
 若い時は、肌のツヤやハリがあり、道を歩く時、若い男から振り返って見られていた。
 今ではどうか。振り返るどころか、私を見た瞬間、モーゼの十戒の様に人々が道を開けてくれる。
 それだけ歳を取ったという事だろうか。
 夫も他界し、子供も自立して、それぞれの家庭を持っている。私は広い家に一人ポツンと鏡を見ていた。
 夫とはお見合いで知り合った。スーツをバシッと着ている夫は、紳士の様で、どこか男くさかった。
 段々と話しているうちに、好きになって結婚した。普通の平凡な家庭だったと思う。私は夫と一緒に過ごして来た事は無駄ではなかったと思う。
 今では唯一の楽しみが鏡を見る事なのかもしれない。
 白髪頭をクシで直し、赤い口紅をして、化粧をして、眼鏡をはめる。鏡の向こう側では、夫も生きていて、子供も無邪気に鏡の前で遊んでいる姿が見える。
 家庭の幸せってそんなものなのかもしれない。
 私は、昔の面影を鏡の中で探していた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