【前回の続きです。】
宮殿と庭に気を取られてるすきに、ナミとゾロの行方を見失っていた。
立ち止まって途方に暮れてた俺を、後から来たカップルが追い越してく。
カップルは門から続く道をまっすぐ進み、宮殿の中へと消えてった。
反射的に後を追っていた。
入口らしい扉を開けると他にも人が居て、どいつも中は素通り、外へ出て行こうとする。
入ったのに、もう出ちまうのか?
不思議そうに眺めてたら、スーツ姿の女が笑顔でそばに寄って来た。
「庭園は20時半まで入場を受け付けています。どうぞ御覧下さい♪」
ここの案内係らしい、すすめられた通り、2重になってる扉を開けて、外へ出る。
驚いた――庭中いっぱい、イルミネーションでキラキラだ!
奥には神殿なんかで見る円柱が建ってて、中心から緑のライトが立ち昇ってる。
その前にはライトアップされた噴水に花だん、ツリーやちょーこく像が点々と置いてある。
庭全体をグルッと囲んでる青白い光のアーチ。
すすめるだけあるなあと感心した。
門から入って最初に見た星くずの庭以上に、模様が複雑できれーだ。
奥まで行ってみようと階段を下りかけた所で、しゃべり声が耳に入り振り返った。
宮殿2階のテラスに人がいっぱい立ってて、庭園を見下ろしてる。
テラスに続く階段を探して駆け上った、けど集まった人の中に2人は居なかった。
がっかりして下りようとした瞬間、庭園のイルミネーションがパッと消えた。
ビックリして足が止まる、集まってた奴らがますますざわめいた。
カメラを構えて何かを待っている。
何が始まるんだろうと、テラスから身を乗り出した時だ。
音楽がドーンと鳴り響き、庭中のイルミネーションがいっぺんに瞬いた。
まるで姿の見えないオーケストラがそこに居て、生で演奏を聴いてるような迫力だ。
音楽に合せて庭のイルミネーションが、どんどん変わってく。
ウェーブでもしてるみてーに、点いたり消えたり。
集まってた奴らが歓声を上げる。
俺もナミに写メを送ってやろうと、ケータイを取り出した。
知らせてやれば飛んで来るかもしれない、並んで一緒に観たかった。
シャッターボタンを押す寸前、指が止まる。
――送った写メを、ゾロと一緒に観るナミが、頭の中に浮かんだ。
ためらってる内に音楽は鳴り止み、イルミネーションは元の止まった状態に戻っちまった。
『どうした?ハネムーン中に電話よこしやがって…のろけでも聞かせようってのか?なら切るぞ』
「ゾロ…帰ったら何も言わずに殴らせろ」
『はあ??何でだよ!??』
「いいから殴らせろ」
『馬鹿野郎!!!せめて訳を話せ!!聞いても殴らせる積りは更々無ェが!!』
「わけなんか話したくねェ。…けど俺は今、おまえを殴りたくてしかたねェんだ!」
電話の向こうでゾロが『はぁーーーー…』と、長いため息を吐いた。
そのまま黙る、こっちもケータイを耳に当てたまま、無言で待った。
『……プロポーズはしたのか?』
「した」
『で…失敗したわけか』
それについては認めたくなくて、口をつぐんだ。
『あのな…八つ当たりだったら他の奴に当たれよ。眉毛巻いてる奴なんか、打たれ強さからいって適任だと思うが?』
「サンジじゃなくて、俺はゾロを殴りてェんだ」
『だから何故俺なのか、訳を言え!!!』
「だからわけは言いたくねェ!!!…ただ、間接的でも、おまえは俺に殴られても文句を言えねェ事したんだ!!」
『間接的にも直接的にも、てめェの失恋に俺は一切関わっちゃいねェ!!!』
そう怒鳴った後、またしばらく沈黙が続いた。
『………悪ィ…失恋なんて身も蓋も無くはっきりと…傷口に塩塗っちまったな…』
