米MMT学者のウソ 日本はMMTの正しさを証明していない
2021.02.01(liverty web)
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《本記事のポイント》
- 貨幣が増えてもインフレにならないのは、「将来不安」により国民がお金を使わないから
- 生産は増えずにお金が増えているので「貨幣バブル」になっている
- 「貨幣バブル」を解消するには、経済成長で実体との乖離を埋め合わせるべき
新型コロナウィルスの影響で、2021年度の当初予算は106兆円超となることが、昨年末に決まった。これまでの財政赤字は予算の約3割を占めていたが、21年度予算では43.6兆円となり、約4割を国債で賄うことになる。
政府が国債を発行し、日銀がそれを買い取れば、財源はいくらでもある──。「自国通貨建ての国債を発行する国は財政破綻しない」とする現代貨幣理論(MMT)は、日本で目下実験中のようにさえ見える。
MMTを掲げるニューヨーク州立大学教授のステファニー・ケルトン氏は、「日本は政府債務が大きいのに低金利のままです。MMTの主張の正しさを証明しているわけです」と日本メディアの取材に答えている。
MMTでは、インフレが起きない限り、債務を増やして良いとする。政府債務が1200兆円に達しても低金利でインフレ傾向にならない日本は、MMTの正しさを証明する国なのか。ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の経営成功学部で、経済政策を教える西一弘アソシエイト・プロフェッサーに話を聞いた。
(聞き手 長華子)
西 一弘
(にし・かずひろ) 1971年、兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科中退。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)経営成功学部で経済政策を教えている。
──1月28日夜に第三次補正予算案が可決・成立し、20年度の一般会計の歳出は、175.6兆円に膨らみました。新規国債発行額は112.6兆円となり、国債の発行額はまるで青天井で増えています。
2月に成立予定の新型コロナウィルス特別措置法の改正案は、知事の「命令」で時短に協力した飲食店などの事業者には、協力金が支払われることになりました。財源は、第三次補正予算に盛り込まれた地方創生臨時交付金4.3兆円が充てられるとのことです。
コロナの流行が続いた場合、巨大な政府債務が積み上がるでしょう。このやり方はMMTが理論的根拠になっているのでは、と疑われているほどです。この状況をどう見ていらっしゃいますか。
西 一弘氏(以下、西): 確かにMMTでは、「インフレが起こらない限り財政赤字が続いても、日銀が国債を買い取れば、貨幣の発行量を増やしてもいい」としています。ただ、いくらまでならお金を刷っていいのかという計算はないようです。
平成の時代はデフレ気味だったので、お金を少しぐらい刷ってもインフレにはならないはずだという想定があるようです。
確かに日本はバブル崩壊以降、お金を刷り続けてきましたが、インフレにはなっていません。しかしだからと言って、それがMMTの正しさを証明しているとは言えません。
日本がインフレにならないのは、発行されている貨幣の量が増えているにもかかわらず、国民がお金をあまり消費に回さずに貯め込んでしまうからです。その原因は、経済の先行きへの悲観的な見方が消えていないことと、政府の放漫財政により将来増税されるのではないかという不安から自己防衛に走っていることにあります。
また企業の側も、こんな時に派手に投資しても、生産したモノを消費者が買ってくれないので、内部留保に回してしまっています。
ケルトン教授は、日本を成功事例にしたいようです。しかし日本がインフレになっていないのは、国民が将来に対する不安を持っていて、お金を使わないためにインフレにならないで済んでいるだけです。少し過激な言い方かも知れませんが、放漫財政を続けて国民を不安に陥れることそのものが、MMTを一時的に成り立たせるポイントになるのです。
生産は増えずにお金を刷り続けているので「貨幣バブル」になっている
──今の状況を譬(たと)えるとどういう状況でしょうか。
西: 水が満水になりつつある巨大なダムに近いでしょう。ダムの水位はどんどん上がっている状況です。ダムをせき止めているコンクリートの壁は、国民の貨幣に対する信頼感です。
