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天狗の池を眺めているのか、想いに耽っているのか一人の年老いた男が岩の上に
座っていた。何時もの長靴を履いている。
彼は雲上寺の宮の内和尚であった、適当に曇りがちの天気であり、時たま爽やかな
風が吹き抜けて気持ちの良い天上の山歩きであった。
和尚は「おおーそうであった」と低い声でうなずいた、「今頃であったなあー
わしの寺に憂いを含んだ綺麗な娘さんが訪ねて来たのは、ああ何という名の人じゃったかな、たしかてらをのヒデさんと菜菜子さんが案内してきよった、おおー
そうじゃあ 江美、、江美さんと云っていたはずじゃー。
なんでも恋人の生まれ故郷を訪ねてこの東祖谷に来たと云っていたな、男はたしか
健二じゃった、あのかわそうな、健二じゃったなあ健二は天女花が好きじゃった
じゃが、江美さん いまはどうしているじゃろう。」
和尚はスクっと立ち上がり歩き出した、そして天狗峠の近くに立って山麓に静かに横たわる東祖谷の集落を眺めやって、深いため息をついていた。
眼下には左に西山とひょうごいしと久保集落が並んでいる、久保の一番下には
M.iyaさんの庵が見えていた。
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