間を開けて聞えて来た声は、さっきよりじゃっかん優しめだった。
「いーよ。ゾロに方向感覚とデリカシーを求めるのは、無駄な無い物ねだりだって解ってるし」
『…どうやら塩じゃ足りねェな。ワサビ塗るか?――ってのはさて置き、今こうして俺と電話してるって事は、彼女は傍に居ねェんだな。喧嘩して別れたのか?』
「ケンカじゃねーけど……泣いてどっか行っちまった」
『…居なくなったのは今か?前か?ホテルには行ってみたか?部屋に荷物置いたままなら、まだ希望は有る』
「部屋には帰れねェよ。カードキーは向うが持ってるんだ」
『フロントに頼めば良いだろ』
「けど…もしも荷物が消えてたらと思うと……恐くて確認出来ねェ」
ケータイも鳴らしてみた、あんのじょう電源が切られてた。
このまま2度と会えない事を想像したら、全身からスーッと血が抜け出てくように感じた。
『場内に呼出アナウンス流して貰うってのは?』
「それやって出て来ると思うか?」
『自分から行方くらましたんじゃ、望み薄だろうな……』
「ゾロ…俺…どうしたら良い……?」
また、『はぁーーーーーーーーー……』って長いため息が聞えた。
今度のは倍長い。
正面の噴水が一際高く立ち昇る、奥には黄金色の宮殿が建っている。
後ろにはさっき奥に見た、神殿に建ってるような円柱が6本。
反対側から眺める庭園もきれーだった。
見とれてたら明りが消えた。
再び音楽が始まる。
庭園のイルミネーションが、それに合せて波打つ。
『何だ?この音楽…まさかオーケストラでも聴いてんのか?』
「違う。…よく解んねーけど、ショーみてーだ」
『同じだ!観てる場合か!!休んでねェで捜せよ!別れたくねェんだろ!?』
「解ってるけど…どこさがせば良いのか……」
『知るか!てめェの恋路に俺を巻き込むな!!殴られるのも御免だ!!とにかく自力で捜せ!もう2度とかけて来んなよ!!』
言いたいだけ言って、ゾロはブチッと電話を切った。
いつの間にかカップルが数組、隣で観ている。
はしゃいで写真を撮り合ってるのを見てたら、気分がムカムカ悪くなった。
庭園をU字に囲む光のアーチ、近づいたらそれは木がからまって出来てるトンネルだった。
枝に電飾を編みこんでるみたいで、庭園に下りた俺は中を通り、反対側まで来たわけだ。
円柱が建ってる所で、トンネルはいったんとぎれる。
そしてまた始まって、宮殿の前まで続いてる。
つまりトンネルをくぐってけば、自然と庭園を1周する。
周りを気にせずいちゃついてるカップルを残し、俺は来た道と同じ様に、トンネルをくぐって宮殿に戻る事にした。
間かく空けて開いた窓から庭園がのぞける。
音楽が鳴り止み、イルミネーションも静止した。
天井から星がこぼれ落ちる、そう見える。
トンネルの果てまで続く光、吸いこまれて宇宙にでも出るんじゃないかと恐くなった。
俺が見たナミもゾロも、俺の知ってるナミとゾロとは違う。
暗かったけど『ナミ』のカッコは違って見えた。
半そでのシャツを着ていた。
けど…ナミなんだと思う。
俺が知らない世界のナミだ。
そして俺が知らない世界で、『ナミ』は『ゾロ』や『サンジ』と付き合ってる。
違う世界の同じ場所でデートしてるんだ。
考えたらしっとで体が爆発しそうだった。
目の前をナミとゾロが並んで歩いてるイメージが浮かぶ。
吸いこまれるみたいに消えてく2人――わめきながらトンネルを駆け抜けた俺の前には、見知らぬカップルが顔を引きつらせて立っていた。
宮殿を通り抜けて星くずの庭に出る。
門の方へ歩き出した所で、左から潮のにおいが風に運ばれて来た。
振り向いてにおいを辿る、もう1つ門を発見した。
くぐって下へと続く道を下りてく。
