カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

自分はこうなるのはホラーである   いなくなった私へ

2024-01-09 | 読書

いなくなった私へ/辻堂ゆめ著(宝島社文庫)

 街中のごみ捨て場で目覚めてみると、何故そこで寝ていたのかという記憶がなく、さらに人気絶頂のシンガーであるにもかかわらず、誰も自分のことを認識してくれない。そうしてその人気シンガーである自分が自殺したというニュースで、世の中はもちきりになっていたのだった。困惑を深めどうしていいかわからなくなるが、財布も携帯も持っていない。そんな中一人だけ自分を認識してくれる青年が現れ、とりあえず助けられて、青年の姉とともに暮らしながら、なんとか自分が自殺前に所属していた事務所にアルバイトで雇ってもらえることになるのだったが……。
 一応ミステリ作品だというので読みだしたのだが、このカラクリをひっくり返す方法に興味がある以外は、なんとなく女性向けの恋愛劇というか、よく分からないが、相手のことを考えるがゆえに八方美人化していく主人公に、困惑した。嫌なことはある程度嫌だと言わない限り、相手を傷つけるだけだと思うのだが……。それも相手のことを手に取るように理解しながらそれをやるので、かなり悪意があるようにも感じられるのだった。女の人というのは、天性でこういう事がやれるということなのだろうか。まあ、特殊だと思いたいけど。
 自分は死んでしまったものの、変わらない自分がまた何故だかこの世に生み出されて、存在はあれど誰も認識しないので、戸籍やその他証明するものが何もないまま、仮名で生きていこうとするのが、どうにもよく分からないところだった。犯罪者ではないかもしれないが、かなり不可能ではあるまいか。特に舞台が日本においては……。
 小説は自由なのだから、これはこれでいいとは思ったが、こういうのもミステリに入れていいんだな、というのは知らなかった。ちょっと若者向きなのかもしれない。後半の動きのあるサスペンスも、スリルという点ではいいのかもしれない。誰も信じられなくは、なるけれど……。
 著者は大学生時代にこれを書き、事実上デビューを果たし、その後就職して二足の草鞋を履いていたが、執筆の方が忙しくなり作家専業となる。現在は二児の母でもあり、年に3冊のペースで本を書き上げている人気作家のようだ。専業で食べて行ける作家は限られていると思うが、その中の一人にこういう人がいるんだな、という感じである。ある意味わかりやすい感情の流れが細かく書かれている内容で、ちょっとその思考の方向が僕には分からないだけのことであるようだ。僕が知らないだけで、こういう世界があるんだな(こういう作家やこういう小説を読む人々、という意味)、とは思いました。
コメント
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