「ここに、姫がなぜいない。」
「姫は、現在、お疲れの様子で、世田谷にて、休養を取られております。」
執行部の一人が言った。
「宰が留守の間を守るのが姫の勤め、何ゆえ・・・執行部の乱れも・・・・
姫を呼びなさい。」
そして、ヒトミが糾弾された。姫の地位を追われ、退会を強いられた。
あたかも、宰と姫の意志によって、大政奉還がなされたように演劇部はシナリオを創った。そのセレモニーが代々木の体育館を貸しきって行われた。「流魂」を支える信者がそこから、ここから、あそこからと集まった。入場できない信者は、外でその雰囲気を味わった。
ヒロムもヒトミもその信者の多さに驚いた。
壇上では、ヒロムが言葉を発することはなかった。
ヒトミも何も言わなかった。
奈美江の演説が、人々を魅了した。演劇部のシナリオは、奈美江という女優によって、完璧なものに仕上がった。白衣衣装、ヒロムが企画した最初の「神聖な儀式」の時のような衣装を二人は着せられた。
ヒトミの手にはツカサが切りつけたナイフがあった。
ヒロムの手には絹の布があった。
演出では、ヒトミがそのナイフを奈美江に手渡し、真愛弥の頭にヒロムが布を巻くことで、大政奉還がなされたことの象徴となるはずだった。壇上の中央でそれは行われた。壇上の一番奥の高級な椅子に座っていた二人は一度、舞台の袖に向かい、ナイフと布を受け取った。
そして、ヒロムとヒトミが中央で待つ、奈美江と真愛弥に向かった。四人の距離が一メートルほどに近づいた時、ヒロムが、ヒトミのナイフを取って、奈美江に斬り付けた。ヒロムは真奈美を押し倒し、その身体にまたがると、両手でナイフを握り、大きく振りかざした。ナイフが奈美江の胸に当ると思われたその一瞬、奈美江の視線がヒロムをとらえた。
冷たく、服従を強いる視線。主人が犬を見る視線。
真奈美の衣装をナイフが突き抜けることは無かった。真奈美は両手でナイフを握るヒロムの手を押さえた。グッと引いてから、上に持ち上げた。ヒロムは視線が意図するところに従いその形のまま立ち上がり、真奈美の手を引き、真奈美を起した。
身構える武闘派に対して、真奈美の視線は制止を伝えた。突然の出来事に会場に緊張が走った。しかし、真奈美はそれすらも儀式のように、恭しくヒロムからナイフを取り、マイクに向かった。
「悪しき心の闇を、今、宰が断ち切ってくださいました。新生「流魂」の旅立ちが始まったのです。」
感動の雄叫びが会場を満たした。その演出が、まるで、真実のような流れだったかのように人々の心は揺れた。
確かに、それはヒロムの殺意だった。
後、一秒、真奈美の視線がヒロムを捕らえるのが遅かったら、感動とは程遠い、恐怖が会場を満たしていただろう。その時の真奈美には何かがあった。何かが真奈美を守った。
呆然と立ちつくすヒロムの周りは笑顔の武闘派が取り囲んいた。ナイフを控えの執行部に渡し、女子が抱いていた真愛弥を抱いて、真奈美は中央に戻った。笑顔の武闘派が囲む中、絹の布を帯状にして、ヒトミが真愛弥の頭に巻いた。
光沢のある赤。
真奈美は高らかと真愛弥を掲げ上げた。不思議なことに、真愛弥はなかなかった。表情も変えなかった。視線はゆっくりとあたりを見回していた。
袖から、執行部の面々が手を叩きながら、中央に集まった。会場から、「流魂」の雄叫びが聞こえ、それは、膨大な音量のリフレインとなった。外にいた信者もその気配を感じたのか、「流魂」の雄叫びを唱和した。
やがて、天井から巨大な幕が落ちてきて、壇上を覆った。
「姫は、現在、お疲れの様子で、世田谷にて、休養を取られております。」
執行部の一人が言った。
「宰が留守の間を守るのが姫の勤め、何ゆえ・・・執行部の乱れも・・・・
姫を呼びなさい。」
そして、ヒトミが糾弾された。姫の地位を追われ、退会を強いられた。
あたかも、宰と姫の意志によって、大政奉還がなされたように演劇部はシナリオを創った。そのセレモニーが代々木の体育館を貸しきって行われた。「流魂」を支える信者がそこから、ここから、あそこからと集まった。入場できない信者は、外でその雰囲気を味わった。
ヒロムもヒトミもその信者の多さに驚いた。
壇上では、ヒロムが言葉を発することはなかった。
ヒトミも何も言わなかった。
奈美江の演説が、人々を魅了した。演劇部のシナリオは、奈美江という女優によって、完璧なものに仕上がった。白衣衣装、ヒロムが企画した最初の「神聖な儀式」の時のような衣装を二人は着せられた。
ヒトミの手にはツカサが切りつけたナイフがあった。
ヒロムの手には絹の布があった。
演出では、ヒトミがそのナイフを奈美江に手渡し、真愛弥の頭にヒロムが布を巻くことで、大政奉還がなされたことの象徴となるはずだった。壇上の中央でそれは行われた。壇上の一番奥の高級な椅子に座っていた二人は一度、舞台の袖に向かい、ナイフと布を受け取った。
そして、ヒロムとヒトミが中央で待つ、奈美江と真愛弥に向かった。四人の距離が一メートルほどに近づいた時、ヒロムが、ヒトミのナイフを取って、奈美江に斬り付けた。ヒロムは真奈美を押し倒し、その身体にまたがると、両手でナイフを握り、大きく振りかざした。ナイフが奈美江の胸に当ると思われたその一瞬、奈美江の視線がヒロムをとらえた。
冷たく、服従を強いる視線。主人が犬を見る視線。
真奈美の衣装をナイフが突き抜けることは無かった。真奈美は両手でナイフを握るヒロムの手を押さえた。グッと引いてから、上に持ち上げた。ヒロムは視線が意図するところに従いその形のまま立ち上がり、真奈美の手を引き、真奈美を起した。
身構える武闘派に対して、真奈美の視線は制止を伝えた。突然の出来事に会場に緊張が走った。しかし、真奈美はそれすらも儀式のように、恭しくヒロムからナイフを取り、マイクに向かった。
「悪しき心の闇を、今、宰が断ち切ってくださいました。新生「流魂」の旅立ちが始まったのです。」
感動の雄叫びが会場を満たした。その演出が、まるで、真実のような流れだったかのように人々の心は揺れた。
確かに、それはヒロムの殺意だった。
後、一秒、真奈美の視線がヒロムを捕らえるのが遅かったら、感動とは程遠い、恐怖が会場を満たしていただろう。その時の真奈美には何かがあった。何かが真奈美を守った。
呆然と立ちつくすヒロムの周りは笑顔の武闘派が取り囲んいた。ナイフを控えの執行部に渡し、女子が抱いていた真愛弥を抱いて、真奈美は中央に戻った。笑顔の武闘派が囲む中、絹の布を帯状にして、ヒトミが真愛弥の頭に巻いた。
光沢のある赤。
真奈美は高らかと真愛弥を掲げ上げた。不思議なことに、真愛弥はなかなかった。表情も変えなかった。視線はゆっくりとあたりを見回していた。
袖から、執行部の面々が手を叩きながら、中央に集まった。会場から、「流魂」の雄叫びが聞こえ、それは、膨大な音量のリフレインとなった。外にいた信者もその気配を感じたのか、「流魂」の雄叫びを唱和した。
やがて、天井から巨大な幕が落ちてきて、壇上を覆った。