目の前には真っ黒な海。
月は雲にかくされ、空には星だけが瞬いてる。
他は水平線近くに漁火が点々と見えるだけ。
ズズズズ…!!と波が音を立てて岸に近づく。
ザパァァン…!!!とぶち当たって、またズズズズ…!!と近づいて来る。
暗い中に生き物がうごめいてるみたいで不気味だった。
――航海は独りじゃ絶対に出来ない事なんだ。
シャンクスが言った通りだ。
ナミの母ちゃんをのみこんだ、黒い壁みてェな波。
今ヨットを浮かべて海へ出たら2度と戻って来れねェ。
恐くて体がガタガタと震えた。
「けどシャンクスは独りで航海して、世界一周に成功したんだろ?」
「独りじゃねェよ!衛星電話を使って、沢山の人達に支えて貰ったから、成し得た記録だ!俺1人だったら出港3日目に出くわした嵐に打ちのめされ、即お陀仏だったろうさ!」
「へー、海の上でも電話は通じんのか!出前頼んだら届けてくれっかな?」
「蕎麦やラーメンは無理だが、ピザは届けてくれるぜ!注文後30分で届いた時には感動したもんだ!」
「早ェー!!ヘリで届けてくれたのか!?」
「ダハハハハ…!!信じやがって馬鹿が!!無理に決まってんだろ♪」
「てめこの大人のクセに子供だましやがって!!ガッカリしただろー!!」
「…しかしま、海に出た後陸に戻ると、所詮は人間も足の付いた動物、地面から離れて生きてはいけねェもんだと思い知るぜ。
出前は届くし、枕は落ちねェ…芯からホッとするのさ!
だからなァ、ルフィ……」
「ん?」
「灯台を見付けろよ!」
「灯台?どこのだ?」
「比喩だ!必ず陸に戻る為に、何時でもてめェに顔を向けて、光ってる女を見付けろって事さ!」
「シャンクスには居るのか?」
照れ笑ったシャンクスの顔が、岸にぶち当たる波の音で、はじけて消えた。
海岸に沿って続く細い道に、俺は独りで立っていた。
道の先にベンチが見える、夕方『ナミ』が『サンジ』にひざまくらしてやってたトコだ。
また現れたら…と思うと、見るのが恐くて、目をつぶり走り抜けた。
人が多くて明るい港に出ていた。
その向うにキラキラ輝く高い塔がそびえてる。
バスん中で案内してくれたおっさん、展望台が有るって言ってたな。
高い所からならナミを見つけられるだろうか?
頭に浮かんだ名案を頼りに、橋を渡って塔を目指した。
「――って見つかるわけねェか!」
5階展望台の窓から見下ろした街並は、まるでブロックで組み立てたオモチャみてーだ。
建物より小せェ人なんて、識別出来るわけがない。
昇って実際に見るまで気づかなかった俺はバカだ。
せめて明るい昼間だったら、望遠鏡使って発見出来たかもしんねェけど。
高いビルの屋上にたいてい置いてある望遠鏡、1回200円のそれは、すでにしめ切られた後だった。
「使ったって見つかりゃしないわよ!」
ペカン!!ってナミに頭を叩かれた気がして後ろを振り向く――エレベーター横で立ってる案内係のおっさんしか居なかった。
俺とそのおっさん以外、マジで誰も居ない。
いくら最終入館ギリだからって、もちっと居てくれよ!
さびしーじゃねェか!
「こんなにきれーな夜景が観られるのに…」
建物全部がキラキラだ、街並を区切ってる運河まで輝いてる。
真っ暗なのは森と海が広がってる部分くらいだ。
ここからなら街全体が見下ろせる、想像以上の広さだった。
どこをさがせば良いのか見当もつかねェ、ヘナヘナと床に座りこんじまった。
「つまんねーー……」
何をしても…観ても…つまんねェ。
独りで居るのがこんなにつらいなんて知らなかった。
ヨットマンになれる自信も失くしてた。
「…何が『太陽』で…何が『引きつける』だ…!
