ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

リンクの外のものがたり

2013-08-05 23:28:00 | 日記
みなさんこんばんは。虹川です。
大変ご無沙汰しております。

いつもここをサボる口実として仕事のせいにしてましたが、実は会社が潰れました(涙)。
それはそれで色々あったのですが、ありがたい事にどうにか新しい仕事にありつきまして、なんだかんだで生活が落ち着くまでちょっと時間がかかってしまった事がひとつ。

もう一つは、今回、もう一度だけフィギュアを取り巻くメディアというか広告業界の動きについて書いておきたいなと思った訳ですが、こういう事を書くと必然的に一部のスケーターを非難する形になる訳で、正直、例え嫌いなスケーターであっても、ネガティブな事を書くのは気が重い訳で、なかなか筆が進まなかったりしたせいもある訳です。

それでも何でそんな事を書くかというと、広告業界って普通の人には分からない業界だから、多少なりとも知ってる人間が何か書く事に意味があるのかなと思った訳なんですが…これがさっぱりまとまらなくてですね。

どうしようかなと思ってた時に持ち上がったのが安藤美姫ちゃんの出産騒動。さすがにびっくりしましたが、彼女を取り巻くメディアの報道を見ている内に、前からモヤモヤ感じていた所がちょっと自分の中で整理されて来ました。
ので、そういう事をちょこっと書けたらなと思います。

以上、長い前置きでした。

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最近、フィギュアスケートを見る視点が、大きく分けて2パターンあるんじゃないかと思いました。
一つは、スケートそれ自体を見る「ファン」の視点。
そしてもう一つは、フィギュアスケートを取り巻く「ものがたり」を消費する視点。

日本のスポーツマスコミは常に後者の視点で語っているから、前者の視点で見ているファンが違和感を感じる事になるんじゃないかと考えまして。

以前に書いたように、マスコミは報道機関である以前に広告媒体=メディアとしての体質を持っています。
「ものがたり」を作り、「ものがたり」の主役に祭り上げられた選手をCMタレントととして売れば、スポンサーからお金を引っ張る事ができる。
では、スポンサーに利益をもたらし、広告効果をあげ、更なる儲けに繋げるために、メディアは何をやるべきか?「主役」を引き立てるために話を盛ればいい。本来広告枠ではない、番組本体のニュースやバラエティで、その気になればいくらでもそういう事ができるのです(本来、ステルスマーケティングってそういう意味じゃないかと思うんですが)。

彼らは少数の「ファン」ではなく、大多数の、フィギュアなんてどうでもいいと思っている「消費者」を相手にしています。
特にフィギュアは、野球やサッカー等のメジャーなスポーツと違って経験者が少ない。世の中のほとんどの人は、まともにフィギュアのルールなんて分からない。
そんな分からない、さして興味もない人たちに、メディアは分かりやすい「ものがたり」を提供する。そして多くの人たちが、試合の中継ではなくスポーツニュースやワイドショーを見て、そこで語られる「ものがたり」を消費して、フィギュアを知ったつもりになっている。

更にフィギュアは実際の競技の上でも、点数を「調整」する事が可能である…というとても残念な事実もだんだん見えて来ましたし。

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女子の方で言うと、2005年のGPFで当時15才の選手が優勝してからというもの、メディアが「天才少女」ともてはやすそのCMタレント選手以外はほとんどまともに扱って貰えないという状況が今もって続いています。
(例外はトリノの荒川さんくらいでしょうか。彼女の金メダルは当時のメディアにとっても救世主だったから、流石に文句は言えなかったんでしょうね)
彼女のファンの言動を見ていると、スケートではなく「リンクの外のものがたり」を消費する人がどういう観点を持っているかよく分かります。目はスケートを見ていても、あくまで「ものがたり」の挿絵でしかないから、「ものがたり」の設定に合わない事実はなかった事にする。彼女以外の選手が好成績を上げる度に採点に異論が唱えられるけど、私の目には、「不世出の天才○○ちゃんに比べれば他の選手は全員雑魚!」という設定ありきで、その設定に合わせる為に無理矢理いちゃもんを付けているようにしか見えないのです。
もちろん私も、フィギュアの点数がすべて公正に採点されていると思っている訳ではありません。でも個人的に、女子の採点で一番違和感を感じるのは○○ちゃんのPCSなんですよね。

