恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

14.海の落し物

2006年04月13日 | 語る恋
 近くの海を家族三人で散歩していた。ザザザー波の音が近くで聞こえる。ミクが砂浜で貝殻を拾った。
 「耳にあててごらん。波の音が聞こえるだろう。」
 「本当だ。聞こえる。」
 「これは、人魚さんの忘れ物なんだよ。」
 「すごーい。」ミクが貝殻を耳に押し当ててずっと聞いていた。ミクは、隣にいた母親に貝殻を渡した。
 母親は受け取ると、同じように耳にあてた。
 「波の音がするわね。そういえば昔を思い出すわね。」父親に向かって言った。
 「そうそう。僕と出会った時も海だったね。」
 「私が海で泳いでいた時、あなたが話しかけてきたのよね。」
 「そうだったかな。」惚けた表情をしている父親にミクが首をかしげていた。砂浜では、色とりどりの貝殻が落ちていた。
 近くを走っていた少年が落ちている貝殻を一つ拾った。大事に掴むと走って、父親の所に持っていった。
 「この貝殻は、アクセサリーに出来るんだよ。」父親は、素早く貝殻に穴を開けて紐を通した。父親が少年の首にかけると少年は無邪気に微笑んだ。
 砂浜で男女が静かな海を眺めている。
 「このまま時が止まってしまえばいいのに」と女が言っていた。男は頷くと女の頭を撫でて抱き寄せていた。
 二人の空間に時間は関係ない。いつまでも海を眺めていた。 
 海の上で、サーフィンをしている筋肉がひきしまっている男がいた。首からは、貝殻の小さなアクセサリーをしていた。
 その姿を見ている女の姿があった。女は、サーフィンの男に手を振っていた。男も手を振って答えていた。次の波に備えて、ゆっくりと様子を見ていた。
 砂浜のゴミを拾っているおじいさんがいた。透明のゴミ袋に入らないくらいゴミが入っていた。ボランティアでゴミを拾っているらしかった。砂浜に落ちている空き缶や紙くず、様々なゴミがある。
 丁寧に拾うおじいさんの姿が夕日が沈む海に溶け込んで絵になっていた。
 おじいさんは、ゴミの中から、貝殻を見つけて、耳に押し当てた。
 貝殻から海の音色が聞こえてくると、しわくちゃな顔で喜んでいた。
 「バカヤロー。」海に向かって叫んでいる大きな男がいる。今日女から振られて、涙を流していた。海はそれに答えるかのようにキラキラと宝石のように輝いていた。
 
 十年後。ミクが彼氏と海岸を歩いていた。二人共学生服を着ていた。近くに自転車が転がっていた。二人は、恥しがりやで、何か伝えようとしているが中々話が出来なかった。ミクは、足元に落ちていた貝殻を拾うと耳に当てた。
 昔、父親から聞いた事を思い出していた。母親と出会った場所。二人の思い出の場所。貝殻から人魚の音色が聞こえてきたような気がした。
 彼氏が不思議そうにその姿を見ている。
 「なんでもない」と呟くと貝殻を海の向こう側へと投げた。彼氏も真似をして、貝殻を一つ投げた。
 二つの貝殻は、寄り添うように海の雫と流れていった。

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