市川の「ベース」の景色はずいぶんと変わっていた。
効率的な土地の使用を考え、区画を整理し、その周りの農家からも土地を借りるようになった。化学肥料を使わず、無農薬で栽培された作物は、形も色も不揃いだった。その頃、残留農薬や、農薬に使われている薬剤の種類を気にする人が、ある程度の収入のある人々の間で少しづつ増えてきた。世田谷の住宅街やマンションで移動販売をしていた「ベース」の面々は、定期購買をしてくれる人々に月二回あるいは、三回で宅配をするようになった。「グリーンベース」という名前でそれらは届けられた。「ベース」の敷地の横には運搬用の軽トラックが4台ほど止まっていた。
ヒトミはやはり、立ち止まった。土手の上から見下ろす景色が一年足らずでずいぶんと変わり、外から見ても、中の活気が伝わってきた。かつて、「流魂」での自分の地位を存続するためという理由だけではなかったが、ここを視察に来たときのことが、昨日のことのように思い出された。彼らのもとに自分が入っていくことが許されるのか、わからなかった。
「いってみましょうよ。」
ツカサがいった。
「ヒトミさんの原点なんでしょう。」
「さんは、止めてね。ツカサ」
二人は、ツカサの部下だった武闘派で、まだ、ツカサを慕う堀口の手助けをえた。堀口も恵美子と同じようにツカサを自分の上司と信じていた。今回の動きについて、上層部に不満をもっていた。武闘派の動きをツカサに伝え、「ホンダライフを使ってください。」と提供した。
堀口は恵美子ほど自由な立場ではなかった。新しい指揮官が堀口の上にでき、その指導が始まっていた。在宅であることが幸いし、ヒトミの衣装や化粧品やその他もろもろをそろえることも堀口の部屋に世話になることで可能となった。また、武闘派本部も、堀口の部屋に二人がいるとは思わなかった。不思議なことに、上層部から、姫とツカサの捜索の命令は出ていなかった。なにかが、違うような気が堀口はした。
そして、二人は堀口の部屋を出た。
電車に乗って、市川の駅をおり、歩いた。
その土手を歩いた。
ヒトミは何も話さなかった。
ツカサもヒトミも普通の格好をしていた。
普通のカップルだった。
土手を散歩するカップルだった。
姫ではなかった。
頭の中でいろんなことがグルグルと回っていた。
何が何だかわからない。
そんな思いがヒトミを襲った。
自分が何なのか。
ツカサがどうして、自分を助けにきたのか
恵美子は大丈夫なのか
堀口は裏切らないのか。
なぜ、「ベース」に向かうのか
時々、めまいがした。
ツカサの肩に寄り添った。
ツカサはためらいながら、手を握った。
握り返す手に力はなかった。
まだ、太陽がまぶしい時間だった。
効率的な土地の使用を考え、区画を整理し、その周りの農家からも土地を借りるようになった。化学肥料を使わず、無農薬で栽培された作物は、形も色も不揃いだった。その頃、残留農薬や、農薬に使われている薬剤の種類を気にする人が、ある程度の収入のある人々の間で少しづつ増えてきた。世田谷の住宅街やマンションで移動販売をしていた「ベース」の面々は、定期購買をしてくれる人々に月二回あるいは、三回で宅配をするようになった。「グリーンベース」という名前でそれらは届けられた。「ベース」の敷地の横には運搬用の軽トラックが4台ほど止まっていた。
ヒトミはやはり、立ち止まった。土手の上から見下ろす景色が一年足らずでずいぶんと変わり、外から見ても、中の活気が伝わってきた。かつて、「流魂」での自分の地位を存続するためという理由だけではなかったが、ここを視察に来たときのことが、昨日のことのように思い出された。彼らのもとに自分が入っていくことが許されるのか、わからなかった。
「いってみましょうよ。」
ツカサがいった。
「ヒトミさんの原点なんでしょう。」
「さんは、止めてね。ツカサ」
二人は、ツカサの部下だった武闘派で、まだ、ツカサを慕う堀口の手助けをえた。堀口も恵美子と同じようにツカサを自分の上司と信じていた。今回の動きについて、上層部に不満をもっていた。武闘派の動きをツカサに伝え、「ホンダライフを使ってください。」と提供した。
堀口は恵美子ほど自由な立場ではなかった。新しい指揮官が堀口の上にでき、その指導が始まっていた。在宅であることが幸いし、ヒトミの衣装や化粧品やその他もろもろをそろえることも堀口の部屋に世話になることで可能となった。また、武闘派本部も、堀口の部屋に二人がいるとは思わなかった。不思議なことに、上層部から、姫とツカサの捜索の命令は出ていなかった。なにかが、違うような気が堀口はした。
そして、二人は堀口の部屋を出た。
電車に乗って、市川の駅をおり、歩いた。
その土手を歩いた。
ヒトミは何も話さなかった。
ツカサもヒトミも普通の格好をしていた。
普通のカップルだった。
土手を散歩するカップルだった。
姫ではなかった。
頭の中でいろんなことがグルグルと回っていた。
何が何だかわからない。
そんな思いがヒトミを襲った。
自分が何なのか。
ツカサがどうして、自分を助けにきたのか
恵美子は大丈夫なのか
堀口は裏切らないのか。
なぜ、「ベース」に向かうのか
時々、めまいがした。
ツカサの肩に寄り添った。
ツカサはためらいながら、手を握った。
握り返す手に力はなかった。
まだ、太陽がまぶしい時間だった。