世界の航空機需要…今後も「リース」機の割合が増加する理由
荒井 邦彦,野崎 哲也2019.6.15
荒井 邦彦,野崎 哲也2019.6.15
本連載は、『無敵のグローバル資産 航空機投資完全ガイド』(幻冬舎MC)から一部を抜粋し,
航空機市場の今後の需要傾向や航空機投資の具体的な戦略について解説します。
今回は、ますます高まっている「世界の航空機需要」の実情について見ていきます。
「世界の航空機数」は依然として急速に増加している
成長が見込まれる旅客需要に呼応して、航空機需要も増加していくと予測されています。
成長が見込まれる旅客需要に呼応して、航空機需要も増加していくと予測されています。
運航機数で約2倍、新造機は今後20年間で4万機以上が製造される見通しであり、
その総額は665兆円と試算されています。その内訳としてはナローボディ機が機数割合で72%と圧倒的に多く、
引き続きナローボディ機が主流であると見られています。
現在ほとんどの航空機が世代交代を迎えており、入れ替えの途上にあります。この世代交代は、
主としてエンジン技術の進歩によって燃費が約10~15%程度向上した次世代航空機の登場によりもたらされています。
世界の航空機数は依然として急速に増加しており、OEMが確保している受注残は2016年の生産レベルで9年分の納入に相当し、
世界の航空機数は依然として急速に増加しており、OEMが確保している受注残は2016年の生産レベルで9年分の納入に相当し、
その結果、いわゆる「ホワイトテイル」(顧客なしに製造される航空機。
エアラインによる塗装が行われず機体が真っ白のままに完成するのでそのように呼ばれる)のリスクは非常に低くなっています。
これらの次世代航空機に対する需要が強まる一方で、中古ワイドボディ機の市場は弱くなりつつあり、
これらの次世代航空機に対する需要が強まる一方で、中古ワイドボディ機の市場は弱くなりつつあり、
一部の機種は価格下落の圧力を強く受ける見通しがあったり、逆に安価な燃油価格によって、
現行機(主にナローボディ機)の寿命が延びている状況も見られたりと、需要の見通しが難しい状況になりつつあります。
中古市場も非常に厳しい「ワイドボディ機」の現状
(1)ナローボディ機市場の見通し
(1)ナローボディ機市場の見通し
市場レポートの多くは、ナローボディ機の需要は新造機・中古機ともに安定し2017年以降もナローボディ機市場は依然強いと予想しています。
廉価な燃油価格は、現行ナローボディ機に対してモデルチェンジの影響による中古価格の下落を軽減していますし、
OEMの生産体制も引き続きしばらくは新旧両モデルを製造していくほど需要は高い状況が続いています。
もちろんモデルチェンジは継続して進行していくために現行機も将来的にはモデル末期となり価格は下がっていきますが、
もちろんモデルチェンジは継続して進行していくために現行機も将来的にはモデル末期となり価格は下がっていきますが、
中古価格への折込みは適時行われるため、ある時点で価格が暴落するという状況はあまり想定されていません。
(2)ワイドボディ機市場の見通し
(2)ワイドボディ機市場の見通し
ナローボディ機と比較してワイドボディ機市場は弱く、さらに機種によって状況は大きく変わります。
すべての機齢にわたりワイドボディ旅客機の非稼働率(飛ばずに駐機場に格納されている機体の割合)はナローボディ機より著しく高く、
2016年の統計では機齢11~15年のナローボディ旅客機の駐機率はわずか2%でしたが、同じ機齢のワイドボディ機は12%になります。
個別の状況に触れると中古のボーイング777 -200ER(特にロールスロイス社製エンジン搭載機)や
個別の状況に触れると中古のボーイング777 -200ER(特にロールスロイス社製エンジン搭載機)や
古いモデルのエアバスA330については、中古市場が非常に厳しい状況になっており、
機種の選定はナローボディ機より慎重であるべきといえます。
現行ワイドボディ機市場が厳しい理由としては、
現行ワイドボディ機市場が厳しい理由としては、
①ワイドボディ機の流動性の低下、
②B787やA350など次世代機の市場への浸透、
および③現行ワイドボディ機におけるリース機割合が高いといったさまざまな要素が挙げられます。
加えて、経済性の高いナローボディ機を活用した戦略モデルやLCCなどの拡大が、
加えて、経済性の高いナローボディ機を活用した戦略モデルやLCCなどの拡大が、
ワイドボディ市場にさらに圧力を加えています。
2011年の実績と比較して、2016年のナローボディ機の駐機率(駐機保管されている航空機数/運航中の機数)
は11%〜7%へ低下していますが、
ワイドボディ機の駐機率は10%〜12%へ若干増加している状況からも
ワイドボディ機の需要が弱含みであることがわかるかと思います。
年々増している「オペレーティングリース」への依存度
(3)次世代航空機の見通し
次世代機の需給を分析する上で最も重要な2機種であるA320neoとB737MAXは、
(3)次世代航空機の見通し
