文庫にして全18巻。
友人がGWに持って来たヤツを、今回の帰省でやっと読破しました。
一応ネタバレありですが、元が超有名な話なのでネタバレも何もないかも。
中国の三国時代を舞台に、曹操(曹孟徳)の人生を描いた漫画です。敢えて、三国志漫画とは言いたくない感じ。
日本で「三国志」と言えば、「三国志演義」に基づいた作品が多いけど、これは講談と史書を元に創られた「小説」であって、書いてあることは必ずしも史実ではない。
で、この「蒼天航路」は「史書」よりの漫画だと友人は言ってたけど、その割に史実にはない演義オリジナルエピソードの「美女連環」とか「桃園の誓い」エピソードもしっかり入ってます。
決して「史書」に忠実な訳でも「演義」を否定してる訳でもなくて、それら諸々の資料を元に、独自の「三国時代ストーリー」を再構築しようと試みてるのかな。壮大ですね。
でもキャラクターがすごく漫画的に強烈にデフォルメされてて、あんまり真面目な歴史モノとしてはおススメできないかなあとは思いました。でも、デフォルメされているお陰で漫画としては面白かったし、あと、やたら登場人物が多い「三国志」モノの中でも「あんまり」誰が誰だか分からなくなるということが起きにくかったので、個人的にはOKです(やっぱり多少は混乱しましたけど)。
でもまあ、友人が「正史」っぽいと感じた理由も分かります。
「演義」では徹底して、蜀の劉備をヒーローに、魏の曹操を悪役に描いている。それに対して「蒼天」は曹操をヒーローとして中心に据えているという点で、あんまり「演義」っぽくは感じられないかも。
でも、曹操をヒーローとして描くこと自体は、それほど斬新には感じられなかったですね。元々日本人には曹操好きが多そうだし(日本人に織田信長が人気だ、と中国人に言うと、中国人は、「えー、だって信長って曹操と同類じゃん」と応えるという話をどっかで読んだんですがどこだったかな)。
何か、劉備の「仁」とか「徳」っていうのは、漠然としてて分かりにくい。その点曹操はすこぶる頭がキレる。理知的で論理的。
陳舜臣は理性の人だから、彼の書く三国志も曹操びいきだったと思うので、実は私はそんなに曹操が虐げられてるとは思ってなかったり。横山光輝の三国志でも、曹操は悪役っていうよりは、主人公のかっこいいライバルってイメージじゃなかったでしたっけ?
そんな訳で、曹操くんがヒーローの漫画なんですが。
が。
意外なことに、この漫画の劉備(劉玄徳)がえらくかっこ良かった。
だらしなくていい加減だけど憎めない。飄々としてつかみ所がなく、誰でも受け入れ、水のように相手の心に入って来る、とてつもなく懐の広い男。
「演義」ベースの聖人君子な優等生くんより、はるかに生き生きとして魅力的な劉備だと思ってしまいました。「王道」とはこういうことかと。
頭の良い人が、その才覚を以て権力の座に着くことを「覇道」と言います。普通はこういう人が「英雄」とされますが、中国ではそうではない。
「覇道」は所詮、人の道なのです。天の意に背いて、人間が勝手に権力の座に着くことは、決して褒められたことではないのです。
曹操はこのタイプ。徹底した頭の良さで、自らの知略によって一国の主人へと上り詰めた。
しかし中国では、一国の長というものは本来、「天によって任じられた者」にしか許されないものなのです。
それが「王道」。知謀や知略を駆使しなくても、その仁と徳により、天の方からその者に位を与えるのが理想とされている訳です。
劉備自身、最初は大望は抱いていないし、増して権力を得るための具体的なプランなんて持っていない。なのにまるで天が彼を導くように、運命が彼を駆り立てる。人が集まり、人が彼を望む。
天に望まれた者。王道を行く者。あらゆる人を受け容れる、大いなる「空」。
劉備という人が「英雄」である所以を、これほど分かりやすく伝えてくれた作品はなかったなーと思いました。
それに対して曹操は…確かにかっこいい。素晴らしくキレる頭、人並み外れた剛胆な精神力と実行力。過去や因習に捕われない斬新で合理的な発想の数々。その上芸術的センスも良くて詩も上手なスーパーマンなんですが…どう見てもフォローのしようのない「悪事」まで、「それも全部分かった上でやってるんだよ!」的なフォローが入るのがちょっと見てて苦しかったです。
***
まあ、結局曹操も劉備も志半ばに倒れた上に国自体も結局長続きせず、最終的に統一国家(晋)を建てたのは曹家の家臣の司馬懿(司馬中達)の一族だったというのがオチなんですけどね。
そこまで行かずに、曹操が死んだ所でこの漫画は終わります。
個人的に、終盤ちょこちょこ出て来ては色んなことを呟く、ヒッピー兄ちゃん風の何晏が面白かったです。
おまけ。
一応この漫画のネタバレなので要反転。
最後の最後、あれだけ長年連れ添って尽くして貰った卞玲瓏を差し置いて水晶かよこの男は!と思ったのは私だけですか?
