酒は書くものではなく飲むものだな。そんなあたりまえのことをつぶやきながら好きな酒の話を5カ月ぶりに更新している。毎晩、飲むのに忙しくつい更新するのを怠けていた。
最近の関心は、純米酒で定番になるものをさがしている。本醸造の定番はここで何度も書いているようにこの四半世紀、〆張鶴(月)だ。この酒がうまいと感じるときは心身ともに快調だ。うれしくなる。まずく感じるときは体か気分に要注意だ。それだけかみさんに次いで付き合いの長い酒である。
(右が本醸造の定番の〆張鶴・月。左は最近飲んだ米川 (よねかわ)本醸造でこの造り酒屋は「豐賀」のブランドも出している)
本醸造はこれからも〆張鶴でいくが、純米の定番がいまも見つからないでいる。わが家でふだん飲みの純米といえばこれだというものがない。これまで相当の数の銘柄の純米を飲んできたのだが、いずれも定番にはならなかった。
寒い季節になると熱燗がほしくなる。熱燗に耐えられ、しみじみとうま味を感じる純米がほしい。これにふさわしい酒はお金を出せばある。しかし高い。毎晩のふだん飲みに高い酒は飲めない。分相応の酒は純米でいえば1升瓶で2400円ぐらいまでだ。
この価格帯の純米はいくらでもある。しかしどうしても開栓してすぐは味がカタイ。酒本来のうまみが出てくるまでしばらく待たなければならない。値段からすればこの程度で仕方ないのだが、それが気に食わない。あれもこれもと買っては飲んできたのだが、これだというものが見つからない。
最近は「天狗舞・純米酒 旨醇(うまじゅん)」を飲んでみた。飲み干すとまたこの酒を買った。少し気に入ったようだ。またこの酒を買いに行ったところ「刈穂・純米」があった。純米といってもこの欄で前回、前々回に取り上げた低精米の純米である。「刈穂でも低精米の酒を出したのか」とついこの酒に手を出した。この酒も悪くない。繰り返しこんな調子だからいつまでも純米の定番酒探しが続くことになる。しかし、これでいいと思っている。定番は本醸造の〆張鶴くらいにして、純米はあちこちの酒を飲み比べるのもわるくない。これも酒飲みの楽しみである。
(いま飲んでいる「刈穂・純米精米歩合80%」(左)と「天狗舞・純米酒 旨醇」)
うまい酒の飲み比べといえば昨晩はおいしい酒をいろいろとご馳走になった。この料理屋の亭主は大の清酒党。のれんをくぐれば大きな冷蔵庫に全国の銘柄が所狭しと並んでいる。いまはにごり酒の季節だ。多くのにごり酒があった。私はにごり酒のうまいものはつい飲んでしまい、どういうわけか酔いが速い。そんなわけでできるだけ避けている。
この夜のお勧めは「獺祭・純米大吟醸 発泡にごり酒」。口に含むと発泡酒だけに舌に刺激があるが、それ以上に香りがたった。なかなかの味わいである。一杯だけですますつもりが、またつがれた。飲み干して口走った。「これは後を引くな」。この種の酒はこのあたりでやめておいたほうが無難だ。それからふだん飲めない亭主推奨の「いい酒」を各種飲んだ。
そうだ肝心なことを忘れていた。席に着いた時、亭主がカワハギをさばいて肝を取りだしていた。それを見たらからには、とうぜん「カワハギの刺身、肝付き」を頼んだ。たたいた肝を透明な白身にのせて食べるもよし、肝を醤油に溶いて食べるのもよし。絶品だった。なんと清酒に合うことか。肝といえばアンコウだが、案の定、次はそれが出たのである。
珍しかったのは「ソラマメ」だ。この店で冷凍物を出すはずはない。これは種子島産だという。わが菜園のソラマメはいま芽を出したところだ。種子島ではいま収穫できているのだ。しかし、珍品だが、ソラマメは初夏にかぎるな。この店はよく案内される。私が好きな店だ。鄙にはまれな名店である。独酌したいときこっそりのれんをくぐりたい。すっかりご馳走になってしまった。ありがたいことである。