誰も寄って来ねェじゃんか…!」
ナミが居なくなっただけで、こんなに弱っちくなっちまう俺だぞ。
おまえが思ってるように無敵じゃねェんだ。
弱点だらけの人間なんだからな。
「…あの…あの…お客様…!御気分でも悪くされましたか…?救護室へお連れ致しましょうか?」
案内係のおっさんが心配そーな顔で近寄って来た。
気分は悪いけど、体が悪いわけじゃない。
めんどーかけるのは悪ィんで、あきらめて降りる事にした。
こうなったらゾロの言った通り、ホテルに戻ってみよう。
部屋に荷物が有ったら、そこで待つ。
無かったら…その時は……
エレベーターを降り、運河にかかる橋を渡った所で、目の前をオレンジ色のバスが横切った。
「おい!!そこのバス停まれ!!乗ります!!乗りまーす…!!!」
手を挙げて追い駆ける、バスは港街へとかかる橋の手前で停まった。
扉を開けて、中から運転手のおっさんが顔を出す。
「このバスは終点スパーケンブルグ行きですが、宜しいですか?」
「終点?俺、ホテルに戻りてェんだ!ホテルアム…アム・・・アム何とか??」
「ホテル・アムステルダム?」
「そーそれ!!そこまで乗せてってくれ!!」
返事を聞くより前に乗りこむ、運転手のおっさんが困った顔を見せた。
「…済みませんがホテル・アムステルダムには、このバスは停まらないんですよ。それにホテル・アムステルダムへは、今このバスが走って来た通りを歩けば3分もかからずに…」
「あれ?おっさん、もしかして昼間乗った――」
メガネをかけ、苦笑ったその顔には見覚えが有った。
来て最初に乗ったバスの運転手をしてたおっさんだ。
俺の顔をじっと見て、おっさんも思い出したのか、にっこり笑った。
「ああ、今日入国されたお客さんですね!…お連れさんは?」
俺が黙って目をふせちまった事から、触れるべきじゃないと覚ったらしい。
おっさんまで気まずそうに黙り、他に誰も乗っていない車内に、エンジン音だけが響いた。
「………居なくなっちまった」
「居なくなった?…逸れてしまったんですか?」
「どうやってさがしたら良いか解んねェんだ…」
「携帯はお持ちでないんですか?」
「持ってるけど、向うが電源切っちまってる…」
また会話がとぎれた、エンジン音で体が振動する。
窓に映るイルミネーション、教会の鐘が「サンタが街にやって来る」を演奏した。
「…オレンジ広場で待ってみたら、どうでしょう?」
「オレンジ広場??」
首をかしげる俺に、おっさんはにっこり笑って教えてくれた。
「港前の広場の名前ですよ。お客さんが言った、乗れない用無しの帆船が繋留されてる」
思い出した!何とか号をけーりゅうしてる広場だ!
セグウェイに乗って廻った。
今日何度も通ったのに、名前はすっかり忘れちまってた。
「後30分もすれば、そこで花火が始まります。この街に来た人は、殆ど観に集まりますよ!」
そうだ、1日の最後に花火を打ち上げるって言ってたっけ!
ナミも観に来るかもしれない!
名案に何度もうなずくと、おっさんはハンドルに向き直り、扉を閉めた後、バスを発車させた。
【続】
…パレス後庭のイルミネーションについてはこちらの記事を。
15分毎に5分間と短いですが、1度観たら忘れられないショーです。
ちなみにハウステンボスでは迷子アナウンスはかけません。
理由はTDRを始め他のテーマパークと同じで、雰囲気を損なうから。
勿論係員に頼めば、ちゃんと捜してくれますよ。
昼間アレキサンダー広場辺りを歩いていたら、ドムトールン展望台からでも人を識別出来る。
感動したのは運河の底に走る溝まで見えた事、なんて澄んだ河の流れ!
残念だけど、現在ハウステンボスでは花火を毎夜打ち上げていない。
ただ近く花火師競技会が開催される。(→http://www.huistenbosch.co.jp/event/summer2010/festival/index.html)
久々の海上花火大会、観られる人はラッキー♪
そして次回(漸く)連載最終回!明日必ずUPしますんで~!
