仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

夜になるまで2

2010年09月24日 16時36分50秒 | Weblog
川の中に入りたい。
流れの中で自分が消えてしまえばいい。
もう、いい。
自分したことは、いずれ、自分に帰ってくる。
エミちゃんみたいに自分を信じて「流魂」に入ってきた人はどのくらいいるんだろう。
私はその人たちに何ができるのだろう。
今も、自分のために、自分のためだけに逃げている。
私は、私は、

 ヒトミが腕を引いた。
「ベース」の反対側の河原に降りた。

「ツカサ、わたしの・・・・。」
「ヒトミさん。」
「はは、さんはやめてね。」
「あっ。」
「ツカサはどうしてわたしを・・・・。」
「はい。」
「はい、じゃなくて・・・・。私を助けたの。エミちゃんみたいに私が姫だったから。」
「いえ。」

流れが綺麗だった。沈黙は怖かった。ツカサの肩に身体をあずけた。光のダンスが見えた。

 緊張はしなくなっていた。「ベース」の視察以来、ヒトミのそばにいようと心がけた。一年、それはずいぶん長いようで短かった。
 武闘派が分裂していくことをくい止めようしたときもあった。抗争もあった。執行部が意図するところを探り、ヒトミの地位が危ないことも察していた。ただ、執行部も積極的には動かなかった。

 奈美江、奈美江の反乱。

 遅かれ早かれ、ヒトミが姫でいられなくなる。その時、どうするか。

ツカサは決めていた。守る。この女性を自分が守ると決めていた。よく、見つからなかった、つかまらなかったと思った。武道を熟知している武闘派にはかなうわけがなかった。恵美子が来た時、ツカサは自分にまだ運が残っていると思った。ツカサは世田谷の屋敷の裏手で、じっと、その時を待っていた。

 もう、帰る場所はない。

ツカサはそう決めていた。

「どうして私を助けたの。」
ヒトミを見つめた。グッと引き寄せ、抱いた。
「ツカサ、ツカサ。」
ツカサの胸に顔を埋めヒトミは泣いた。ツカサの腕の力も、体温も、体臭も、その心が伝わった。