<食中毒>毒キノコは都心の公園にも 「食用」でも油断禁物
毎日新聞 10月23日(日)9時45分配信
秋を迎え、キノコによる食中毒が各地で相次いでいる。厚生労働省は、食用のキノコと確実に判断できないものは「採らない、食べない、売らない、人にあげない」の「4ない」を徹底するよう呼びかけているが、事故は後を絶たない。山中だけでなく、都心の公園でも毒キノコを採取した事案が起きている。さらに、これまで食用とされていたものに毒があることがわかり、食べることが禁じられたものもある。「採取歴が長い」とか「図鑑で調べた」から大丈夫などの安易な自己判断や過信は禁物だ。【江刺弘子】
【写真特集】食中毒の原因となるキノコ
厚労省の統計では、毒キノコによる食中毒は2006(平成18)年から15(平成27)年に494件あり、患者1476人のうち5人が死亡した。このうち約9割が9~10月に起きている。今秋も、北海道で70代の男性が「食べられるキノコと思った」と毒キノコを食べ入院した。鳥取では高齢の男女が毒キノコをシメジと間違えて採取。また神戸市では、公園に生えていたキノコを食べた40代男性が嘔吐(おうと)や下痢の症状を発症している。
◇「食用だから」ともらっても食べない
岡山市内の夫婦が9月26日、親戚からもらったキノコを食べて中毒症状を起こした。また27日には北秋田市内の一家が、知人からもらったものをみそ汁の具に使い、吐き気や下痢の症状を訴えて2人が入院している。岡山のケースは、道の駅で販売されたものだった。
東京都福祉保健局・食品危機管理担当課長の渋谷智晃氏は、知人などから「食用だから」と言われてもらっても、食べないでと呼びかける。専門家ですら、自分が知っているもの以外は絶対に口にしないという。「ベテランでも見誤ることはある」と渋谷課長。「ベテラン=知識が十分」とは限らない。道の駅で販売されたものに有毒なものが混ざってしまったケースのように、地元の人でも見誤ることがあることは念頭に置いておくべきだ。
では、自分で図鑑などで調べて判断するのはどうだろうか。こちらも絶対にやってはいけない。渋谷課長は、キノコの種類は膨大な数にのぼるうえ、同種でも、環境によって色あいが変化し、判別の目安がつかないものも多いので、図鑑の写真とぴったりあてはまるものは少ないと話す。そもそもキノコの生態は不明な部分も多く、形態や要素が変異することもあり、いまだ「未知の世界」という。
◇「食用」だったスギヒラタケも
スギやマツなど針葉樹の切り株などに、白色のカサを連ねて生えているキノコを見たことはあるだろうか。これはスギヒラタケかもしれない。かつて食用とされてきたが、食べた後に急性脳炎になった事例が出たため、現在は、各関係機関が「食べないで」と呼びかけている。
スギヒラタケの毒成分は現在のところ不明だが、腎臓に疾患がある人が中毒症状を起こしやすいとみられ、最悪の場合は死に至る。またスギヒラタケは地域によって「かぬが」「すぎたけ」など名称が異なるので、注意が必要だ。
◇食中毒トップはツキヨタケ
厚労省の統計によると、06年から15年の毒キノコによる食中毒発生件数のうち、一番多いのがツキヨタケで206件、次いでクサウラベニタケ87件、テングタケ18件となり、この3種類で全体の約6割を占めている。
ツキヨタケは、ヒラタケやムキタケ、シイタケと、クサウラベニタケは、ホンシメジやハタケシメジとそれぞれ誤認しやすいうえ、簡単に見分けることができない。今秋もすでに、ツキヨタケやクサウラベニタケによる食中毒が各地で起きており、毒キノコか否かの判別がつきにくいことを物語っている。
またテングタケは、カサの表面に白いイボがあるのが特徴だが、このイボが落ちていることがあり、テングタケとは思わず採取してしまうケースがあるという。
ことさら危険なのはカエンタケだ。ブナやナラなどに赤やオレンジ色で手の指が出ているように生えている。毒性が強く、触れるだけでも皮膚に炎症を起こすこともあるという。
◇言い伝えを信用しない
派手な色をしたのは毒がある。炒めると大丈夫--。こうした世間で一般に「安全」と言われている見分け方を信用することも絶対に避けるべきだ。都の食品安全情報サイト「食品衛生の窓」には、七つの「ウソ」が紹介されている。
(1)柄がタテに裂ける(2)地味な色をしたもの(3)虫が食べているもの(4)ナスと一緒に料理する(5)干して乾燥する(6)塩漬けにし水洗いする(7)カサの裏がスポンジ状--これらは食べても安全な証拠と伝えられているが、すべて迷信だ。
東京都は厚労省の「4ない」と同様に、毒キノコによる食中毒防止5カ条を提唱している。(1)確実に鑑定されたもの以外は絶対に食べない(2)採取の際は、有毒キノコが混入しないよう注意する(3)「言い伝え」は信じない(4)図鑑の写真、絵にあてはめて、勝手に鑑定しない(5)食用でも、生で食べたり、一度に大量に食べると食中毒になるものがある。
渋谷課長によると、今年は雨が多く、キノコが生えやすい環境が整っているという。湿気の多い場所を好むキノコだが、乾いた場所でも日当たりがよくない所では生育していることもあり、都心の公園にも生えている。「好奇心や興味だけで知らないキノコを食べることは絶対にやめ、ベテランと言われる人も、どこかに思い込みや落とし穴があることを心に留めておくべきだ」と話している。
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・毒キノコの種類と有害成分による影響を詳しく説明
