秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

嘆きの風景

2009年05月29日 | Weblog
沢沿いはひんやりと水音も軽やかに射し入る朝日はあくまでも優しいものだが
降り注ぐ新緑の匂いを喰らい、あたふたと喘ぎながら白髪別れの登山道を詰める

尾根上の縦走路は春の陽射しも強くて汗が噴出すが、果たしてこれは何の匂いだ
当たり一面に異様な匂いがするが死の匂いのような、辺りを見回しても死体など
無いが、遠慮なく私の体内を埋め尽くして、私は鼻をつまんだ、顔をゆがめた
よろめいてあたり一面枯れ果てたクマザサの中に跪いた。

囁きが聞こえて、それは枯れ果てたクマザサの囁きであったが、喘ぎ、怒り、呪い
嘆きの枯れ果てたササの囁きであった。
お前さん、人間のお前さん達は鹿の食害でササが枯れたと云っているようだが
見当違いというものさ、私らは鹿の食料になるのは本望なのさ、鹿の命に役立って
いるからな、その事については何の恨みも無いのさ、
恨みに思うのは人間のお前さんたちの横暴勝手な振る舞いさ、
お前さんたちによってこの自然界の調和が打っ壊されて、
私らクマザサは瀕死の状態だからね

私らクマザサ族の恨みを思い知るがいいのさ

春の陽射しがめっぽう強くなるなかを私は縦走路の枯れ果てたクマザサの
恨み言に魘され、脅されながら三嶺へと登りつめた。