COP16新議定書見送りへ
2013年以降の地球温暖化対策を協議する、今年末の国連気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)では、「京都議定書」に代わる新議定書の採択を目指していたが、見送られる見通しとなった。不本意な結果に終わった昨年末のコペンハーゲン会議の反省から、議長国メキシコや欧州連合(EU)が拙速を避ける方針を固めたためだ。
各国は4月9日からドイツのボンで始まった特別作業部会でCOP16の準備に取りかかるが、失速した交渉を前進させるため、途上国が要求する京都議定書の延長を容認する考えが欧州を中心に浮上している。
昨年12月にコペンハーゲンで開かれたCOP15は、「ポスト京都」の枠組み決定を目指したが先進国と新興・途上国の対立で紛糾。主要28カ国がまとめた「コペンハーゲン合意」も採択できず、「留意」するにとどまった。
EUは先月末、COP16の目標を「コペンハーゲン合意を国連交渉に結びつける具体的な決定を下すこと」と定め、新議定書の策定・採択を「射程外」に置いた。「いたずらに期待値を高めれば交渉が台無しになる恐れがある」(ヘデゴー欧州委員)ためだ。EUは「段階的な2年計画」(EU筋)で取り組み、COP16では失地回復に集中し、来年末のCOP17で新議定書を目指す戦術だ。
京都議定書の延長
交渉の「カンフル剤」として欧州で浮上したのが、先進国にのみ排出削減を義務付けた京都議定書の延長も、新議定書策定を条件に受け入れる選択肢だ。EUは従来、京都議定書の延長でなくあくまで新議定書を求めてきた。しかし、先月中旬の環境相会議で京都延長論を協議。英国のミリバンド・エネルギー気候変動相は最近、「条約が一つ(新議定書のみ)か二つ(新議定書と京都議定書の併存)かで交渉を脱線させたくない」と京都延長による「併存」を受け入れる姿勢を打ち出した。背景には、新議定書への一本化にこだわるEUの姿勢が途上国の反発を招いた反省がある。
京都議定書には参加していない米国で温暖化対策法案の議会審議が難航していることから、「米議会に縛られるのは賢明ではない」(エルビラ・メキシコ環境相)との思いも関係国には強い。EUは「京都(議定書)に問題がある国は代替案を提示するか、延長にどう対応するかを示す必要がある」(ヘデゴー委員)と米国に対応を促している。(毎日新聞 2010年4月10日)
コペンハーゲン合意
COP15は2013年以降の京都議定書後の、温室効果ガス削減目標づくりを目指したが、合意には至らず、次のような方向性を示したに過ぎなかった。
1.産業革命以前からの地球の気温上昇を2度以内に抑えるべきだとの科学的見解を確認する。
2.地球全体と国ごとの温室効果ガス排出量が可能な限り早くピークを迎えるよう、各国は協力する。途上国で社会・経済発展と貧困解消が最優先されることも認める。
3.継続的で十分な資金、技術、能力開発を、先進国が途上国に支援する。
4.先進国は、個別または共同で、20年の温室効果ガス排出量を(数値は空欄の)別表のとおり設定する。
5.途上国は持続的な開発に向けた温暖化対策を取る。対策の内容は2年ごとに報告する。対策は各国内で監査や査定を受ける。先進国資金による対策は国際的に監査・検証を受ける。
6.途上国は、森林伐採や森林破壊による温室効果ガスの排出を減らす。
7.先進国は、費用対効果を高めつつ温暖化対策を図るため、市場の活用を含む多様な手法を追求する。
8.森林減少・劣化対策や技術開発など途上国の温暖化対策を支援するため十分な資金を途上国に提供する。300億ドルを10~12年までに提供すると確約した。また20年時点で年間1000億ドルを支援する目標を支持する。
9.ハイレベル委員会をつくり、(温暖化対策のための)財源の見積もりを行う。
10.途上国の温暖化対策を支援するため「コペンハーゲン気候基金」を設立する。
11.温暖化対策の技術開発や途上国への技術移転を強化する「技術機構」を設立する。
12.合意内容とその履行状況について16年に見直しをする。
(毎日新聞 2009年12月19日)
日本は米国・中国の出方しだい
京都議定書の延長案は、前回のCOP15でも出ていた。議長が京都議の単純延長を提案したが、この時は新基準を目指していたので否決された。
仮にこの提案「だけ」が合意されてしまえば、現在、京都議定書に批准している先進国(日本、欧州連合、オーストラリア、ロシアなど。当然米国は含まれない)「だけ」が2020年までの削減義務を負ってしまう。
もちろん、その後の交渉で他国にも削減を求める枠組みを追加することもできるだろう。しかし、日本の2020年までの義務を、他国(主に米中)の削減義務や行動がどうなるかわからないまま、固定させてしまうのは大きなリスクがある。
今やCO2排出量、第一位・第二位になった、米国、中国の参加がないのに、温室効果ガス削減の中期目標を2020年までに1990年比25%減とするなど、政府が頑張りすぎるのは、日本経済に大きな負担を強いることになる。日本はCO2排出大国である米国と中国の行動に合わせて、方針を決めることが重要である。
環境省によると、合意の賛同国・地域は、条約を批准した193カ国・地域のうち108カ国・地域で、世界全体の二酸化炭素排出量の8割以上を占める。しかし、4割以上の締約国が何の意思も示していない。残念ながらどの国も、地球環境より国益優先なのだ。ポスト京都議定書は、まだまだ不透明だ。
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