・毒キノコ図鑑|種類ごとの毒性や中毒症状など
・野や山のきのこハンドブック
毎日新聞 10月23日(日)9時45分配信
秋を迎え、キノコによる食中毒が各地で相次いでいる。厚生労働省は、食用のキノコと確実に判断できないものは「採らない、食べない、売らない、人にあげない」の「4ない」を徹底するよう呼びかけているが、事故は後を絶たない。山中だけでなく、都心の公園でも毒キノコを採取した事案が起きている。さらに、これまで食用とされていたものに毒があることがわかり、食べることが禁じられたものもある。「採取歴が長い」とか「図鑑で調べた」から大丈夫などの安易な自己判断や過信は禁物だ。【江刺弘子】
【写真特集】食中毒の原因となるキノコ
厚労省の統計では、毒キノコによる食中毒は2006(平成18)年から15(平成27)年に494件あり、患者1476人のうち5人が死亡した。このうち約9割が9~10月に起きている。今秋も、北海道で70代の男性が「食べられるキノコと思った」と毒キノコを食べ入院した。鳥取では高齢の男女が毒キノコをシメジと間違えて採取。また神戸市では、公園に生えていたキノコを食べた40代男性が嘔吐(おうと)や下痢の症状を発症している。
◇「食用だから」ともらっても食べない
岡山市内の夫婦が9月26日、親戚からもらったキノコを食べて中毒症状を起こした。また27日には北秋田市内の一家が、知人からもらったものをみそ汁の具に使い、吐き気や下痢の症状を訴えて2人が入院している。岡山のケースは、道の駅で販売されたものだった。
東京都福祉保健局・食品危機管理担当課長の渋谷智晃氏は、知人などから「食用だから」と言われてもらっても、食べないでと呼びかける。専門家ですら、自分が知っているもの以外は絶対に口にしないという。「ベテランでも見誤ることはある」と渋谷課長。「ベテラン=知識が十分」とは限らない。道の駅で販売されたものに有毒なものが混ざってしまったケースのように、地元の人でも見誤ることがあることは念頭に置いておくべきだ。
では、自分で図鑑などで調べて判断するのはどうだろうか。こちらも絶対にやってはいけない。渋谷課長は、キノコの種類は膨大な数にのぼるうえ、同種でも、環境によって色あいが変化し、判別の目安がつかないものも多いので、図鑑の写真とぴったりあてはまるものは少ないと話す。そもそもキノコの生態は不明な部分も多く、形態や要素が変異することもあり、いまだ「未知の世界」という。
◇「食用」だったスギヒラタケも
スギやマツなど針葉樹の切り株などに、白色のカサを連ねて生えているキノコを見たことはあるだろうか。これはスギヒラタケかもしれない。かつて食用とされてきたが、食べた後に急性脳炎になった事例が出たため、現在は、各関係機関が「食べないで」と呼びかけている。
スギヒラタケの毒成分は現在のところ不明だが、腎臓に疾患がある人が中毒症状を起こしやすいとみられ、最悪の場合は死に至る。またスギヒラタケは地域によって「かぬが」「すぎたけ」など名称が異なるので、注意が必要だ。
◇食中毒トップはツキヨタケ
厚労省の統計によると、06年から15年の毒キノコによる食中毒発生件数のうち、一番多いのがツキヨタケで206件、次いでクサウラベニタケ87件、テングタケ18件となり、この3種類で全体の約6割を占めている。
ツキヨタケは、ヒラタケやムキタケ、シイタケと、クサウラベニタケは、ホンシメジやハタケシメジとそれぞれ誤認しやすいうえ、簡単に見分けることができない。今秋もすでに、ツキヨタケやクサウラベニタケによる食中毒が各地で起きており、毒キノコか否かの判別がつきにくいことを物語っている。
またテングタケは、カサの表面に白いイボがあるのが特徴だが、このイボが落ちていることがあり、テングタケとは思わず採取してしまうケースがあるという。
ことさら危険なのはカエンタケだ。ブナやナラなどに赤やオレンジ色で手の指が出ているように生えている。毒性が強く、触れるだけでも皮膚に炎症を起こすこともあるという。
◇言い伝えを信用しない
派手な色をしたのは毒がある。炒めると大丈夫--。こうした世間で一般に「安全」と言われている見分け方を信用することも絶対に避けるべきだ。都の食品安全情報サイト「食品衛生の窓」には、七つの「ウソ」が紹介されている。
(1)柄がタテに裂ける(2)地味な色をしたもの(3)虫が食べているもの(4)ナスと一緒に料理する(5)干して乾燥する(6)塩漬けにし水洗いする(7)カサの裏がスポンジ状--これらは食べても安全な証拠と伝えられているが、すべて迷信だ。
東京都は厚労省の「4ない」と同様に、毒キノコによる食中毒防止5カ条を提唱している。(1)確実に鑑定されたもの以外は絶対に食べない(2)採取の際は、有毒キノコが混入しないよう注意する(3)「言い伝え」は信じない(4)図鑑の写真、絵にあてはめて、勝手に鑑定しない(5)食用でも、生で食べたり、一度に大量に食べると食中毒になるものがある。
渋谷課長によると、今年は雨が多く、キノコが生えやすい環境が整っているという。湿気の多い場所を好むキノコだが、乾いた場所でも日当たりがよくない所では生育していることもあり、都心の公園にも生えている。「好奇心や興味だけで知らないキノコを食べることは絶対にやめ、ベテランと言われる人も、どこかに思い込みや落とし穴があることを心に留めておくべきだ」と話している。
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