TATTOO(刺青)あり/高橋伴明監督
実際に銀行強盗事件を起こした犯人に着想を得て、脚色演出した作品だという。宇崎竜童が主演し、ヒロインの関根恵子はこの映画で高橋監督と知り合い、後に結婚した。
少年のころから不良で、目立ちたがり屋で事件ばかり起こしている明夫は、すでに殺人はしていたが、成人となり保護から外れる。キャバレーのボーイなどで食いつなぎ、胸に入れ墨を入れて箔をつけている。女のひものようなことはしていたが、ある時ひどく美しいホステスが現れ、男がいたにもかかわらず猛アタックをかけて奪ってしまう。しかしながら明夫は酒を飲むと乱暴者になり、女に暴力をふるった。そんなことをする一方酔いがさめると、急激にやさしい男になって世話を焼き、手料理をつくって女の体調管理などにも気を使った。
ともかくそんな粗野なところと繊細さがモザイク状に入れ混じった奇妙な男なのだが、母親からは30才までに大成すると予言されていて、いつの間にか30を過ぎてしまい、何か大きなことをやらなくてはということで、銀行強盗を実行することになったのである。
そのような顛末の記録を、奇妙な男と女のやり取りを交えながら進んでいく。どうしようもないチンピラで、いつもいきがって格好ばかりつけているが、ハードボイルドから哲学書まで、自分の考えや憧れのままに読書するなど、ある意味で自分磨きに余念がない。客がクレー射撃をすると聞くと、自分も射撃に通って腕を磨く。暴力をふるうものの、女のことが愛おしくて仕方がない。なんとか大きなことをして、驚かせてやりたいのである。
宇崎竜童の演技がどうこう言うようなものでは無い、体当たりの演技を人物の混在ぶりに、なんだか奇妙な感覚に陥っていく。困ったチンピラに過ぎないはずが、なんだか憎めない生き急ぐ男を応援したくなるような、そんな気持ちにさせられるのである。映画の始まりに既に死んでいることは示唆されていて、この顛末は失敗に終わることは分かり切っている。それでもなお、なんとか銀行で金をせしめることはできなかったのであろうか。
公開当時、それなりに話題になったことを何となく思い出したが、当時の僕はやくざ映画は特に好きではなく、見逃していた。映画としてなんとなく古くさくはなっているものの、しかしそういうものも含め、なかなかにいい映画なのだった。男から逃げてしまうものの、やっぱりヤクザ者のところに行ってしまうような関根恵子もいいのである。ググってみると、このヤクザ者も実在の人物をモデルにしているという。奇妙な時代を生きたヤクザな生き方しかできない者たちを、見事に映像化した作品なのだった。