北風が通り過ぎていく。紅葉が色づく並木道を通り、鉄平は大学の学園祭のステージで熱唱していた。
駅で歌っていた甲斐もあって、先輩からバンドをするからボーカルしないかと誘われてこうやって歌う事が出来た。
歌手になる夢の前座だと思えばやる気が出た。
鉄平が歌を歌い終わると拍手が鳴り止まないくらいに凄かった。思ったよりお客のウケがよかった。
アンコールをもう一曲歌って、鳴り止まない拍手の中ステージを降りた。
鉄平がステージを降りると、アイシャドウをつけた目が大きくて、ジーンズがよく似合うスタイルがいい女の人が待っていた。
「私あなたの歌を聞いて元気が出ました。握手してください。」と言って女の人は手を差しのべた。鉄平はありがとうと握手をした。
「これからもがんばって下さい。私応援してますから。」と言ってその女の人は去って行った。
鉄平の歌もマンザラではなかったようだ。これから夢の為に頑張っていくしかないのだ。
大学の並木道は、木の葉が落ちていて、腰が曲がったおばぁさんがホウキをもって掃除をしていた。
それにしても美人な顔つきだったなと思い出したら顔がにやけてきた。
よりこに「今終わった。」とメールを打って、帰りマクドナルドでご飯を食べて帰った。
家に帰って、歯を磨くと違和感がありキリキリと痛み出した。
鏡を見ると黒くなっている歯が何本かあり、これじゃ痛いはずだなと関心をして、歌手が歌えなくなったら終わりだなと思って、明日嫌な歯医者に行くことにした。
歯医者に入ると、消毒液の鼻につく臭いがして、キーンと嫌な音が響いていた。子供の頃からこの臭いと音が大嫌いだった。
鉄平がソファで待っていると名前を呼ばれたので部屋に入る事となった。
ついに来たか。
少し緊張してベッドの様な椅子に座っていると、「あれ。鉄平君じゃない。」と白衣を着た女性から言われた。
こんな天使の様な人は見たことがないなと考えてネームプレイトを見た。
亜矢子と書いてあるがやはり知らない名前だった。
顔とネームをじっと見ていると、昨日会った鉄平のファンだと言った女の人だった。
「どうも。」思い出して笑った。
「驚いた。昨日の今日だものね。私たち運命なのかしら。」
「かもですね。ここで働いていたんですか?」
「そうだよ。今歯科衛生士だけど、これからもっと勉強して歯科助手になっていけたらいいなと思うわ。」
「かっこいいですね。俺と似てますね。」隣の席では子供が泣きながら治療をしている。
亜矢子は「ちょっと待ってて。」と言って、その子供をそっと手で頭を撫でていた。子供は見る見るうちに泣き止んで先生たちはほっとしていた。
子供も天使だと気づいているのかもしれないなんて思っていると、鉄平の所に戻って来た。
「ところで、歯の治療に来たんだよね。私が見てみようかしら。」と言って乗っている椅子を下ろされて、口を開けてと耳元で囁いた。
「これひどいわね。これじゃ一週間は来てもらわないといけないわ。」
「えっそんなに。」
「そうね。虫歯が三本あって、軽いやつも何本かあるわ。」
「そんな。」
「私がフォローするから大丈夫。仲良くしていきましょうね。」亜矢子は、何故かウキウキしている気がした。鉄平は、虫歯が痛くてしょうがなかった。
というわけで、一週間歯医者に通うことになり、亜矢子と色々な事を話した。
行きつけのBARを教えてもらったり、外国のミュージシャンが好きだという事が分かり、CDを借りたりして、映画を見に行く約束までした。
鉄平にはよりこがいるので、社交辞令くらいにしか思ってはいなかった。
一週間の治療もあり歯の痛みもなくなった。
これで大好きな歌が歌える。
「なんかありがとう。」治療最後の日。亜矢子が玄関で鉄平を見送っていた。
「いえいえ。仕事ですから。」亜矢子がいつもと違って、哀しそうな、寂しそうな顔をしていた。
「虫歯になったらまた来ますからそんな哀しい顔しないでください。」歯医者の前をリックサックをからった幼稚園児の集団が通っていった。幼稚園の先生が黄色い旗を持って横断歩道を渡っていた。それを亜矢子と見ていた。
一時黙った後。
「私、やっぱり鉄平君が好き。」亜矢子が呟くように言った。押し殺していたものが不意に出た感じだった。
鉄平も十分その事は分かっていた。どうする事も出来ない現実をただ噛みしめるしかなかった。
「ありがとう。亜矢子さんみたいな人から好きだと言われてとてもうれしいです。だけど、ごめんなさい。」
「そっか。鉄平君には夢があるんだよね。だけど、これだけは言わせて。私ずっとあなたのファンだから応援しています。」亜矢子は、涙目になって訴えるように言った。
鉄平はその言葉を胸に背中を向けて去った。
亜矢子の見えない視線がずっと痛かった。
秋の澄んだ空を見ながらよりこの事を想っていた。
この空がだんだん白色に染まっていく。寒い寒い季節に変わって行くのだった。