一方、男子。
私は大ちゃんが「ものがたり」の主役として扱われるのを、ほとんど見た記憶がありません。
まだフィギュアに興味の無かったトリノシーズン、興味がないなりに、「マスコミは(例え「自称」であっても)「有名戦国武将の子孫」という分かりやすい「リンクの外」の売りのある選手にオリンピックに出て欲しいんだな」と感じてました。
大ちゃんは一応イケメン扱いされてたけど、言外に「見た目だけで中身はない、ミーハーな女がキャーキャー言ってるだけ」みたいなバカにしたニュアンスがうっすらあって、ファンだと公言しにくい空気があったような気がするんですよね。

なのに何故私がそんな大ちゃんのファンになったのかというと、「リンクの中」を見たからです。
TOIでひっそり放送されたノクターンにどっぷりハマり、これは生で見てみたいと出かけたFOIのロクサーヌに打ち抜かれて早7年…。
飽きっぽい私がずっと応援を続けて来たのも、彼が「リンクの中」でのパフォーマンスにおいて、ずっと私の期待を裏切らなかったから。

大ちゃんはよく自分で「ちやほやされたい」「目立ちたい」というけど、その為に最も大切なのはリンクの中でのパフォーマンスだときっとわかっている。ファンサービスや話題性ではなく、スケーティングと表現の質そのものを地道に磨き挙げてこそ、ファンの黄色い声援も飛ぶのだとちゃんとわかってくれてると思うんですよね。

大ちゃんが「主役」扱いされたと言えば、バンクーバーの後くらい。「大怪我からの復活」というリンクの外分かりやすいストーリーがあった時でした。
でもファンにして見れば、「そんな感動ストーリーはいらない」というのが本音でしたよ。
本当に心配したし、もう氷の上には帰って来ないかも知れない(実際その可能性も十分にある怪我だった)と思って毎日悶々としてましたし。
何より、彼のパフォーマンスが見られないシーズンは辛かった。もしもう一度時間を巻き戻してやりなおせるなら、バンクーバー後にメディアにちやほやされる事よりも、2009-10シーズン無事に過ごしてくれる方がずっと良かったと思っています。

でも「怪我でヒーローになりなくない」なんて言っちゃう選手がいるんですよね。そもそも「ヒーロー」という言葉自体が「リンクの外のものがたりのヒーロー」な訳で、そういう発言が出てくる事自体、逆説的にそういう、リンクの外でヒーローになる事を意識しているんだろうなと思ってしまう。
彼に取っては大ちゃんは、「怪我からの復活」というリンクの外の「ものがたり」でヒーローになったという認識なんでしょう。
そしてそんな彼が、めでたく日本男子界における、メディアによって作られたリンクの外の「ものがたり」のヒーローになりました。

正直、多くの方が犠牲になり、今なお苦しんでいる被災者の方も多い東日本大震災を、こういう下世話な話の引き合いに出したくはないのですが。
リンクの外の「ものがたり」を求めている人たちにとって、これほどの素材はそうそうないのも確かです。

「ものがたり」の消費者たちは数多いけれど、そのほとんどはリンクへ足は運びません。
ワイドショーやスポーツニュースやネットを見れば、メディアが分かりやすく脚色した情報を、タダで手っとり早く消費する事ができるんだから、高いお金を払ってわざわざ出かける必然性はありません。
リンクへ実際に見に行くとなると、テレビのような派手な煽りや脚色は意外とできないもんです(最近はそれでも、何とかして脚色しようとしてるけど)。
特定の選手の演技ばかりリピートできる訳でもなく、バックヤードの映像や煽り映像もなく、実況や解説の声も聞こえないからジャンプの種類も判定も観客が自分で見分けなければわかりません。
(テレビに比べれば)粛々と「リンクの中」で繰り広げられる演技を見るしかないんですね。
そしてそういう状況では、一瞬で終わってしまうジャンプより、ステップスケーティング演技表現に秀でている選手の方が楽しめます(もちろん、ジャンプが決まれば盛り上がりますが)。
そんな「リンクの中」のスケートを楽しみたいと思うファンなら、高いチケット代を払ってでもリンクに足を運ぶでしょう。