宮殿と庭に気を取られてるすきに、ナミとゾロの行方を見失っていた。
立ち止まって途方に暮れてた俺を、後から来たカップルが追い越してく。
カップルは門から続く道をまっすぐ進み、宮殿の中へと消えてった。
反射的に後を追っていた。
入口らしい扉を開けると他にも人が居て、どいつも中は素通り、外へ出て行こうとする。
入ったのに、もう出ちまうのか?
不思議そうに眺めてたら、スーツ姿の女が笑顔でそばに寄って来た。
「庭園は20時半まで入場を受け付けています。どうぞ御覧下さい♪」
ここの案内係らしい、すすめられた通り、2重になってる扉を開けて、外へ出る。
驚いた――庭中いっぱい、イルミネーションでキラキラだ!
奥には神殿なんかで見る円柱が建ってて、中心から緑のライトが立ち昇ってる。
その前にはライトアップされた噴水に花だん、ツリーやちょーこく像が点々と置いてある。
庭全体をグルッと囲んでる青白い光のアーチ。
すすめるだけあるなあと感心した。
門から入って最初に見た星くずの庭以上に、模様が複雑できれーだ。
奥まで行ってみようと階段を下りかけた所で、しゃべり声が耳に入り振り返った。
宮殿2階のテラスに人がいっぱい立ってて、庭園を見下ろしてる。
テラスに続く階段を探して駆け上った、けど集まった人の中に2人は居なかった。
がっかりして下りようとした瞬間、庭園のイルミネーションがパッと消えた。
ビックリして足が止まる、集まってた奴らがますますざわめいた。
カメラを構えて何かを待っている。
何が始まるんだろうと、テラスから身を乗り出した時だ。
音楽がドーンと鳴り響き、庭中のイルミネーションがいっぺんに瞬いた。
まるで姿の見えないオーケストラがそこに居て、生で演奏を聴いてるような迫力だ。
音楽に合せて庭のイルミネーションが、どんどん変わってく。
ウェーブでもしてるみてーに、点いたり消えたり。
集まってた奴らが歓声を上げる。
俺もナミに写メを送ってやろうと、ケータイを取り出した。
知らせてやれば飛んで来るかもしれない、並んで一緒に観たかった。
シャッターボタンを押す寸前、指が止まる。
――送った写メを、ゾロと一緒に観るナミが、頭の中に浮かんだ。
ためらってる内に音楽は鳴り止み、イルミネーションは元の止まった状態に戻っちまった。
『どうした?ハネムーン中に電話よこしやがって…のろけでも聞かせようってのか?なら切るぞ』
「ゾロ…帰ったら何も言わずに殴らせろ」
『はあ??何でだよ!??』
「いいから殴らせろ」
『馬鹿野郎!!!せめて訳を話せ!!聞いても殴らせる積りは更々無ェが!!』
「わけなんか話したくねェ。…けど俺は今、おまえを殴りたくてしかたねェんだ!」
電話の向こうでゾロが『はぁーーーー…』と、長いため息を吐いた。
そのまま黙る、こっちもケータイを耳に当てたまま、無言で待った。
『……プロポーズはしたのか?』
「した」
『で…失敗したわけか』
それについては認めたくなくて、口をつぐんだ。
『あのな…八つ当たりだったら他の奴に当たれよ。眉毛巻いてる奴なんか、打たれ強さからいって適任だと思うが?』
「サンジじゃなくて、俺はゾロを殴りてェんだ」
『だから何故俺なのか、訳を言え!!!』
「だからわけは言いたくねェ!!!…ただ、間接的でも、おまえは俺に殴られても文句を言えねェ事したんだ!!」
『間接的にも直接的にも、てめェの失恋に俺は一切関わっちゃいねェ!!!』
そう怒鳴った後、またしばらく沈黙が続いた。
『………悪ィ…失恋なんて身も蓋も無くはっきりと…傷口に塩塗っちまったな…』
間を開けて聞えて来た声は、さっきよりじゃっかん優しめだった。
