鉄ドアが開いた。早紀と美幸が入ってきた。二人とも、ギンギンの化粧をしていた。衣装はティーシャツとホットパンツだった。マーが近づいた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
「早いのね。」
「早速だけど、楽器とかは、何処に置いたらいいの。」
「ああ、そうか、新人さんだったわね。」
その言葉にマーは一瞬、ムッとした。
「こっちよ。」
大きなバッグを担いでいる二人が先頭になって、ステージの大きなスピーカーの裏の楽屋に案内してくれた。楽屋は広かった。マーが出ていた新宿や下北のハウスの楽屋は狭かった。「ベース」のルームより広い感じがした。
「そうね。まだ誰も来ていないから、好きなとこでいいんじゃない。」
というと、そこは二人の、いや、彼女たちのバンドの定位置らしいところに荷物を置いた。マーは皆を呼び、彼女たちと反対側に荷物を置いた。楽屋のドアが開いた。
「おお、気合、入っててるねー」
昭雄さんだった。
「関心、関心。新人はそうじゃなくっちゃね。精算するから、来てくれる。」
マーとマサルは事務所に行った。
「あまりチケットは何枚。」
そういうと手を差し出した。あまりチケットは・・・・・・、マサルは部室に置きっぱなしだった。マーたちは、とにかく配りまくったので手元には五枚ほどしかなかった。渡した。
「すごいね。こんなにはけたの。」
「はあ。」
「じゃあ、悪いけど。ノルマ分を精算して。四十枚分ね」
マサルが財布を出し金を渡した。
「ハイ、ありがとう。マー君、他のバンドのリハを見て勉強してね。ウチはけっこういい音出すんだよ。」
キッチンのスタッフもフロアーの人も来ていた。マーは楽屋に戻り、皆をつれ、スタッフの人たちに挨拶して回った。そんなマーたちの行動に、店の人は驚いていた。片付いたところで、客席の先ほどの場所に皆で戻った。
「スミマセーン。遅くなりました。」
その日の最後に出演する「ミラクルフォース」の人たちが来た。楽屋に行くこともなく立見席に楽器を置いて、バンマスらしき人がミキサーの平井さんと打ち合わせを始めた。他のメンバーはステージに上がり、楽器をセットし始めた。慣れてる感じがした。ハルは時々、マーのリハに付き合ったことが会ったが、他のものは初めてだった。何か、とてもすごいことが行われているような感じがした。緊張感が走った。打ち合わせが終わると、バンマスがギターを持って、ステージに上がった。平井さんと吉川さん、女性のスタッフが一人、バンマスを追いかけるようにステージに上った。
「ミラクルフォース」は五人バンドだった。それぞれの位置に立つと、スタッフがそれぞれのマイクの位置やモニターの角度を調整した。女性のスタッフが一人、ステージ上に残り、平井さんと吉川さんが卓に戻った。
「ベードラからください。」
平井さんの声がスピーカーから響いた。ビクッとするくらいの音の大きさだった。リハーサルが始まった。一つ、一つの楽器の音をチェックして、それぞれの演奏者から、確認とも注文とも思える意見が卓に返され、音が決まっていった。
「それじゃあ、全体でください。」
「入りの曲から行きます。」
ドラムスから、カウントが出され、演奏が始まった。一回ししたあたりで、バンマス、ヴォーカルの人が演奏をとめた。
「すみません。歌の返しとドラムの返しをもう少し上げてください。」
「はい、解った。」
それぞれの楽器の担当者からも同じような応答があった。もう一度、カウントが出された。ギターの人が立見席に降りて、全体の音を外から確認していた。ヴォーカルと目で合図した。演奏が止まった。
「じゃあ最初あから、流します。時間になったら、とめてください。」
ギターがポジションに戻った。
「ハーイ、ミラクルフォースです。」
カウントが刻まれ、演奏が始まった。風圧を感じるような音だった。皆は圧倒されそうだった。マーだけは懐かしいような、うらやましいような、不思議な感覚だった。しっかりを訓練されている感じが心地良かった。一人、一人が自分のパーツを確実に演奏していた。リフも、決め事もそろっていた。
「フー。」
「スグイね。」
「こんなもんだよ。」
「そうなんだ。」
鉄ドアが開いて、「ガンクス」のメンバーが入ってきた。リハの音量の中で入ってきたことが解った。存在感があった。
「はーい、そんなとこでどうでしょう。」
平井さんの声が響いた。
「ありがとうございました。本番お願いします。」
