滑走屋を観る前から、実は私は感動している。という話。
私がスケートのショーを初めて生で観たのは2006年。記念すべき第一回のフレンズオンアイス。
あれでEX版ロクサーヌの初演を観て激しく衝撃を受けて今に至る訳ですが。
当時からずっと思ってた事がありました。
アイスショーって、基本試合のエキシビジョンをショーアップしたような形式だけど、そこにこだわる必要はないんじゃないの? スケートってもっと色んな事ができるんじゃないの?
クリマスオンアイスで、「クリスマス」という共通のテーマを設けて一つのショーにするのはその中では面白い試みでした。
その辺りからプロのミュージシャンを呼んでの生歌・生演奏コラボも増えて来ましたが、コラボのプログラムは特にアマチュアスケーターだと、1シーズン滑り込んだプログラムに比べて即席感が否めない事がちょくちょくあるのも正直な所でした。
そしてもう一つ新しい動きとして「氷艶」が誕生。ショーの中で芝居仕立てのグループ演技が入る事は元々ありましたが、本業の役者さんと交えて丸ごと一本のお芝居にするのは過去余り例がなかったんじゃないかと思います。
これは先代市川染五郎さん(現在は松本幸四郎さんだけど、ここは当時の名前で呼びたい)がディズニーオンアイス観ながら「これの歌舞伎版できないかなー」などと妄想してたのもきっかけの一つと聞いてます。
先代染五郎さんは他にも数々の妄想を形にしているアイデアマンでもいらっしゃるようですね。
この成功があって(だと思うけど)、次に出てきたのがいわば「氷上の2.5次元」。
残念ながらコロナの影響で頓挫してしまったセーラームーンとか、昨夏大盛況に終わったワンピースとか。
そして今回の「滑走屋」ですよ。
やっぱり大ちゃんは、私が考えるくらいの事はとっくに先に考えていた。
フレンズオンアイスの中の1プログラムを任される所からスタートして、東日本大震災を受けて、本人曰く「発起人の一人」として手作りでチャリティーショーを立ち上げ、そしてアイスエクスプロージョンで少しずつ自分の見せたい世界を前面に出しながら、色んなアイデアを温めていたんだなあと思って、しみじみ感動しています。
海外ではわかりませんが、日本ではショーを本業としている(はずの)プロスケーターよりも、試合が本分であるアマチュアスケーターの方がショーでも主役になることが多くないですか?
理由もなんとなくわかりますよね。
だってアイスショーはテレビでやらないというか、やっても目立つ所では余り流れない。試合の方が大きく扱われるし、大きな試合はニュースに取り上げられて何度も演技が流れたりする。
結果的に、ショーにしか出ないプロよりも、試合で活躍するアマチュアの方が広く認知されるしお客さんも呼べるから、ショーの方でもアマチュアが目出つという箏なのでしょう。
私も昔、小さいですがイベントに携わる機会があったとき、その道のプロの方に言われたことがありました。
人を呼ぶために最も手っ取り早くて確実なのは、有名人を呼ぶことだと。
でもその流れも少しずつ変わって来ているのかも知れません。
大ちゃんは、一度は引退してテレビやなんかの仕事もしながらショーに出ていた。
そこからもう一度現役に復帰する理由の一つに、技術を衰えさせないことがあったと思います。
昔はショーに出てお金を貰うと試合に出られないから、試合に出るアマチュアとショーに出るプロできっちり線引きがされていた。
でも大分前からアマチュアスケーターがショーに出られるようになっています。試合がメインだから、彼らが中心のショーはエキシビションの延長のようになりがち。でも試合に向けて滑り込んでいるのでジャンプなどのクオリティは高い。
一方でプロは、アマチュア時代に比べると練習時間の確保が難しく、技術の維持が中々できない。
大ちゃんはそこに危機感を感じていたのではないかと思います。
試合じゃないから手を抜いて良いのではなく、試合に出られるくらいのクオリティを、ショーだからこそ見せなければいけないと。
彼は名前でお客さんを呼べるスケーターだけど、名前だけで来て貰って良しとはしない。「観に来て良かった」と思わせる中身を見せないと次に繋がらないと分かっている。
シングルで2年、アイスダンスで3年。プロでありながらアマチュアみたいな、「生徒」としてコーチに着いて師事しながらショーに出るという新しい在り方だったのじゃないかと思います。
そして今回。
何より素晴らしいなと思ったのは、客寄せのためではなく、ショーの中身のためにアマチュアのスケーターたちを採用した事だと思います。
「大きな試合で活躍し、顔と名前が知られてお客が呼べるトップスケーターじゃなくても、良いものを持っている子がたくさんいる」
以前から何度か口にしてきた事を実行に移したんだなと思いました。
今回、低予算でやってみようという目的にも合致したのだとは思いますが、それだけではない。こういうショーにしたい、だからこういうスケートをするスケーターを集めたい、そういう意図がちゃんと見えるのが素晴らしい。
「アイスショーとはこういうもの」から少しずつ脱却し、「スケートでこういう事ができるんじゃないかな」というアイデアを大ちゃんは色々持っているような気がします。
その一端がいよいよ観られるという事で、本当に楽しみな幕開けです。
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