ノマドランド/クロエ・ジャオ監督
キャンピングカーや改造車で寝泊まりしながら、大規模な工場などの期間採用の労働者として働く人々の物語のようである。アマゾンなど巨大物流の施設では、おそらくクリスマスなどのいっときの間、物流を大量に扱うための人手が足りなくなる。またそのような巨大な施設は郊外でないと建てられないので、キャンピングカーごと駐車場で寝泊まりするような労働者を集めて、その時期をやり過ごすのであろう。様々な理由をかかえて一般の会社などの仕事をリタイアした人々が、そうやって放浪しながら生活しているわけだ。
主人公の女性は、元教師だったようだが、リーマンショックで巨大企業が倒れ、企業城下町だった町自体が消失し失業したようだ。家も失い、仕方なくワゴン車を改造して放浪を始めた。頑なで気難しい面もあるが、なんとか期間契約の仕事をこなし、同じような境遇の仲間たちとも仲良くなっていくのだったが……。
実際にそういう人々がアメリカにはたくさんいて、事実上車上生活をつづけながら働いている。いわばドキュメントとして、このような社会問題を取り上げているのかもしれない。このような生活をしていくうえでのスター的な存在もいて、このような生活をこそ望んでいる人々もいる。そうではあるが、実際にはほとんどの人は、仕方なくこうなってしまったということだろう(それを認めると悲しすぎるので、ポジティブになるためにそれらのスターがいるとも考えられる)。車の中で工夫しながらそれなりの快適さはあるようだが、しかし大自然の中で暮らすことの厳しさももちろんある。外は零度以下の日もあるし、暑い日もあるだろう。車のアクシデント次第では、広大な原野の広がる米国の大地では、死活問題なのである。
映画としては淡々としたそれらの人間模様を描いているわけだが、なんとなく盛り上がりに欠ける。名画めいた雰囲気はあるし、実際に批評家からの評価も高い。そうであるが正直に言ってしまうと、単なる愚作に過ぎない。騙されて観る人がいることが、忍びないほどである。僕は正直なので言ってしまうのであって、暇つぶししたいならともかく、観るのはやめた方が賢明だろう。ただし、名画めいたところはあるので、そういうのが困るのである。こうした社会問題に対して意識が高いことを誇りたい頭の悪い批評家は、だから高い評価をしてしまう。困った図式の成り立つ映画、ということになるだろう。