「ミラクルフォース」の時とはリハの雰囲気が違っていた。ステージが空くまで三人は動かなかった。完全にステージが空くと、ドラムスの人からゆっくりとステージに上がった。平井さん、吉川さん、女性スタッフがまた、ステージに上がった。セッティングに時間がかかった。ドアラムスは個人もちのタムやシンバルをセットした。セッティングが終わると、三人がかりでマイクがセットされた。走るようにして平井さんが卓に戻った。何の会話も交わされずにベードラの音が響いた。
「キック、オーケー。」
スネアの音に変わった。
「オーケー。」
タムの音が回った。シンバル、そしてリズム。やっていることは「ミラクルフォース」と変わらないのだが、雰囲気が違った。
ベースの人がステージに上がった。ドラムスの音はフッと消えた。イー弦の開放音がズーンという感じで響いた。全ての開放弦の音を、ゆっくりとしたテンポで、テンポを狂わすことなく、チェックした。
「フレーズで。」
その瞬間にビートを感じさせるリフが始まった。
「ドラムと。」
会話が短かった。最後にギターヴォーカルの人がステージに上がった。フェンダーのアンプの横に黒いボックスが置かれた。ラインインのボックスとアンプの両方にシールドがつながれた。
「ガツ。」
一発目の音がなり、流れるようなフレーズが会場を満たした。
「オーケー。」
「チェック、チェック、ワン、ツー。ワンツー。」
「いいよ。」
「ワン、ツー、スリー。」
演奏が始まった。
「ミラクルフォース」とは音の質が違った。マサルが緊張していた。
「大丈夫だよ。」
マーがマサルの肩を叩きながら言った。
「マサルのほうがすごいよ。」
マサルは複雑な気持ちだった。
演奏は一曲が完全に終わるまで止まらなかった。
「平井さん。僕のモニター、ジーが出てる。」
「エッ、ほんと。恵美子。ちょっとシールド変えて。」
「ヴォーカルの返し、が大き過ぎるから・・」
ドラムスの人が言った。直しが終わるとベースとギターが立見席に下りた。カウントが始まり、演奏に入った。
ロングヘアーの女性が入ってきた。演奏をしているギターの耳に何か言った。ベースとギターはステージに戻った。女性はハウスの中を移動しながら、ステージのギターの人にサインを送った。先ほどとはちがう曲が完全に演奏された。
「公子、遅いよ。」
「ゴメン、でも、いい感じだよ。」
「平井さん、ジー消えた。いい感じです。よろしくー・・」
二曲でリハは終わった。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
「早いのね。」
「早速だけど、楽器とかは、何処に置いたらいいの。」
「ああ、そうか、新人さんだったわね。」
その言葉にマーは一瞬、ムッとした。
「こっちよ。」
大きなバッグを担いでいる二人が先頭になって、ステージの大きなスピーカーの裏の楽屋に案内してくれた。楽屋は広かった。マーが出ていた新宿や下北のハウスの楽屋は狭かった。「ベース」のルームより広い感じがした。
「そうね。まだ誰も来ていないから、好きなとこでいいんじゃない。」
というと、そこは二人の、いや、彼女たちのバンドの定位置らしいところに荷物を置いた。マーは皆を呼び、彼女たちと反対側に荷物を置いた。楽屋のドアが開いた。
「おお、気合、入っててるねー」
昭雄さんだった。
「関心、関心。新人はそうじゃなくっちゃね。精算するから、来てくれる。」
マーとマサルは事務所に行った。
「あまりチケットは何枚。」
そういうと手を差し出した。あまりチケットは・・・・・・、マサルは部室に置きっぱなしだった。マーたちは、とにかく配りまくったので手元には五枚ほどしかなかった。渡した。
「すごいね。こんなにはけたの。」
「はあ。」
「じゃあ、悪いけど。ノルマ分を精算して。四十枚分ね」
マサルが財布を出し金を渡した。
「ハイ、ありがとう。マー君、他のバンドのリハを見て勉強してね。ウチはけっこういい音出すんだよ。」
キッチンのスタッフもフロアーの人も来ていた。マーは楽屋に戻り、皆をつれ、スタッフの人たちに挨拶して回った。そんなマーたちの行動に、店の人は驚いていた。片付いたところで、客席の先ほどの場所に皆で戻った。
「スミマセーン。遅くなりました。」
その日の最後に出演する「ミラクルフォース」の人たちが来た。楽屋に行くこともなく立見席に楽器を置いて、バンマスらしき人がミキサーの平井さんと打ち合わせを始めた。他のメンバーはステージに上がり、楽器をセットし始めた。慣れてる感じがした。ハルは時々、マーのリハに付き合ったことが会ったが、他のものは初めてだった。何か、とてもすごいことが行われているような感じがした。緊張感が走った。打ち合わせが終わると、バンマスがギターを持って、ステージに上がった。平井さんと吉川さん、女性のスタッフが一人、バンマスを追いかけるようにステージに上った。