メディアにとっては、テレビなどのマスメディアに広告を載せて儲ける事が目的だから、当然テレビの向こうの消費者に売る事を考える。
でも彼らはスケートのファンではないし、スケートにお金は落とさない。
そして現在のスケート連盟やその関係者は、メディアの言うまま、一緒になってせっせと「リンクの外のものがたり」を作ろうとしているように見えます。
スケートの専門家のはずなのに、スケートの方を見ていないように見えます。やり手のビジネスパーソンにでもなったつもりで、海千山千、でもスケートの事なんて何も分かってない業界人の手のひらで良いように転がされてるように見えるのは私だけでしょうか?
何か私、アイスクリスタルとか連盟主体のショーを仕切ってる真壁って人の言動見てると、昔の会社の上司を思い出すんですよね。ビジネスセンスもクリエイティブのセンスも皆無なんだけど、自分ではどっちもあると思ってるような人だった。先日アイスクリスタルの延長のお知らせが来てたけど、年会費払う気になれません…。ああいうセンスが感じられない人をステークホルダーにしたくない。

スケート連盟の人も、自分たちが「ものがたり」の主役に推してるスケーターの人気が思うように出ないからってファンに八つ当たりする前に、一度先入観を捨ててきちんと「スケート」を見れば良いと思います。自腹切ってチケット買ってでも見たい演技か、どうか。
自分たちがスケートの専門家だというプライドが本当にあるなら、広告代理店がしたり顔で持って来る企画書を、「お前等スケートが分かってない」って突き返すくらいの気概が欲しいと思います。今のスケート連盟からは、そういう気概は全く感じられません。

***

スケートをめぐる報道のあり方に疑問を感じたら、それが「リンクの外のものがたり」なのか「リンクの中の現実」なのかという見方をするのもひとつの手かも知れません。
今回単純に「ものがたり」の消費者と「スケート」のファンという分類をして来たけど、実際には多くの人は、その両方の要素を持っている人が大多数だと思います。
それでも私はできるだけ、リンクの中に主軸を置いて見て行きたいと思います。
だって私がフィギュアを見るようになったきっかけは、リンクの中で踊る高橋大輔なのだから。

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拍手コメントへのお返事。
余りにも間が空いちゃったので、読んで頂けるかどうか謎ですが…すみません。

■2013/4/9 23:40
私に取っては、めずらしく近い場所で開かれるショーという事でありがたく見に行っていますが、もちろん現地に行かれない方も気持ちは同じだと思います。
被災地への支援というのも大きく2通りあって、災害が起きた直後の緊急を要する援助は、訓練を積んだ人やボランティアのノウハウを持っている人でないと難しい部分もあります。
でも一旦「緊急事態」が収束しても、復興への道のりはずっと続いていく訳で(神戸だってまだ、すべてが終わった訳じゃないのです)。そこで息の長い支援を続ける事こそ、私たち何の特技もノウハウもない素人ができる事…だと思うんですよね。
だから大ちゃんが、「続けて行く」という約束を忘れずに毎年(その年ごとに色々大変な状況がありながらも)続けていてくれる事、本当に有難いし、この人はちゃんと分かってる人だと思います。

■2013/4/14 10:24
なおさんこんにちは。いらっしゃってたんですね。
大ちゃんは本当に、他人の気持ちのわかる人なんだろうなーと思います。毎年このチャリティーイベントからは、彼の暖かい人柄を感じますね。
そしてなおさんもスケートをされてるんですね。
自分でやるとしみじみスケートの難しさを実感すると共に、「上手い人」ってこういう事なんだなっていうのがちょっとずつ分かって来て、見るのも楽しくなって来ますね♪
私は本当にヘタクソでお恥ずかしいですが(汗)どこかのリンクで会ったらよろしくお願いします(汗)