「いーよ。ゾロに方向感覚とデリカシーを求めるのは、無駄な無い物ねだりだって解ってるし」
『…どうやら塩じゃ足りねェな。ワサビ塗るか?――ってのはさて置き、今こうして俺と電話してるって事は、彼女は傍に居ねェんだな。喧嘩して別れたのか?』
「ケンカじゃねーけど……泣いてどっか行っちまった」
『…居なくなったのは今か?前か?ホテルには行ってみたか?部屋に荷物置いたままなら、まだ希望は有る』
「部屋には帰れねェよ。カードキーは向うが持ってるんだ」
『フロントに頼めば良いだろ』
「けど…もしも荷物が消えてたらと思うと……恐くて確認出来ねェ」
ケータイも鳴らしてみた、あんのじょう電源が切られてた。
このまま2度と会えない事を想像したら、全身からスーッと血が抜け出てくように感じた。
『場内に呼出アナウンス流して貰うってのは?』
「それやって出て来ると思うか?」
『自分から行方くらましたんじゃ、望み薄だろうな……』
「ゾロ…俺…どうしたら良い……?」
また、『はぁーーーーーーーーー……』って長いため息が聞えた。
今度のは倍長い。
正面の噴水が一際高く立ち昇る、奥には黄金色の宮殿が建っている。
後ろにはさっき奥に見た、神殿に建ってるような円柱が6本。
反対側から眺める庭園もきれーだった。
見とれてたら明りが消えた。
再び音楽が始まる。
庭園のイルミネーションが、それに合せて波打つ。
『何だ?この音楽…まさかオーケストラでも聴いてんのか?』
「違う。…よく解んねーけど、ショーみてーだ」
『同じだ!観てる場合か!!休んでねェで捜せよ!別れたくねェんだろ!?』
「解ってるけど…どこさがせば良いのか……」
『知るか!てめェの恋路に俺を巻き込むな!!殴られるのも御免だ!!とにかく自力で捜せ!もう2度とかけて来んなよ!!』
言いたいだけ言って、ゾロはブチッと電話を切った。
いつの間にかカップルが数組、隣で観ている。
はしゃいで写真を撮り合ってるのを見てたら、気分がムカムカ悪くなった。
庭園をU字に囲む光のアーチ、近づいたらそれは木がからまって出来てるトンネルだった。
枝に電飾を編みこんでるみたいで、庭園に下りた俺は中を通り、反対側まで来たわけだ。
円柱が建ってる所で、トンネルはいったんとぎれる。
そしてまた始まって、宮殿の前まで続いてる。
つまりトンネルをくぐってけば、自然と庭園を1周する。
周りを気にせずいちゃついてるカップルを残し、俺は来た道と同じ様に、トンネルをくぐって宮殿に戻る事にした。
間かく空けて開いた窓から庭園がのぞける。
音楽が鳴り止み、イルミネーションも静止した。
天井から星がこぼれ落ちる、そう見える。
トンネルの果てまで続く光、吸いこまれて宇宙にでも出るんじゃないかと恐くなった。
俺が見たナミもゾロも、俺の知ってるナミとゾロとは違う。
暗かったけど『ナミ』のカッコは違って見えた。
半そでのシャツを着ていた。
けど…ナミなんだと思う。
俺が知らない世界のナミだ。
そして俺が知らない世界で、『ナミ』は『ゾロ』や『サンジ』と付き合ってる。
違う世界の同じ場所でデートしてるんだ。
考えたらしっとで体が爆発しそうだった。
目の前をナミとゾロが並んで歩いてるイメージが浮かぶ。
吸いこまれるみたいに消えてく2人――わめきながらトンネルを駆け抜けた俺の前には、見知らぬカップルが顔を引きつらせて立っていた。
宮殿を通り抜けて星くずの庭に出る。
門の方へ歩き出した所で、左から潮のにおいが風に運ばれて来た。
振り向いてにおいを辿る、もう1つ門を発見した。
くぐって下へと続く道を下りてく。