友人がGWに持って来たヤツを、今回の帰省でやっと読破しました。
一応ネタバレありですが、元が超有名な話なのでネタバレも何もないかも。
中国の三国時代を舞台に、曹操(曹孟徳)の人生を描いた漫画です。敢えて、三国志漫画とは言いたくない感じ。
日本で「三国志」と言えば、「三国志演義」に基づいた作品が多いけど、これは講談と史書を元に創られた「小説」であって、書いてあることは必ずしも史実ではない。
で、この「蒼天航路」は「史書」よりの漫画だと友人は言ってたけど、その割に史実にはない演義オリジナルエピソードの「美女連環」とか「桃園の誓い」エピソードもしっかり入ってます。
決して「史書」に忠実な訳でも「演義」を否定してる訳でもなくて、それら諸々の資料を元に、独自の「三国時代ストーリー」を再構築しようと試みてるのかな。壮大ですね。
でもキャラクターがすごく漫画的に強烈にデフォルメされてて、あんまり真面目な歴史モノとしてはおススメできないかなあとは思いました。でも、デフォルメされているお陰で漫画としては面白かったし、あと、やたら登場人物が多い「三国志」モノの中でも「あんまり」誰が誰だか分からなくなるということが起きにくかったので、個人的にはOKです(やっぱり多少は混乱しましたけど)。
でもまあ、友人が「正史」っぽいと感じた理由も分かります。
「演義」では徹底して、蜀の劉備をヒーローに、魏の曹操を悪役に描いている。それに対して「蒼天」は曹操をヒーローとして中心に据えているという点で、あんまり「演義」っぽくは感じられないかも。
でも、曹操をヒーローとして描くこと自体は、それほど斬新には感じられなかったですね。元々日本人には曹操好きが多そうだし(日本人に織田信長が人気だ、と中国人に言うと、中国人は、「えー、だって信長って曹操と同類じゃん」と応えるという話をどっかで読んだんですがどこだったかな)。
何か、劉備の「仁」とか「徳」っていうのは、漠然としてて分かりにくい。その点曹操はすこぶる頭がキレる。理知的で論理的。
陳舜臣は理性の人だから、彼の書く三国志も曹操びいきだったと思うので、実は私はそんなに曹操が虐げられてるとは思ってなかったり。横山光輝の三国志でも、曹操は悪役っていうよりは、主人公のかっこいいライバルってイメージじゃなかったでしたっけ?
そんな訳で、曹操くんがヒーローの漫画なんですが。
が。
意外なことに、この漫画の劉備(劉玄徳)がえらくかっこ良かった。
だらしなくていい加減だけど憎めない。飄々としてつかみ所がなく、誰でも受け入れ、水のように相手の心に入って来る、とてつもなく懐の広い男。
「演義」ベースの聖人君子な優等生くんより、はるかに生き生きとして魅力的な劉備だと思ってしまいました。「王道」とはこういうことかと。
頭の良い人が、その才覚を以て権力の座に着くことを「覇道」と言います。普通はこういう人が「英雄」とされますが、中国ではそうではない。
「覇道」は所詮、人の道なのです。天の意に背いて、人間が勝手に権力の座に着くことは、決して褒められたことではないのです。
曹操はこのタイプ。徹底した頭の良さで、自らの知略によって一国の主人へと上り詰めた。
しかし中国では、一国の長というものは本来、「天によって任じられた者」にしか許されないものなのです。
それが「王道」。知謀や知略を駆使しなくても、その仁と徳により、天の方からその者に位を与えるのが理想とされている訳です。
劉備自身、最初は大望は抱いていないし、増して権力を得るための具体的なプランなんて持っていない。なのにまるで天が彼を導くように、運命が彼を駆り立てる。人が集まり、人が彼を望む。
天に望まれた者。王道を行く者。あらゆる人を受け容れる、大いなる「空」。
劉備という人が「英雄」である所以を、これほど分かりやすく伝えてくれた作品はなかったなーと思いました。
それに対して曹操は…確かにかっこいい。素晴らしくキレる頭、人並み外れた剛胆な精神力と実行力。過去や因習に捕われない斬新で合理的な発想の数々。その上芸術的センスも良くて詩も上手なスーパーマンなんですが…どう見てもフォローのしようのない「悪事」まで、「それも全部分かった上でやってるんだよ!」的なフォローが入るのがちょっと見てて苦しかったです。
***
まあ、結局曹操も劉備も志半ばに倒れた上に国自体も結局長続きせず、最終的に統一国家(晋)を建てたのは曹家の家臣の司馬懿(司馬中達)の一族だったというのがオチなんですけどね。
そこまで行かずに、曹操が死んだ所でこの漫画は終わります。
個人的に、終盤ちょこちょこ出て来ては色んなことを呟く、ヒッピー兄ちゃん風の何晏が面白かったです。
おまけ。
一応この漫画のネタバレなので要反転。
最後の最後、あれだけ長年連れ添って尽くして貰った卞玲瓏を差し置いて水晶かよこの男は!と思ったのは私だけですか?