カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

狂気の人は、自分で転落を選ぶのか   TAR/ター

2024-01-14 | 映画

TAR/ター/トッド・フィールド監督

 ターというのは人名で、女性指揮者としてベルリン・フィルに君臨する人物を描いたもの。女性であるが、いわゆるタチの方の人らしい。パートナーの女性の妻がいて、子供も育てている。そもそもたいへんに才能のある人のようだが、指揮者としての能力と共に、権力欲も強く自己顕示欲も強い。そうして浮気もする。そういう中にあって、自分の思うように人を使い、そうしてある人物を追い込んでいって、そのことで頂点にある立場から、ずいぶんと不味い状況に追い込まれていくのだった。
 単調だし面白い映画では無いし長いのだが、なにかいろいろと仕掛けが隠されていて、示唆的である。ちょっとした笑いもあるはずで、しかし笑えない。妙なことが起こっていることは分かるし、一定の格調もあり、狂気が潜んでいるのは間違いない。そういうところは演技として非常にリアルで、ざらざらした質感と共に、妙に心に引っかかるものがある。それは主演を演じ切っている女優の力量によるところが大きいが、その為の演出に傾倒している映画作りが、そもそもの主眼にあるのだろう。ある意味で圧巻であり、打ちのめされる。ただし、そんなに面白くは無いが。
 実在の人物ではないし、背景もまるで違うのだが、やはりこの映画を観る限り、カラヤンのような指揮者を思い出してしまう。何もかも支配的で傲慢で、さまざまなトラブルを巻き起こしてしまう。しかし本人の才能は間違いなく素晴らしい。けれど人間的には、果たしてどうなのだろうか。
 何もかも支配するからこそ出来上がる芸術もあるのかもしれないし、あるいはそれ以外の人間社会にも、当てはまるようなこともあるのかもしれない。だからこそ、必ずしもいい人間とはいえないまでも、そういう人物に惹かれるものを感じる人も多いのかもしれない。僕はそうでは無いが、まあ、このような破滅の人生は、まっぴらごめんである。映画の中の人物ではあるにせよ、そのように生きざるを得ない立場というのは、いったいどういうものなのだろう。有り余る才能は、努力にも支えられているには違いないが、なにかその努力を支えるために、自分自身を崩壊させる何かが潜んでいるのかもしれない。それはよくは分からないが、人間が持っているサガのようなものなのだろうか。

※ この映画は批評家をはじめ、多くの映画ファンにとっては、非常に、それこそ圧倒的と言える支持をもって高い評価をされている映画である。それは観たうえで分かってはいるのだが、しかしはっきり言うと、まあ、それほどではない。映画を観続けている人のそれなりの多くは、逆説的に勘違いしやすい傾向というものがある。そういう人たちに向けて作られていることは確かそうではあるのだけれど、だからこそと言えるかもしれないが、こういう映画が高く評価がされてしまうことを残念に思うのかもしれない。せめて、限られたお好きな人向け、という正直なところを、基準的な評価にしたいところである。
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