NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」
真田丸が面白かったので三谷脚本にも期待できるし、久しぶりに戦国でも幕末でもない時代で新鮮味あるよね♪ と思って見出したは良いものの。
新鮮通り越して私この時代よくわからんわ。
…と思ったので慌てて買って来て読みました。
大河ドラマが決まってから慌てて編集して出して来たものじゃなくて、前からあったやつを今この時と掘り出して来たような本がないかな、と探した結果、2011年に出版した本を改題して文庫版に再編集したこの本が良いんじゃないかと思ったのです。
全5章のうち、1・2章が北条義時、3・4章が北条時宗に焦点を当てていて、第5章はエピローグ。
なので、大河ドラマのネタ本としては前半1・2章を読めばOKです(後半も面白かったけど)。
著者はこの時代を専門とする歴史研究者のようですが、この本は論文のように難しい訳ではなく、寧ろ「ちょっとおふざけが過ぎやしませんか?」と言いたくなるような親父ギャグくだけたノリなので、専門的な書物はちょっと…と思う私にも安心です。
何よりも、丁寧に説明する所は紙面を割いてじっくりと、そうじゃない所は思い切りよくドンドン飛ばすメリハリっぷりが気に入りました。
お陰様で、ドラマにわらわら出て来て誰が誰やら、な坂東武者たちの立ち位置や力関係、人間関係なんかを全体的にうっすら把握する事に成功しました。
そしてこの本、ものすごい勢いでドラマの今後の展開をネタバレしています。
史実だから当たり前っちゃ当たり前なんですが、今ドラマで見えている仲良し北条ファミリーも、ゆかいな坂東武者の仲間たちもいずれは…と思うと複雑です。
ていうか、先々どうなるか分かってるからこそ、敢えて狙って仲良しファミリーや愉快な仲間たち描いてるんだろうな、三谷幸喜。
この脚本家、コメディタッチな作風でぱっと見奇を衒うイメージがありますが、実はかなり基本に忠実な手堅い作劇をする人だと思います。
最後のオチから逆算して、そこへ至る筋道を入念に引いて置くことで「歴史」を「ドラマ」に変える、という割と職人芸のようなことをやっている。
すごくわかりやすいのが、第5回「兄との約束」
「坂東武者の世をつくる。そのてっぺんに、北条が立つ。そのため、源氏の力がいるんだ」
これ、視聴者に対してすごく親切に、「このドラマは最終ここに向かっていますよ」と示してくれるセリフだと思います。
源頼朝が武家政権である鎌倉幕府を打ち立てるが、直系の将軍は三代で途絶え、北条家が執権として実権を握るのが史実。
そこから逆算して、序盤のこの時期にこのセリフを仕込んでおく事で、主人公が兄から受け継いだ志を果たさんと歩んで行くという物語が出来上がるのです。
先日の第15回では上総広常の最期が描かれました。ロスを通り越して追悼会が開催されそうな勢いに「良いキャラだったからなあ…」と思いかけてふと気づきました。多分逆だと。
ここで謀反の嫌疑により討たれるという史実を、ドラマの中でのターニングポイントにするため、敢えて狙って魅力的なキャラクターとしてここまで描いて来たのではないかと思います。
「執権」を読めばわかるけど、広常が味方になった時の交渉の場に義時がいたという記録はないみたいなんですよね。でも「いなかった」とも書かれていないので、そこは創作で空白を埋める形で義時との間に接点を作り、その後もちょこちょこ絡んでみんなが広常大好きになったところで事件が起きる訳ですよ。
上手いやり方だと思うけど、やるせないなあ…。
ちなみに著者の方には、義時の人生からは「もう帰っていいですか?」という心の声が聞こえるそうです。大河ドラマを見ていると、小栗旬の声で脳内再生余裕です。
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