「ミラクルフォース」は五人バンドだった。それぞれの位置に立つと、スタッフがそれぞれのマイクの位置やモニターの角度を調整した。女性のスタッフが一人、ステージ上に残り、平井さんと吉川さんが卓に戻った。
「ベードラからください。」
平井さんの声がスピーカーから響いた。ビクッとするくらいの音の大きさだった。リハーサルが始まった。一つ、一つの楽器の音をチェックして、それぞれの演奏者から、確認とも注文とも思える意見が卓に返され、音が決まっていった。
「それじゃあ、全体でください。」
「入りの曲から行きます。」
ドラムスから、カウントが出され、演奏が始まった。一回ししたあたりで、バンマス、ヴォーカルの人が演奏をとめた。
「すみません。歌の返しとドラムの返しをもう少し上げてください。」
「はい、解った。」
それぞれの楽器の担当者からも同じような応答があった。もう一度、カウントが出された。ギターの人が立見席に降りて、全体の音を外から確認していた。ヴォーカルと目で合図した。演奏が止まった。
「じゃあ最初あから、流します。時間になったら、とめてください。」
ギターがポジションに戻った。
「ハーイ、ミラクルフォースです。」
カウントが刻まれ、演奏が始まった。風圧を感じるような音だった。皆は圧倒されそうだった。マーだけは懐かしいような、うらやましいような、不思議な感覚だった。しっかりを訓練されている感じが心地良かった。一人、一人が自分のパーツを確実に演奏していた。リフも、決め事もそろっていた。
「フー。」
「スグイね。」
「こんなもんだよ。」
「そうなんだ。」
鉄ドアが開いて、「ガンクス」のメンバーが入ってきた。リハの音量の中で入ってきたことが解った。存在感があった。
「はーい、そんなとこでどうでしょう。」
平井さんの声が響いた。
「ありがとうございました。本番お願いします。」
「ミラクルフォース」の時とはリハの雰囲気が違っていた。ステージが空くまで三人は動かなかった。完全にステージが空くと、ドラムスの人からゆっくりとステージに上がった。平井さん、吉川さん、女性スタッフがまた、ステージに上がった。セッティングに時間がかかった。ドアラムスは個人もちのタムやシンバルをセットした。セッティングが終わると、三人がかりでマイクがセットされた。走るようにして平井さんが卓に戻った。何の会話も交わされずにベードラの音が響いた。
「キック、オーケー。」
スネアの音に変わった。
「オーケー。」
タムの音が回った。シンバル、そしてリズム。やっていることは「ミラクルフォース」と変わらないのだが、雰囲気が違った。
ベースの人がステージに上がった。ドラムスの音はフッと消えた。イー弦の開放音がズーンという感じで響いた。全ての開放弦の音を、ゆっくりとしたテンポで、テンポを狂わすことなく、チェックした。
「フレーズで。」
その瞬間にビートを感じさせるリフが始まった。
「ドラムと。」
会話が短かった。最後にギターヴォーカルの人がステージに上がった。フェンダーのアンプの横に黒いボックスが置かれた。ラインインのボックスとアンプの両方にシールドがつながれた。
「ガツ。」
一発目の音がなり、流れるようなフレーズが会場を満たした。
「オーケー。」
「チェック、チェック、ワン、ツー。ワンツー。」
「いいよ。」
「ワン、ツー、スリー。」
演奏が始まった。
「ミラクルフォース」とは音の質が違った。マサルが緊張していた。
「大丈夫だよ。」
マーがマサルの肩を叩きながら言った。
「マサルのほうがすごいよ。」
マサルは複雑な気持ちだった。
演奏は一曲が完全に終わるまで止まらなかった。
「平井さん。僕のモニター、ジーが出てる。」
「エッ、ほんと。恵美子。ちょっとシールド変えて。」
「ヴォーカルの返し、が大き過ぎるから・・」
ドラムスの人が言った。直しが終わるとベースとギターが立見席に下りた。カウントが始まり、演奏に入った。
ロングヘアーの女性が入ってきた。演奏をしているギターの耳に何か言った。ベースとギターはステージに戻った。女性はハウスの中を移動しながら、ステージのギターの人にサインを送った。先ほどとはちがう曲が完全に演奏された。
「公子、遅いよ。」
「ゴメン、でも、いい感じだよ。」
「平井さん、ジー消えた。いい感じです。よろしくー・・」
二曲でリハは終わった。