仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

新王を探せ8

2010年03月15日 17時17分46秒 | Weblog
 ツカサの選んだ順路は世田谷通りから三軒茶屋に出て二百四十六号に入り、渋谷を抜けて、国道一号線に出るというものだった。首都高を使っても良かったが、安全を考えてというより、そうしなければならないという意識が理由もなく働いた。
 渋谷の駅にかかったところでヒトミが言った。
「ねえ、ツカサ、青山をみたいわ。」
「ハイ。」
「その前に公園通りのパルコの前で止めて。」
「はい。」

 その頃、「ベース」、「神聖な儀式」を始めた「ベース」は、その内容を大きく変えていた。「神聖な儀式」そのものも、各支部で開催されるようになり、青山墓地の裏のその場所は、上層階を執行部の事務所とし、地階を「死の部屋」をはじめとする胎動、新星の教育施設として構成されていた。ピアノのあったホールは見る影もなかった。アップグレーディングポリシーに基づく「流魂」の教育は青山の教育施設に入れることを非常に貴重なことのように演出していた。

 車はパルコの前で止まった。
「ツカサ、ちょっと待ってて。」
ヒトミはスペイン坂のそば屋の前の「ベース」を見たかった。八時過ぎのその場所は、人通りが多すぎた。ヒトミは一瞥するだけで、車に戻った。
「いいわ。もう、いきましょう。」
「はい。」
 次に、ツカサは、ヒトミの指示で、青山の「ベース」の道路を挟んで反対側に車を止めた。照明が「流魂」の看板を浮かび上がらせていた。正面のドアの前には武闘派が二人立っていた。車を降りて、ヒトミは青のビルを見た。そんなに長い時間ではなかった。車のドアを開け、乗り込んだヒトミの声が震えていた。
「どうか、なされなした。」
「なんでもないわ。」
ヒトミがツカサにもたれかかった。ヒトミの肩の震えがツカサを緊張させた
「ねえ、行こう。少し離れて、ここから少し離れて。」
ツカサはどうしていいか解らなかった。エンジンをかけ、走り出した。墓地の中に続く、舗装路を曲がって、少し奥まったところで車をとめた。ヒトミはハンドルを持つ、ツカサの左手を頭の後ろを通して、自分の肩に乗せた。ツカサの胸に頭をつけた。
「ねえ、ツカサ、二人きりのときは敬語は止めて。ね。おねがい。」
そういうと、また、震えがツカサに伝わった。
「どうされました。」
「だから・・・・。」
「すみません。どういっていいか。解らなくて・・・。」
「私ね、ヒトミに戻る時間が欲しいの。姫でなくて、ヒトミに。」
「ハイ。」
「どうして姫になっちゃったんだろうって・・・・、初めのころとずいぶん変わっちゃったなあって・・・。」
「ハイ。」
「だからあ・・・。難しいかな。なんかね。少し疲れたって感じがするの。偉そうにするのが・・・・。」