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駅で歌っていた甲斐もあって、先輩からバンドをするからボーカルしないかと誘われてこうやって歌う事が出来た。
歌手になる夢の前座だと思えばやる気が出た。
鉄平が歌を歌い終わると拍手が鳴り止まないくらいに凄かった。思ったよりお客のウケがよかった。
アンコールをもう一曲歌って、鳴り止まない拍手の中ステージを降りた。
鉄平がステージを降りると、アイシャドウをつけた目が大きくて、ジーンズがよく似合うスタイルがいい女の人が待っていた。
「私あなたの歌を聞いて元気が出ました。握手してください。」と言って女の人は手を差しのべた。鉄平はありがとうと握手をした。
「これからもがんばって下さい。私応援してますから。」と言ってその女の人は去って行った。
鉄平の歌もマンザラではなかったようだ。これから夢の為に頑張っていくしかないのだ。
大学の並木道は、木の葉が落ちていて、腰が曲がったおばぁさんがホウキをもって掃除をしていた。
それにしても美人な顔つきだったなと思い出したら顔がにやけてきた。
よりこに「今終わった。」とメールを打って、帰りマクドナルドでご飯を食べて帰った。
家に帰って、歯を磨くと違和感がありキリキリと痛み出した。
鏡を見ると黒くなっている歯が何本かあり、これじゃ痛いはずだなと関心をして、歌手が歌えなくなったら終わりだなと思って、明日嫌な歯医者に行くことにした。
歯医者に入ると、消毒液の鼻につく臭いがして、キーンと嫌な音が響いていた。子供の頃からこの臭いと音が大嫌いだった。
鉄平がソファで待っていると名前を呼ばれたので部屋に入る事となった。
ついに来たか。
少し緊張してベッドの様な椅子に座っていると、「あれ。鉄平君じゃない。」と白衣を着た女性から言われた。
こんな天使の様な人は見たことがないなと考えてネームプレイトを見た。
亜矢子と書いてあるがやはり知らない名前だった。
顔とネームをじっと見ていると、昨日会った鉄平のファンだと言った女の人だった。
「どうも。」思い出して笑った。
「驚いた。昨日の今日だものね。私たち運命なのかしら。」
「かもですね。ここで働いていたんですか?」
「そうだよ。今歯科衛生士だけど、これからもっと勉強して歯科助手になっていけたらいいなと思うわ。」
「かっこいいですね。俺と似てますね。」隣の席では子供が泣きながら治療をしている。
亜矢子は「ちょっと待ってて。」と言って、その子供をそっと手で頭を撫でていた。子供は見る見るうちに泣き止んで先生たちはほっとしていた。
子供も天使だと気づいているのかもしれないなんて思っていると、鉄平の所に戻って来た。
「ところで、歯の治療に来たんだよね。私が見てみようかしら。」と言って乗っている椅子を下ろされて、口を開けてと耳元で囁いた。
「これひどいわね。これじゃ一週間は来てもらわないといけないわ。」
「えっそんなに。」
「そうね。虫歯が三本あって、軽いやつも何本かあるわ。」
「そんな。」
「私がフォローするから大丈夫。仲良くしていきましょうね。」亜矢子は、何故かウキウキしている気がした。鉄平は、虫歯が痛くてしょうがなかった。
というわけで、一週間歯医者に通うことになり、亜矢子と色々な事を話した。
行きつけのBARを教えてもらったり、外国のミュージシャンが好きだという事が分かり、CDを借りたりして、映画を見に行く約束までした。
鉄平にはよりこがいるので、社交辞令くらいにしか思ってはいなかった。
一週間の治療もあり歯の痛みもなくなった。
これで大好きな歌が歌える。
「なんかありがとう。」治療最後の日。亜矢子が玄関で鉄平を見送っていた。
「いえいえ。仕事ですから。」亜矢子がいつもと違って、哀しそうな、寂しそうな顔をしていた。
「虫歯になったらまた来ますからそんな哀しい顔しないでください。」歯医者の前をリックサックをからった幼稚園児の集団が通っていった。幼稚園の先生が黄色い旗を持って横断歩道を渡っていた。それを亜矢子と見ていた。
一時黙った後。
「私、やっぱり鉄平君が好き。」亜矢子が呟くように言った。押し殺していたものが不意に出た感じだった。
鉄平も十分その事は分かっていた。どうする事も出来ない現実をただ噛みしめるしかなかった。
「ありがとう。亜矢子さんみたいな人から好きだと言われてとてもうれしいです。だけど、ごめんなさい。」
「そっか。鉄平君には夢があるんだよね。だけど、これだけは言わせて。私ずっとあなたのファンだから応援しています。」亜矢子は、涙目になって訴えるように言った。
鉄平はその言葉を胸に背中を向けて去った。
亜矢子の見えない視線がずっと痛かった。
秋の澄んだ空を見ながらよりこの事を想っていた。
この空がだんだん白色に染まっていく。寒い寒い季節に変わって行くのだった。
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