目の前には真っ黒な海。
月は雲にかくされ、空には星だけが瞬いてる。
他は水平線近くに漁火が点々と見えるだけ。
ズズズズ…!!と波が音を立てて岸に近づく。
ザパァァン…!!!とぶち当たって、またズズズズ…!!と近づいて来る。
暗い中に生き物がうごめいてるみたいで不気味だった。
――航海は独りじゃ絶対に出来ない事なんだ。
シャンクスが言った通りだ。
ナミの母ちゃんをのみこんだ、黒い壁みてェな波。
今ヨットを浮かべて海へ出たら2度と戻って来れねェ。
恐くて体がガタガタと震えた。
「けどシャンクスは独りで航海して、世界一周に成功したんだろ?」
「独りじゃねェよ!衛星電話を使って、沢山の人達に支えて貰ったから、成し得た記録だ!俺1人だったら出港3日目に出くわした嵐に打ちのめされ、即お陀仏だったろうさ!」
「へー、海の上でも電話は通じんのか!出前頼んだら届けてくれっかな?」
「蕎麦やラーメンは無理だが、ピザは届けてくれるぜ!注文後30分で届いた時には感動したもんだ!」
「早ェー!!ヘリで届けてくれたのか!?」
「ダハハハハ…!!信じやがって馬鹿が!!無理に決まってんだろ♪」
「てめこの大人のクセに子供だましやがって!!ガッカリしただろー!!」
「…しかしま、海に出た後陸に戻ると、所詮は人間も足の付いた動物、地面から離れて生きてはいけねェもんだと思い知るぜ。
出前は届くし、枕は落ちねェ…芯からホッとするのさ!
だからなァ、ルフィ……」
「ん?」
「灯台を見付けろよ!」
「灯台?どこのだ?」
「比喩だ!必ず陸に戻る為に、何時でもてめェに顔を向けて、光ってる女を見付けろって事さ!」
「シャンクスには居るのか?」
照れ笑ったシャンクスの顔が、岸にぶち当たる波の音で、はじけて消えた。
海岸に沿って続く細い道に、俺は独りで立っていた。
道の先にベンチが見える、夕方『ナミ』が『サンジ』にひざまくらしてやってたトコだ。
また現れたら…と思うと、見るのが恐くて、目をつぶり走り抜けた。
人が多くて明るい港に出ていた。
その向うにキラキラ輝く高い塔がそびえてる。
バスん中で案内してくれたおっさん、展望台が有るって言ってたな。
高い所からならナミを見つけられるだろうか?
頭に浮かんだ名案を頼りに、橋を渡って塔を目指した。
「――って見つかるわけねェか!」
5階展望台の窓から見下ろした街並は、まるでブロックで組み立てたオモチャみてーだ。
建物より小せェ人なんて、識別出来るわけがない。
昇って実際に見るまで気づかなかった俺はバカだ。
せめて明るい昼間だったら、望遠鏡使って発見出来たかもしんねェけど。
高いビルの屋上にたいてい置いてある望遠鏡、1回200円のそれは、すでにしめ切られた後だった。
「使ったって見つかりゃしないわよ!」
ペカン!!ってナミに頭を叩かれた気がして後ろを振り向く――エレベーター横で立ってる案内係のおっさんしか居なかった。
俺とそのおっさん以外、マジで誰も居ない。
いくら最終入館ギリだからって、もちっと居てくれよ!
さびしーじゃねェか!
「こんなにきれーな夜景が観られるのに…」
建物全部がキラキラだ、街並を区切ってる運河まで輝いてる。
真っ暗なのは森と海が広がってる部分くらいだ。
ここからなら街全体が見下ろせる、想像以上の広さだった。
どこをさがせば良いのか見当もつかねェ、ヘナヘナと床に座りこんじまった。
「つまんねーー……」
何をしても…観ても…つまんねェ。
独りで居るのがこんなにつらいなんて知らなかった。
ヨットマンになれる自信も失くしてた。
「…何が『太陽』で…何が『引きつける』だ…!