次世代機の需給を分析する上で最も重要な2機種であるA320neoとB737MAXは、
今後数年のうちに、大量に市場に出回り始めます。
しかしながら、両モデルともモデルチェンジが行われたにもかかわらず、
現在は旧モデルの方が依然として多く製造されている状況です。
原油価格が急上昇したり、市場需要が急減したりといった著しい供給過剰状態にならない限り、
新型機の納入が現行機種であるA320ceoやB737NGの価値をすぐさま損なうような状況になる可能性は低いといえます。
一方で、ワイドボディ機市場では、次世代機であるB787が市場をリードしていますが、
一方で、ワイドボディ機市場では、次世代機であるB787が市場をリードしていますが、
エアバス社の最新鋭機であるA350のシェアも増加が見込まれ、順調にモデルチェンジが進むと見られています。
(4)リース機需要の見通し
全世界で運航されている航空機のうち60%弱はエアラインが自社で調達したものです。
(4)リース機需要の見通し
全世界で運航されている航空機のうち60%弱はエアラインが自社で調達したものです。
残りはリース会社からのオペレーティングリースによるものですが、その依存度は年々増加しています。
航空機需要は継続して増加してきましたが、複数のリスクイベントによりエアラインの収益性が低い時期が続き、
航空機需要は継続して増加してきましたが、複数のリスクイベントによりエアラインの収益性が低い時期が続き、
その結果過去20年間でエアラインが自社保有している航空機数はほぼ横ばいとなっています。
その実需とのギャップを埋めたのがリース会社であり、過去20年で4倍以上に成長しています。
現在のオペレーティングリースの依存度は40%以上ですが、
今後も増加していく見込みであり2035年には50%に達すると見られています。
ここで主役となるのがエアラインの代わりに航空機を取得しリースを行うリース会社や投資会社になりますが、[図表2]にある通り、今後のリース航空機の必要調達金額は年16.6兆円と見込まれており、これまで以上に膨大な資金が必要になっていくことがわかると思います。これだけの資金を限られたリース会社だけで拠出することは現実的ではなく、これからさまざまな投資商品や投資機会がここから生まれると見られています。
ではなぜ、エアラインがリースで機材を調達するのでしょうか。
例えば、これまでエアラインは保有する機体の調達や現金化、
ここで主役となるのがエアラインの代わりに航空機を取得しリースを行うリース会社や投資会社になりますが、[図表2]にある通り、今後のリース航空機の必要調達金額は年16.6兆円と見込まれており、これまで以上に膨大な資金が必要になっていくことがわかると思います。これだけの資金を限られたリース会社だけで拠出することは現実的ではなく、これからさまざまな投資商品や投資機会がここから生まれると見られています。
ではなぜ、エアラインがリースで機材を調達するのでしょうか。
例えば、これまでエアラインは保有する機体の調達や現金化、
急な航空機輸送需要の増加に対応するためにオペレーティングリースを積極的に活用してきました。
今後は、それだけではなく機材計画(フリート戦略)の柔軟性向上、
投資リスクの軽減、残存価値リスクの移転等を目的に航空機リースは活用されていきます。
あらためてこれらの要素を簡単にまとめると、
あらためてこれらの要素を簡単にまとめると、
エアラインが航空機リースを活用する理由として次の7つが上げられるでしょう。
①人気機種の調達
現在は新造機を発注しても納入まで数年待たなければいけないが、リースであればタイムリーに取得可能。
②財政的な柔軟性
リースを利用することで、財務体質と収益性を強化、また運転資本に資金を集中させることができる。
③機材戦略の柔軟性
機材の入替えの自由度が高くなる。
④前払い金が不要
新造機の購入には巨額の前払い金が必要だが、リースは不要。
①人気機種の調達
現在は新造機を発注しても納入まで数年待たなければいけないが、リースであればタイムリーに取得可能。
②財政的な柔軟性
リースを利用することで、財務体質と収益性を強化、また運転資本に資金を集中させることができる。
③機材戦略の柔軟性
機材の入替えの自由度が高くなる。
④前払い金が不要
新造機の購入には巨額の前払い金が必要だが、リースは不要。
収入を産まない納入前の前払いはエアラインにとって負担が大きい。
⑤LCCの普及
LCCや新興エアラインは特にリースの割合が高い。
⑤LCCの普及
LCCや新興エアラインは特にリースの割合が高い。
限られたシェアを獲得するためには、リースの活用が必須である。
⑥残存価値リスク
貸し手であるリース会社に帰属。
⑦調達コストの効率化
資金調達コストが高い中小のエアラインは、
⑥残存価値リスク
貸し手であるリース会社に帰属。
⑦調達コストの効率化
資金調達コストが高い中小のエアラインは、
リースを通じてリース会社の高い信用力を間接的に活用できる。
[図表2]世界の航空機数(ジェット旅客機)とリース機の割合の見通し
以上