1カ月ぶりの酒の話。
燗酒がうまい季節だ。燗酒というと、どうもオヤジくさいと思われる向きもあるが、燗上がりのする酒に出会えたときの口福感といったら、飲んべえをやっていてよかったなと思わせてくれる。
冬の酒はきまって燗酒になる。それが冬なのに「冷や」でやることが多くなった。お燗するのが面倒なこともあるのだが、気に入った酒ともなると冷やでも味わいたくなる。しかし面倒でも、冬の酒はやはり燗がいい。「熱燗がいいかな、それともぬる燗がいいかな」と思いながら燗して温度の変化で酒の味も広がる。
燗酒の口福感を味わうには、あたりまえだが燗してうまい酒を探さなければならない。燗してバランスが崩れる酒は問題外だ。私の好みは、燗酒にするなら濃醇でコメのうまみを感じさせるものがいい。
燗してうまい酒は、これまで飽くなき探求のおかげでそれなりに得てきた。探すことは楽しい。要はこれはと思うものを買っては飲んでみるほかない。当たり外れがある。うまいと聞くともう居ても立っていられなくなり、せいてその酒を飲みたくなる。
燗酒となると純米酒が多くなる。私の買う酒はたいがい2千円から2千5百円までと決めている。この価格帯の純米酒は開栓したばかりの時は味がかたく、うま味が広がらない。1カ月ぐらい放置すると、うま味が出てくる。その時点で気に入らないと失格だ。もちろんお金を出せば熟成した味の酒を飲めるはわかっているのだが、その価格帯が分相応だと決めている。
最近はまっているのが「燗冷まし」だ。自分の舌がそれを求めているのか、偶然にも燗冷ましのうまい酒に出会えたのか、どうもわからないのだが、燗冷ましの酒はうまみが増して、味に広りが出てくる。燗冷ましとはいったん熱燗にしたものをさましたものだ。それをお汁みたいにジュルジュルと飲む。はた目にはまさに飲み助の意地汚い姿なのだが、ひとさまがなんといおうとこれがうまい!
ここはだまされたと思っていちどお試しあれ。経験でいえば、燗冷ましでうまい酒になるのは、燗上がりのする濃醇な酒がいい。
そんな酒に出会いを求めて酒屋をめぐる。どこの酒売り場も焼酎が幅を利かせて、清酒の売り場が年年狭くなり扱う銘柄も少なくなっている。うまい清酒を手に入れるには数軒の酒屋を定期的に回らなければならない。
この2月は初めに、3カ所の酒屋で3本買った。いずれも純米で、初めて飲むものばかり。このなかに1本でも燗冷ましのうまい酒に会えればめっけものである。評判がいくらよくても、最後は自分の舌が判断する。飲まなきゃわからない世界だ。
「奈良萬・純米」(夢心酒造・福島県喜多方市)
まだ開栓したばかりだが、燗酒よりも燗冷ましにいいようだ。うれしくなる。名の知れた酒だが、昨年暮れの山歩きでこれを「冷や」で飲んでうまかった。購入できる酒屋を調べ神田の「甲子屋(きのえねや)」で買った。
「福祝・純米」(藤平酒造・千葉県君津市)
冷やでも燗酒にしても、まがかたい。しばらく様子を見ることにした。最近よく雑誌などで取り上げられる酒だ。柏駅前の酒店をのぞいた。別の銘柄を探していたのだが、これがあったのですぐに買った。
「四万十川・純米吟醸」(高知県安芸市)
飲んでみるとこれは淡麗で濃醇タイプではなかった。冷やよりは燗したほうがいい。買ってからこれはどうかなと心配したが、着実に残りが減っているのだから悪くはない。ただ燗冷ましにすると味は落ちる。住まい近くのスーパーで購入。はじめて聞く銘柄でそのうえ安いので「ためしてみるか」とつい手が出た。