誰も寄って来ねェじゃんか…!」
ナミが居なくなっただけで、こんなに弱っちくなっちまう俺だぞ。
おまえが思ってるように無敵じゃねェんだ。
弱点だらけの人間なんだからな。
「…あの…あの…お客様…!御気分でも悪くされましたか…?救護室へお連れ致しましょうか?」
案内係のおっさんが心配そーな顔で近寄って来た。
気分は悪いけど、体が悪いわけじゃない。
めんどーかけるのは悪ィんで、あきらめて降りる事にした。
こうなったらゾロの言った通り、ホテルに戻ってみよう。
部屋に荷物が有ったら、そこで待つ。
無かったら…その時は……
エレベーターを降り、運河にかかる橋を渡った所で、目の前をオレンジ色のバスが横切った。
「おい!!そこのバス停まれ!!乗ります!!乗りまーす…!!!」
手を挙げて追い駆ける、バスは港街へとかかる橋の手前で停まった。
扉を開けて、中から運転手のおっさんが顔を出す。
「このバスは終点スパーケンブルグ行きですが、宜しいですか?」
「終点?俺、ホテルに戻りてェんだ!ホテルアム…アム・・・アム何とか??」
「ホテル・アムステルダム?」
「そーそれ!!そこまで乗せてってくれ!!」
返事を聞くより前に乗りこむ、運転手のおっさんが困った顔を見せた。
「…済みませんがホテル・アムステルダムには、このバスは停まらないんですよ。それにホテル・アムステルダムへは、今このバスが走って来た通りを歩けば3分もかからずに…」
「あれ?おっさん、もしかして昼間乗った――」
メガネをかけ、苦笑ったその顔には見覚えが有った。
来て最初に乗ったバスの運転手をしてたおっさんだ。
俺の顔をじっと見て、おっさんも思い出したのか、にっこり笑った。
「ああ、今日入国されたお客さんですね!…お連れさんは?」
俺が黙って目をふせちまった事から、触れるべきじゃないと覚ったらしい。
おっさんまで気まずそうに黙り、他に誰も乗っていない車内に、エンジン音だけが響いた。
「………居なくなっちまった」
「居なくなった?…逸れてしまったんですか?」
「どうやってさがしたら良いか解んねェんだ…」
「携帯はお持ちでないんですか?」
「持ってるけど、向うが電源切っちまってる…」
また会話がとぎれた、エンジン音で体が振動する。
窓に映るイルミネーション、教会の鐘が「サンタが街にやって来る」を演奏した。
「…オレンジ広場で待ってみたら、どうでしょう?」
「オレンジ広場??」
首をかしげる俺に、おっさんはにっこり笑って教えてくれた。
「港前の広場の名前ですよ。お客さんが言った、乗れない用無しの帆船が繋留されてる」
思い出した!何とか号をけーりゅうしてる広場だ!
セグウェイに乗って廻った。
今日何度も通ったのに、名前はすっかり忘れちまってた。
「後30分もすれば、そこで花火が始まります。この街に来た人は、殆ど観に集まりますよ!」
そうだ、1日の最後に花火を打ち上げるって言ってたっけ!
ナミも観に来るかもしれない!
名案に何度もうなずくと、おっさんはハンドルに向き直り、扉を閉めた後、バスを発車させた。
【続】
…パレス後庭のイルミネーションについてはこちらの記事を。
15分毎に5分間と短いですが、1度観たら忘れられないショーです。
ちなみにハウステンボスでは迷子アナウンスはかけません。
理由はTDRを始め他のテーマパークと同じで、雰囲気を損なうから。
勿論係員に頼めば、ちゃんと捜してくれますよ。
昼間アレキサンダー広場辺りを歩いていたら、ドムトールン展望台からでも人を識別出来る。
感動したのは運河の底に走る溝まで見えた事、なんて澄んだ河の流れ!
残念だけど、現在ハウステンボスでは花火を毎夜打ち上げていない。
ただ近く花火師競技会が開催される。(→http://www.huistenbosch.co.jp/event/summer2010/festival/index.html)
久々の海上花火大会、観られる人はラッキー♪
そして次回(漸く)連載最終回!明日必ずUPしますんで~!