しかし、国民の将来不安が極度に高まり、貨幣(円)価値への懸念が高まると、決壊する可能性があります。
政府がコロナ対策で放漫財政を続けると、将来的には増税が予想されるので、それがさらに不安を呼び込み、自己防衛のためにますますお金を使わなくなるので、インフレにならない。そして「まだ大丈夫」と政府が判断してお金を刷り続けると、ダムの水位が上昇し続ける。そんな不健全な状態が続いているのです。
経済は成長しておらず、生産物も増えていないのに、お金が増えているということは、本来、お金の価値が相対的に低下することになりますが、現実にはそうなっていません。
例えば、一年間にリンゴを100個生産する国があるとします。そしてその国はお金を1万円だけ発行します。全額でリンゴを買えば、1個100円となります。ある時、お金が99万円追加で発行され、合計で100万円になったとします。そのお金が全て使われると、1万円で買えるリンゴは1個だけになります。しかし、人々が将来の不安により、99万円をタンスに貯め込めばどうなるでしょうか。リンゴは100円のままで、1万円で100個全て買えてしまいます。
お金が増えても物価が上がっていないということは、1万円の価値(購買力)が実体と乖離し過大評価されているのです。これは「貨幣バブル」と言っていい状態です。
株価や地価が実体と乖離していたらバブルと言ってよいのと同様、貨幣価値が過大評価されていると言えます。
「貨幣バブル」の崩壊を食い止める方法とは?
──ではこのバブルについて、どう考えれば良いでしょうか。
西: 大川隆法・幸福の科学総裁は、1995年に行った講演「愛、悟り、そして地球」において、当時の大蔵省と日銀が総がかりで地価の高騰を抑え込んだのは、一種の社会主義的政策であり、間違っていたとしてこう指摘されています。
「地価が高騰しているのであれば、土地そのものは増えなくても、その土地が生む付加価値を増やし、生産性を高めることによって、そのバブルの部分を、事実に即応したかたちに持っていかなければならないのです」(『愛、悟り、そして地球』19頁)
政府が建物の高さの規制を緩和するなどすれば、その土地の持つ生産性は上がり、地価の高騰に見合った付加価値を生むことができたはずです。土地の生産性が上がれば、バブルではなくなります。
この論理を「貨幣バブル」のケースに当てはめて考えると、貨幣が実際よりも高く評価されているということになりますから、お金で買えるモノを増やしていくことで、解消していくのが良いということになります。
それは国の生産性を高め、経済成長を目指すということです。お金の量に見合った経済成長をすると、国民の不安心理は収まり、安心感が広がるので、バブルははじけません。
経済成長で、実体との乖離を埋め合わせるべき
西: MMT論者は「インフレになるまでお金を刷っていい」と言っていますが、経済停滞が長期化し、財政赤字がここまで拡大した現在においては、インフレになるのは国民の不安心理が頂点に達した時だと言えます。
──もし不安心理が頂点に達したら、何が起きるのでしょうか。
西: お金の価値への不安から、人々が一斉にお金以外のものに交換しようとします。リンゴの例で言えば、その結果リンゴの値段が急激に上昇して、同じお金で買えるモノが少なくなるということです。つまり、悪性のインフレです。
その場合、インフレは加速して制御が難しくなります。その際、インフレを止めるには、超緊縮策しか方法がなくなります。人々の生活が物価高騰で苦しい時に、大増税や福祉予算のカットを国民に強いるということです。
国民を襲うことになる将来の苦しみを取り除くには、貨幣バブルを破裂させないことが肝要です。それには市中に出回っているお金の量に見合った生産をする、つまり経済成長しかありません。
政府は、予算を適切な投資に使うことや、付加価値を増産することは得意ではありません。政府ではなく、民間の力を発揮して、付加価値のあるモノを生産することが、今求められていることです。その時に重要になってくるのは、生産者サイドが生産力を上げたくなるような、ラッファー博士の提唱するサプライサイド経済学です。
MMT論者は財政支出を強調しますが、それは経済を成長させることにはつながりません。政府の力だけで、国民が豊かになれるという安易な政策はないのです。結局は、地道に、民間経済の力、国民一人ひとりの努力と創意工夫で、付加価値を増産していくしか道はありません。
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