水素がエネルギーの主役に躍り出るのかどうか。川崎重工業の播磨工場(兵庫県)で、壮大な実験がスタートした。
産業用としては、世界初となる水素液化プラントが始動したのだ。
くしくも、その実証プラントを報道陣に初公開したのは、11月19日。
トヨタ自動車が世界初となる市販の燃料電池車(FCV。水素と酸素を化学反応させて作った電気で走る車)、「MIRAI(ミライ)」を発表した翌日だった。
トヨタが仕掛ける“水素キャンペーン”に便乗した格好だ。
この実証プラントでは、(石炭や天然ガスから取り出される)常温・常圧の気体水素をマイナス253度に冷やして「液化水素」を製造できる。液化能力は1日当たり5トンで、FCVに充填すると仮定すると1000台分に相当するという。まずは、この水素液化プラントを素材関連の国内企業向けに売り込み、商用化する。
FCV水素価格を低減
将来的には、さらに野心的な計画もある。豪州の褐炭(水分を大量に含んだ安価な石炭)などの未利用資源から水素を取り出し、今回の実証プラントの性能を発展させて液化水素を製造、それを日本に専用タンクローリーを使って大量に輸送しようというものだ。
川崎重工の強みは、LNG(液化天然ガス)運搬船などで培われた輸送技術を軸に、水素の製造から輸送、貯蔵、利用までのサプライチェーンの全ての工程における技術を蓄積している点にある。
とりわけ、「常温・常圧水素を約800分の1に圧縮して運べるため輸送効率が高い上、水素の純度が高くFCV向き」(水素の専門家)である点が評価されている。
トヨタなどの自動車メーカー、水素ステーションを運営するエネルギー企業もまた、川崎重工の技術に注目している。彼らの着眼点は、実際に水素価格がどこまで下げられるのか、その一点に尽きる。
11月14日、水素ステーションを運営している岩谷産業が、FCVの燃料用の水素価格を1キログラム当たり1100円、すなわち、1N立方メートル(ノルマルリューベ。0度1気圧というガスの標準時の体積を表す単位)当たり100円とする、と発表した。これはハイブリッド車の燃料代と同等の水準であり、現在流通している水素が1N立方メートル当たり130円であることを勘案しても、かなり挑戦的な価格だ。
川崎重工では、自社のサプライチェーンを利用して水素を大量輸送すれば、日本へ運搬するまでの水素コスト(原価)は、2025年時点には1N立方メートル当たり30円、50年時点には同20円まで低減できると踏んでいる。西村元彦・川崎重工水素プロジェクト部長は、「実現できれば、岩谷産業が提示した水素価格を格段に下げられる」と自信を見せる。川崎重工の技術革新がFCV普及の鍵を握っている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)